第116話 最善より最良を選ぶのもまた手じゃ
わしは馬車へ戻って裏へと回す。
馬を厩舎へ連れて行き、客車を置く。
「どうなりましたでありますか?」
サーシャが客車から顔を出して聞いてきたため、わしはラウネルとのやりとりを説明した。
「ま、しゃーねぇな」
ドランはそう言ってため息をついた。
「泊まれるだけ良かった……んですかね?」
「中々に根が深い問題のようです」
アリアはそう言葉をこぼし、フレインはルクセリアの文化についての感想を述べた。
「やはり……でありましたか」
サーシャは予想していたように言った。
「サーシャ殿は大丈夫なのでしょうか?」
フレインがサーシャに聞いた。
「難しいであります。自分もルクセリアでは帽子が脱げないであります」
「帝国の役人……でもですか?」
アリアがそう聞く。
「身分証を見せれば恐らく問題ないであります。
ただ良い顔はされない、と予想するであります」
「あの感じでは、そうじゃろうな」
サーシャの予想にわしも頷いた。
わしは周囲の目を確認する。
「今のうちじゃな」
サーシャを含む四人を客車から降りるよう促し、裏口から宿へと入る。
そして裏口から近い一番手前の部屋にドランが入る。
「部屋は広いし豪華だな」
部屋を見て、ドランはほっと息をついてそう言った。
「さすがに他国の貴族位を相手に下手な部屋は案内せんじゃろう」
(もっとも、交渉の結果……かもしれんがな)
ドラン以外も割り振られた部屋へと入っていく。
わしも自身の部屋へ入って身支度を済ませ、ベッドへと腰掛けた。
(さて、なるべく早くこの街は抜けたいところじゃが……)
サーシャを思い浮かべる。
悪い奴ではない。
監視役としての自覚も恐らくない。
(じゃが、下手に怪しく見えた場合にどう出るか予想ができん)
帝国の代官、または軍へ報告された場合を想像する。
(やはり公務をする姿は見せておくべきか……)
長くても二泊……にしたいところじゃな。
わしはベッドから立ち上がり、ドランの部屋へと移動する。
扉をノックすると、扉の向こうから返事が来る。
部屋へと入り、部屋にあった椅子へ座る。
「どうした?」
「この街にいる間にどうするか……じゃが」
わしはドランを見据える。
「本来は《真理の導き》というパーティーで固まって行動したいところじゃ」
わしがそういうと、ドランは頷いた。
「じゃが、領門の役人の態度や宿の主人を見ると得策に思えぬ」
「まぁそりゃそうだな」
「この街にいる間は、おぬしにこの宿に留まってもらいたいのじゃが」
ドランはわしの言葉を聞いて鼻を鳴らす。
「そんな畏まるこっちゃねぇよ」
ドランは視線を鋭くする。
「俺たちの目的は教団だ。そこまでに辿り着けるなら部屋に籠るぐらいはどうってことねぇ」
「では、私も宿に残りましょう」
振り返ると扉が開いており、フレインが立っておった。
「聞いておったのか?」
「耳がいいので」
フレインはそう短く言って、フッと笑った。
「別に俺に付き合うことはねぇぞ」
ドランがフレインに言うが、フレインは首を振る。
「この街の見た目、そして漂う匂い。
少し私の肌に合わず……外を出歩きたくないもので」
フレインはそう言って肩をすくませた。
「フレインがそう言うなら、ドランとおぬしは宿で待機しておいてくれ」
「分かった」
ドランは「ただ」と付け加える。
「満足な飯が食えねぇのは困るな」
そう言って笑った。
「食堂で食えぬということじゃが部屋で食え、と言っておった。
この部屋に飯を持ってくるから一緒に食うか」
わしは「アリアも含めてな」と付け加え、三人で大きく頷く。
****
ドランの部屋を出た後、アリアの部屋へ。
「わしじゃ」
「空いてます」
扉をノックして、そう返事が来たので扉を開ける。
「ボニフさん、どうしたんです?」
「ドランとフレインは宿に残る。
今日はわしとおぬしで街へ出る」
「分かりました」
わしが端的に言うと、理由は聞かずアリアはそう答えた。
アリアの顔は複雑そうな表情をしておった。
じゃが、その目には事情を汲み取った、そんな意思が含まれておるように見えた。
(納得はしとらんじゃろうが、飲み込んだ……というところかの)
「すぐに出れるかの?」
「問題ないです」
わしとアリアは部屋から出て、サーシャの部屋へ。
「はい! であります!」
扉をノックすると、即座に扉が開いた。
扉の前で待機でもしとったのか。
「街に出て、道路の調査をするでな。案内を頼みたい」
「宿に着いて早々に、でありますか。
その仕事熱心なところ!
見習うであります!」
そう言ってサーシャは身支度を即座に終え、部屋から出てきた。
「ドラン様とフレイン様は」
サーシャはきょろきょろと視線を移し、二人がいないことに気付く。
「あの二人は宿に待機じゃ」
「なるほど! 納得であります」
サーシャは大きく頷き、そう言った。
「では、行くであります!」
サーシャは張り切って歩き出した。
わしとアリアは目が合い、二人で苦笑した。
そして、サーシャの後を追って歩く。
「どこを案内するがよいでありますか?」
サーシャは顔だけ振り向いてそう言った。
「まずは表の通りじゃの。あとは表から逸れた脇道も調査出来たらありがたい」
「分かりましたであります!」
そうしてサーシャは顔の向きを前へ戻して歩く。
さて、サッサと終わらせて街を出たいところじゃな。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
面白かったと思っていただけましたら、
ブックマーク・評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。




