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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第三章 帝国編

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第120話 奇妙すぎる話じゃのう

「ふん。気付いたか?

 獣人に身分証はねぇ。つまり帝国の臣民じゃねぇのさ」


「まぁ、例えば俺たち冒険者は依頼を受けてそういう仕事をするよな?」


「確かにわしも地下水路の掃除をしたのう」


 ミンテが言ったので、わしはそう答えた。


「この街じゃ、冒険者がいない。

 というよりギルド自体がない」


「そんな街があるんですか?」


 アリアがサーシャへ聞く。


「ル、ルクセリアは街の景観のため、ギルドの招致をしていないであります。

 なんなら断っていたでありまして……」


 サーシャは先ほどの話との繋がりに、小さく答えた。


「まぁ、そういうこった。

 その分の労働を低コストで獣人に回してんのさ」


「それは断ることは……」


 アリアがそう言うと、ウーガが少し言葉をキツくして言う。


「断ってどうすんだ? 獣人が嫌われている街じゃ満足に稼げねぇぞ。

 街からは出られない。仕事にはありつけない。

 じゃぁそんな仕事でもやらねぇと生きていけねぇのさ」


「ご、ごめんなさい」


 ウーガの話にアリアが謝る。


「ま、王国のあんたに言っても仕方ねぇがな。

 こういう現実なんだよ」


 声色を緩めて、あくまで諭すようなトーンでウーガが、アリアに言った。


 アリアは申し訳なさそうな表情をしておった。


「で、それがおぬしらがここにいる理由に繋がるのか?」


 わしがミンテにそう聞いた。


「俺らは依頼で帝国まで来ていたんだがな。

 依頼が終わって王国に帰ろうとしたら、バリスの街で獣人が暴力を振るわれてたからな」


 サーシャが顔を上げてミンテの方を向く。


「助けに入ったら、帝国の奴がえらい剣幕でな。

 獣人を庇うと重罪だのなんだの変ないちゃもんをつけてきやがった」


「あ! あなた方でありましたか!」


 サーシャが立ち上がってそう叫んだ。


「あん? 俺たちが、なんだ?」


「い、いえ……なんでもないであります」


 サーシャはそう言って、座り直した。


 バリスの役人としての立場と、獣人のハーフとしての立場。


 そして、このルクセリアの現状を知った今、サーシャの胸中は複雑な状態じゃろう。


「まぁ、その後バリスの役人だか、軍人だかから事情聴取を受けたがな。

 俺たちが王国の冒険者だと知ると、その場は厳重注意として終わったんだが」


 ミンテは少し遠くにいる獣人の方に視線をやった。


「なんか一回庇っちまったら放って置けなくてな。

 そのままこの街に保護をしながら一緒に来た」


「あれ? ルクセリアは獣人が入領出来ないんじゃ」


 アリアがそう言うと、今度はウーガがそれに答える。


「仲間としてこういう言い方はしたくねぇんだが」


 ウーガはそう前置きをした後、続けた。


「こいつが助けてくれたやつは、元々この街の労働力だ。

 今は新たに獣人の入領は出来ねぇが、元々いたやつは逆にさっさとこの区画に連れ戻されんのさ」


「そんな、帝国がそんなことを……しているで、ありますか……」


 サーシャはもう、言葉に力が入らんようになっておった。


「まぁ、結果ここに来たらこの有様だろ?

 しかも低賃金で働いて、金をもらっても満足な飯は買えねぇらしい。

 余った野菜や、残飯みてぇなもんを売りつけてきて、それを食うらしいぜ?」


「それは……」


 アリアが何かを言おうとしたが、何を言っても仕方がないと思ったか……。


 先ほどのウーガに言われた言葉を思い出したのか、それ以上は言葉にするのを躊躇っておった。


「まぁ、なんつーか偽善かもしれねーが。

 俺らはせめてまともな飯だけでも、と思ってよ。

 表で飯を買って、ここに運んできてんのさ」


 ミンテはまわりを見渡してそう言った。


 質素かも知れぬが炊き出しのような飯や、普通のご飯を食べている獣人がいるのが分かった。


「あんたらには感謝してるぜ」


 ウーガがミンテたちにそう言った。


「よせ、やりたくてやってるだけだ。

 それに前も言ったが、今だけだ。

 俺らもいずれは王国に帰るからな」


 ミンテは少し申し訳なさそうに言った。


「少しだけでもいいのさ。希望が見えればな」


 わしはそこまで聞いて、顎に手をやる。


 酷い話と言えばそうじゃろうな。


 じゃが、視点を変える。


(役人からするとギルドを置かず、低コストで必要な労働力を作った……とも言える)


 我ながら人情味のない視点じゃと苦笑するが、そのまま続ける。


(重労働や汚れ仕事を獣人に押し付ける……その浮いた経費を街の見栄えや人族のインフラに回す)


