第118話 表を支える裏とはなんじゃ?
「これは、表通りとは正反対ですね……」
アリアがそう呟きながら歩く。
「見た目はの。
じゃが道としての機能はそこまで変わっておらん」
「そうなのでありますか?」
わしが言うと、サーシャがそう反応した。
「まだ完全に分析はしとらんが……道を踏む感触としては表通りとは違い、削られた石の破損が目立つ。
じゃが、構造は同じじゃろうな」
わしが暗がりの中でじっくりと道を観察して言う。
「確かに、色がないだけで同じであります!」
「ですが、こんなにも雰囲気が違うのですね」
サーシャが驚いたように言い、アリアは異なる雰囲気にそうもらした。
「維持管理をそこまでしておらんからじゃろうな。
使われとる石も彩色されておらんようじゃしの」
「どうしてこうも違うのでしょう」
アリアがそう聞いてくるが、わしは首を振る。
サーシャを見ると驚いておるようで、わしの視線には気付いておらんようじゃ。
「まぁ、見えぬところに手を抜いておる……というより、利用率に応じてコストの掛け方を変えておるのかもしれぬな」
「半分正解だが、半分は不正解だ」
わしがそう言ったところで、影の方から声が聞こえた。
そちらを振り向くと、獣人の男が立っておった。
「ル、ルクセリアの街に獣人、でありますか!?」
サーシャは男を見て驚き、そう言った。
その言葉に獣人の男の眉がピクリと動いた。
「そっちの….…ルクセリアに獣人がいるのがおかしいか?」
「わわわ! えっと、その、獣人の方には肩身が狭い、と思うでありまして」
サーシャは男の視線に驚きつつ、そう答えた。
「ふん、俺らもこんな街から出られれば、とっくに出ている」
男は吐き捨てるように言った。
「街から出られないんですか?」
アリアが尋ねると、男はその質問には答えずにアリアに顔を向けた。
「あんたらはこの街の人間じゃねぇな。
さらにそっちのは……お仲間? いや混ざってんのか」
アリアからわし、そしてサーシャへと視線を投げる。
途中鼻をすすると、サーシャに何かを感じたのかそう言った。
「わわ! えっと……なんのことでありましょうか!」
「ふん。人族には分からんだろうが、同族の俺からは分かる。
犬系……だな。俺は狼系だ。
あんたと違い純粋な獣人だがな」
「あ、あうぅ」
男の言葉に、シーシャは帽子をガッシリ掴みつつも言葉が漏れた。
「で、あんたらは?」
「わしらか。わしらはグランゼール王国のもんじゃ」
わしがそう言うと、その瞬間男の視線が一層鋭くなった。
「"また"王国か。ここ最近はおかしな事が続きやがる。
まぁ俺にとっちゃ関係ないが……」
「"また"?」
男の言葉にアリアが反応する。
「あぁ、少し前に隣の街からひょっこり現れた冒険者だ。
王国の、と言ってたな。
帝国民に怪我をさせられた獣人を庇って騒動になったらしい」
「それはバリスの話であるでありますか!」
男の話にサーシャが食いつき、声を大きくした。
「声がでけぇ。この街で獣人を庇った人族がいる、なんて話が広がると厄介だ」
「う、その、申し訳ないであります」
サーシャは肩を落とした。
その様子を見た男は、「はぁ」とため息を漏らす。
「あんたら時間はあるか?」
男の言葉にアリアはわしの方を見た。
「問題ないの」
ドランとフレインを待たせてあるが……気になるのう。
(なかなかに興味深そうじゃしのう)
「なら少しついてきてもらおう。
ここは声が響く。
王国人なら知り合いかもしれねぇしな」
男は振り向いて、わしらに着いてくるように促す。
「おぬし、名はなんという?」
「おっと、忘れてたな。俺の名前は"ウーガ"だ。
あんたらは?」
「わしの名はボニフ、こっちはアリアでサーシャじゃ」
「ボニフ、アリア、サーシャか。覚えた」
ウーガはそれだけ言って道を進み、さらに暗がりへと向かう。
「なんだか、今まで知っていたルクセリアではないであります……」
サーシャがウーガの後ろで歩きながら呟いた。
「あんたは王国じゃなく、帝国民か?」
ウーガの言葉に、サーシャは体をビクリとさせる。
「は、はいであります!
バリスの文官をしているであります!」
「なんだ、役人か……まぁでもバリスなら問題ないか。
あんたがルクセリアの役人じゃなくて助かったぜ」
ウーガはサーシャを見ずに言葉だけを投げかける。
「まぁ、ルクセリアの上が獣人との混じり気を役人として雇うなんてことはありえねぇがな」
そう付け足した。
「あの、その、混じり気はちょっと……
ハーフでありましてですね」
「どう違うんだよ」
サーシャが不満を漏らすもウーガは取り合わず。
そんなやり取りを見て、わしは思わず苦笑した。
「さて、着いたぞ」
ウーガがそう言って体を横に移動する。
「ここが俺たちの住処だ」
「これが、ルクセリアの街……でありますか」
サーシャはその光景に信じられないという表情をして呟いた。
そこには多種多様な獣人が複数人。
人数が多いとは言えないが、バリスでもルクセリアの表通りでは見なかった獣人たちがいた。
周囲の建物の背が低くなり、ところどころに光が差し込んでおる。
神秘的……とも見えるが華やかさとは程遠い景色が広がっておった。
「同じ街……とは思えませんね」
アリアがそう感想をこぼした。
「表の街を支えてる裏、みたいなもんだ。
まぁ表の人族はそんなこと知らんだろうがな」
ウーガはアリアの感想にそう返した。
その言葉に大きな皮肉が含まれておるのが分かる。
「あ! あんたらは!」
わしらが周囲を観察しておると、前から三人の──獣人族ではなく人間がこちらへ歩いてきた。
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