第119話 見えない鎖のようじゃな
「む? どこかで会ったかの」
声をかけてきた三人組にわしはそう言った。
「ボニフさん、《三つ葉の盾》ではないでしょうか。
ほら、ラグナールから乗合馬車で護衛されていた」
「あぁ、おぬしらか」
アリアにそう言われ、わしは思い出して言った。
「覚えておいてくれて何よりだ」
あの時のリーダーらしき男が手を差し出したので、手を取り握手をする。
「俺がミンテで、こっちがロウド。
んでこっちの弓使いがネインだ」
リーダーと思われる男、ミンテがパーティーメンバーを紹介した。
「あん時は助かった」
弓使いのネインが、そう言って礼をした。
「そういえば、おぬしら。
ゼノンが心配しておったぞ」
わしはミンテに向かって言った。
「あー、そりゃわりぃことしたな……」
ミンテは頭をかきながら言った。
「なんだ、あんたら知り合いか」
横からウーガが口を挟む。
「あぁ、以前ちょっとな」
ミンテがそう言ったが、ウーガは「ふーん」と興味なさげに呟くとアリアの方へ顔を向ける。
「さて、ここならあんたの質問に答えられるだろう」
「え? あー、街から出られない理由、ですか?」
アリアは自分の質問を忘れていたようじゃが、すぐに思い出し聞いた。
「それか……まぁ俺たちがここに留まっている話にも繋がるか」
ミンテは話の流れを察知したのか、頷いておった。
「立ち話も何だから奥で話しましょうや」
ネインがそう言ったので、わしらは奥へと移動した。
「ここは、獣人族が住んでいるのでありますか?」
「住んでいる……か」
歩きながらサーシャが聞いた質問に、ウーガが眉を顰める。
「まぁその辺りも含めて説明してやる」
表情を固くして言ったウーガを見て、サーシャは顔を落とす。
「じ、自分は何も知らないであります……」
「他の街の役人がルクセリアの実情なんて知らねぇのは普通だろ」
それを見たウーガが、そう言って切り捨てる。
厳しい言い方ではあるが、ルクセリアの制度で恐らく厳しい立場のウーガからすると仕方がない態度かもしれぬな。
アリアはサーシャの肩をそっと触り、慰めようとするも言葉が見つからず口をキュッと噤んだ。
「すまんが、まともな椅子とかはねぇ」
ウーガが立ち止まったあと、振り返り、わしらへとそう言った。
「いや、よい」
わしはそう言って地べたへと座る。
わしに続いてアリアやサーシャも座った。
ウーガ、それに《三つ葉の盾》の三人も座ると、ウーガが話し始めた。
「俺たち獣人が街を出られない理由だが……」
そう切り出すとアリアもサーシャもウーガを見つめた。
「少し長くなるぞ?」
ウーガがそう前置きをしたので、わしらは深く頷いた。
「ことの始まりは、半年以上……いや一年前くらいか。
急にルクセリアにいる獣人族が街から出られなくなった」
「急に?」
アリアの言葉にウーガが頷く。
「理由は身分証だ。ルクセリアでは元々獣人に身分証なんかは与えねぇ。
だから持ってるわけねぇのによ」
「え? 身分証がないと街から出られない……でありますか?
入れないではなく……」
サーシャが役人として不思議に思ったのか、疑問を口にする。
「普通は入る時に求められるもんだよな。
だが、ルクセリアでは急に出る時にも必要と言われた」
「それはよく分からぬ理屈じゃな。
入る時はまぁ治安上の問題ということで理解は出来るが、出る時に必要というのは」
わしがそこまで言ったところで、ウーガがそれに続けるように言う。
「という反論をした獣人もいた。
あまりにしつこかったのか知らんが牢にぶち込まれたがな」
「そんな!」
アリアは大きく声を上げた。
周囲の獣人がこちらを見たが、すぐに視線を外した。
「街からは出られねぇ。しかしルクセリアの人族は獣人を嫌う」
「何回聞いてもイケすかねぇ話だ」
ミンテが拳を強く握りながら呟く。
「なんというか嫌っておる獣人を出られなくする。
意味が分からぬな。
嫌っておるなら外に出した方が理にかなっておる」
わしがそう言うとウーガは少し笑った。
「ハッキリと言うやつだな。そういうのは嫌いじゃない。
俺たちも実際そう思うぜ」
ウーガは「だが」と続ける。
「しばらくして俺たちも分かった。
奴らは俺たちを労働者として街へ留まらせた、とな」
「労働者、でありますか?」
「奴ら、とは?」
サーシャとアリアがほぼ同時に聞く。
「奴らってのはルクセリアのお偉いさんのことだ。
バリスでいうあんたみたいな立場のやつだな」
ウーガはサーシャを見て言った。
「例えば、表通りの道路だ。綺麗なもんだろ?
人が歩く、馬車が走る、雨が降る。
そうすっと、どうしても道路が劣化する」
わしはその言葉に頷く。
「そういったのを点検したり、舗装したり。
まぁそう言った労働を俺たちに強いる。
他にも地下水道の掃除とか、街のゴミ拾いやゴミの処理なんかをな」
「それは役人や管理局、地方局の仕事であります!
冒険者に依頼をすることはありますですが、一般の臣民にさせたりは……」
サーシャはそこまで言って気付いたのか、言葉を切った。
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