第117話 同じ国でも違う街じゃのう
「ここがルクセリアの中心部であります!」
サーシャはわしらを街の中心部へと案内した。
中心部の道はロータリーになっており、その中心には大きな噴水が据えられておった。
「わぁ! 凄いですねボニフさん!」
アリアがその光景を見て素直に言った。
「確かにこれは煌びやかな街、と言われるのも分かるのう」
「です! こんなに綺麗に整った中心部は帝都にもないであります!」
馬車が2台すれ違っても余裕のある道幅の表通りは、見た目以上に広く感じる。
そしてその道幅のままロータリーへと繋がる。
噴水の周りにはベンチが設置されておる。
行き交う人々が待ち合わせでもしておるのか、入れ替わりも激しい。
ロータリーの外側に面した区画には、見るからに高級な品を取り扱う店が並んでおる。
バリスとは違い、外から見ても華やかに見えるようにしておるのが分かる。
(五百年前に、こんな設計の街は記憶にないの)
それは確かに''煌びやかな街"と言われるに相応しい光景であった。
「サーシャさんは案内が出来るくらいですから、何度も来た事が?」
アリアがそう言うと、サーシャは微妙な顔になった。
「もちろん、仕事として来たことはあるであります。
ただ……その、帽子を外せないという緊張感もあって、頻繁には……」
サーシャは段々と声を小さくしながら言った。
案内するほど来てないという恥ずかしさもあるのじゃろう。
じゃが、内容としての理由の方が大きそうじゃな。
「あの! 道がこれだけ広いでありますから端の方であれば邪魔にならないと思うであります!」
そう言いながら、なるべく人が少ない端の方へ移動した。
わしはしゃがみ、道に手を当てる。
──分析。
人が来るかもしれぬので、速やかに。
わしは手を離し立ち上がる。
「ボニフさん、どうですか?」
アリアがそう聞いてくる。
わしは顎をさすり、考察する。
「これはバリスとは思考が違うの」
「思考……でありますか?」
わしがそう呟くと、サーシャが繰り返して聞いた。
わしは軽く頷いて続ける。
「表面の石の大きさが大きく、凹凸がバリスよりも多い。
ドランがおれば、足元を確認する必要がある……そう言いそうじゃな」
「それはルクセリアの方が道がよくない、ということでありますか?」
サーシャがそう結論付けようとしたのを、わしは制した。
「あえて隙間を作ることで雨の日などの水が下へ落ちる構造にしておるようじゃな。
恐らくルクセリアの道の下には地下水道があるのじゃろう」
「そうなんですか?」
アリアが反応し、サーシャへ顔を向ける。
「わわわ! 道路の調査はボニフ様の公務でありますから、地下水道のことは……ど、どうなんでありましょうか……」
サーシャは目を泳がせながらそう言った。
「と、いうことらしいの」
わしがアリアに向けて言うと、アリアも苦笑して頷いた。
「つまり、排水処理の思考が違うと?」
「いや、バリスは維持管理がしやすい構造じゃな。
ルクセリアの方は維持管理費がかかるが排水処理を効率的な方向で実現しておる」
わしがそう言うと、サーシャは目を丸くした。
「維持管理費、でありますか?」
「うむ、ルクセリアの構造は排水方法と地下水道の利用が直結しておって効率が良い。
じゃが反面、維持管理にはこまめな点検や石を剥がして整えるという作業も必要になるじゃろうな」
「確かにルクセリアは財政が豊かでありますが……あ!
いえ、なんでもないであります!」
サーシャはそう言って口を噤んだ。
やれやれ。
(まぁ、効率というより見栄えの方を重要視したようにも見えるがの)
「ま、表通りの道路はこんなもんじゃろうな。
脇道も見たら終わりかの」
わしはサーシャの方を見て、そう言った。
「あの、その、脇道の方はあまり詳しくないでありまして……」
サーシャは困ったような顔をして答えた。
「少し散策も兼ねて歩きましょう」
それを見たアリアがそう提案した。
わしは頷き、ロータリーを歩いて来た道とは違う方へ歩みを進める。
表通りとは道幅が少し狭くなっておったが、煌びやかな雰囲気を保っておる。
人通りを観察すると、一部を避けて通っておる箇所を見つける。
(気になるのう)
あの区画に脇道がある可能性は高いが、あからさまに人が避けているという違和感。
「サーシャ。あのあたりは何があるのかの?」
「あ、あの辺りは来た事がないであります!
この道も仕事では用事があまりなく……」
そう聞いて、とりあえず違和感のある方へと向かう。
近づくと先ほどまでの煌びやかな空気が薄れていくのが分かった。
「これは……なんというか、街の雰囲気が極端に違いますね」
アリアはその光景を見て、そう言葉をこぼした。
脇道、というよりも裏通り……そう表現すればよいのか。
道路を見ると彩色されておった石の道から、無垢で飾り気のない道へと変わっておるのが分かる。
道幅も極端に狭く、建物の影に覆われて光が差し込んでおらぬ。
「こ、これも、ルクセリアの街でありますか……」
この辺りを見た事がないサーシャは、そう言って絶句した。
「ルクセリアの光と影……そんな感じじゃの」
そう呟いて、わしはその道に足を踏み入れることにした。
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