 酷い見方ではあるが、上手いやり方ではある。


 じゃがひっかかるのは──


「そんな制度が一年前に突然……じゃと?」


 わしがウーガに問いかけた。


「まぁ正確な日にちまでは覚えてねぇ。

 こっちも今日まで生きるのに必死だったからな。

 でも多分そのくらい前だな」


 わしは顎をさする。


「奇妙じゃな……」


 わしは皆に聞こえるか聞こえないかの大きさで呟いた。


「奇妙?」


 ウーガの目が細くなる。


「普通、入領や出領のような地方だけでなく国に影響の出そうな制度の変更には時間がかかるもんじゃ。

 それが一年前に急に施行されておる」


 わしはサーシャを見てそう言った。


 わしの視線に気付いたサーシャは慌てて背筋を伸ばした。


「わわわ! えっとですね、あのですね!

 確かにそう言った人口流動が発生しそうな制度は国で決めて発布されるはずであります!」


「おぬしはルクセリアの入領や出領の制度変更についてバリスで聞いておらんかったのかの?」


 わしがそう聞くがサーシャは首を振った。


「ニクソン代官が聞いていたのかもしれませんが、自分は聞いたことがないであります!」


 サーシャの言葉を聞いて、わしは大きく頷いた。


「それがなんだってんだ?」


 ウーガはわしへの視線の鋭さを保ったままそう聞いた。


「サーシャはバリスの役人じゃ。

 普通、隣の街が出領の制度を変えておるのに、代官一人で止める情報とは思えん」


「え? どういうことでありましょう?」


 サーシャは分かっておらぬのか、そう聞いた。


 本当に、よく役人をやっておるな……。


「今まで隣の街から来ておったかもしれぬ獣人が、ある日を境にバリスへ来なくなるんじゃぞ?

 入領の連絡、獣人の行き交いや街中の流通、食事や道具の売り上げ……

 役人でないわしが挙げるだけでも、これだけの影響が出るような変更を代官だけに留めるのはありえぬ」


「そりゃ、確かに変だな」


 ウーガがそう言い、《三つ葉の盾》の面々も頷いた。


「つまり、制度変更が他の街に知られていない、と?」


 アリアが、そうわしに聞いてきた。


「全く知らせておらぬか、一部だけ知らせておるが……じゃな。

 合理だけ考えると、長年準備した計画ではなく、短い期間でルクセリアだけで制度変更を施行した。

 そう考えるのが自然じゃろうな」


「じゃぁ制度が変わったのは国じゃなくてルクセリアだけってことか」


 ウーガがそう言うと、わしは大きく頷いた。


「わしは王国の人間じゃから本当のところは知らぬ。

 じゃが、筋はとおる」


「じゃぁその奇妙ってのは?」


「おぬしも言っておったろう? 獣人としての労働力を求めた制度の変更じゃと」


 わしが言葉を強くしてウーガへ同意を促す。


 それに対し、ウーガは頷いた。


「制度変更がそれほど準備期間がない。

 獣人への労働の斡旋が早い」


 それが意味することは……


「短時間でそれだけの変化を実施する、その動きが奇妙……そういう意味じゃ」


「それは確かに変だな」


 わしが言い終わると、それぞれ神妙な顔つきになった。


 サーシャが特に、じゃが。


「まぁ、今考えたところで奇妙以外の答えは出てこん」


 わしが沈黙になりそうな空気を断ち切るように手を叩いてそう言った。


「まぁ、そうだな。

 話がえらく脱線しちまったが……街から出れねぇ理由は分かったか?」


 ウーガがアリアに向かってそう言った。


「あ、はい……すみません。

 その軽々しく色んなことを聞いてしまって……」


「いや、いい。少しキツく言っちまったが、他意はねぇ」


 アリアは素直に謝り、ウーガはそう答えた。


「色々分かった。ウーガとやら、恩に着るぞい」


 わしとアリア、そしてサーシャは立ち上がる。


 そして他の面々も立ち上がった。


「話し込んじまったな」


 わしはウーガに手を差し出すと、ウーガが握り返してきた。


「で、おぬしらは、まだしばらくここに居座るのかの?」


「あぁ、俺らの気が済むまでは……な」


 わしが《三つ葉の盾》に問うとミンテがそう答えた。


「あまり、ゼノスに心配かけさせ続けぬことじゃな」


 わしはそう言って笑った。


「まぁ、まだこの街にいて気が向いたら寄ってってくれ。

 何もないがな」


「その時は何か手土産でも持ってくるとするわい」


 ウーガが別れの言葉を言い、わしはそれに返した。


「また、機会があればな」


「おぬしも耐えて、生きておれ。

 無責任なことは言わぬ。

 じゃが、死んでは何も残らん」


 わしはそれだけウーガに言った。


「あぁ、分かってる」


****


 そしてわしらは裏街から表へ戻った。


 表の煌びやかな風景や道が光り輝いておった。


 じゃが、それは光が強すぎて何も見えない程じゃと感じた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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