第12話 利子はきっちり払うぞぃ
翌朝。
ギルドの扉を開けると、見慣れた喧騒が耳に入ってくる。
その中で、入口近くに立っていた少女がすぐに目に入った。
「……あ」
アリアじゃ。
律儀に待っておったらしい。
わしが近づくと、ぺこりと頭を下げる。
「お、おはようございます!」
「うむ。おはようじゃ」
挨拶もそこそこに、横から勢いよく声が飛んできた。
「ちょっとボニフ! 聞いたわよ!」
机を叩く勢いで身を乗り出してくる。
「Dランクに昇格したんだって!? 何やったのよあんた!」
「エルマうるさいわよ。仕事しなさい」
ミレイからの冷淡な声が聞こえるがエルマは興奮しきっておる。
「掃除じゃ」
「絶対それだけじゃないでしょ!?」
騒がしいのう。
そのやり取りを横で聞いていたアリアが、固まったようにわしを見る。
「……Dランク?」
「うむ」
「登録、三日前ですよね……?」
「そうじゃな」
アリアの顔から血の気が引いた。
わしは特に気にせず、懐から袋を取り出す。
「それよりもじゃ、ほれ」
アリアに金貨を一枚渡す。
「借りておった分の返済と、利子じゃ」
「えっ」
アリアが慌てて金貨を見る。
「ちょ、ちょっと待ってください! 多すぎます!」
「そうかの?」
「そうです! こんなに受け取れません!」
押し返してくるアリアに、わしは指を一本立てた。
「まず、人里への案内料。Dランク冒険者の護衛依頼と同等と見なせば、このくらいは妥当じゃ」
「い、いや、それは……!」
「それに加えて、街金の利子三日分。合わせれば、むしろ安いくらいじゃな」
「安くないです!」
きっぱりと否定された。
しかしわしは首を振る。
「わしは借りを曖昧にするのが嫌いでの。受け取れ」
「でも……」
「受け取れ」
少しだけ強めに言うと、アリアはぐっと言葉に詰まり──
「……わ、わかりました」
観念したように金貨を受け取った。
よし。
これで一つ、気が済んだの。
「で? 今日も依頼受けるの?」
エルマが頬杖をつきながら聞いてくる。
「いや、少し気になるものがあっての。遺跡の下見に行くつもりじゃ」
「遺跡?」
「破棄依頼にあった場所じゃ。様子だけ見てくる」
「ふーん、物好きねぇ」
エルマは興味なさげに肩をすくめた。
その横で、アリアが一歩前に出る。
「……あの」
「なんじゃ」
「わ、私も……ついていっていいですか?」
「構わんが」
わしは即答する。
「報酬はないぞ。利もない」
「それでもいいです」
迷いはなかった。
わしは一度だけアリアを見て──
「ならば好きにせい」
「はい!」
ぱっと表情が明るくなる。
その様子を見て、エルマがぽかんと口を開けた。
「え、なに今の流れ」
「さぁの」
「いや絶対おかしいでしょ……」
「エルマ、手が止まっています」
横からミレイの冷静な声が飛ぶ。
「うっ……はいはい、やりますよーっと!」
賑やかなやり取りを背に、わしは踵を返した。
****
街を出て、遺跡へ向かう道中。
しばらく歩いたところで、わしはふと口を開いた。
「アリアよ。その短剣、もう長くは持たんぞ」
「え?」
アリアが自分の腰の短剣に手を当てる。
「そんな……まだ使えますよ?」
「見れば分かる。刃の歪み、内部の劣化。次の実戦で折れてもおかしくない」
「……どうして分かるんですか?」
「見れば分かると言っておる」
納得しておらん顔じゃな。
「……本当、なんですか?」
「嘘をつく理由がない」
アリアは短剣を手に取る。
「……私今これしか武器がないんですけど」
「ちと貸してみなさい」
アリアは何かよく分からないという顔つきのまま差し出してきた。
わしはそれを受け取る。
「うむ。少し待っておれ」
道端にしゃがみ込み、買っておいた鉄塊と炭を取り出す。
指先に魔力を集める。
熱が生まれ、次の瞬間には──
短剣が、静かに崩れた。
「えっ……?」
アリアが息を呑む。
構わず、再構築する。
余計な歪みを取り除き、結合を整え、重心を調整する。
ほんの数瞬。
「ほれ」
出来上がった短剣を投げ渡す。
「……これで当分は持つじゃろう」
アリアは呆然としたまま受け取り──
「……何を、したんですか……?」
「少し手を入れただけじゃ」
歩き出す。
「ほれ、行くぞ」
「あ、はい!」
ほどなくして、魔物が現れた。
小型の獣型が三体。
「任せて!」
アリアが前に出る。
短剣を振る。
一閃。
二閃。
三閃。
あっさりと片が付いた。
「……あれ?」
アリアが首を傾げる。
「なんか……すごく、軽い?
いや振りやすい?」
アリアは再び短剣を数回空を切るように振る。
「何をしとる」
わしは振り返る。
「置いていくぞ」
「あ、す、すみません!」
慌てて駆け寄ってくる。
****
やがて、目的の場所が見えてきた。
苔むした石造りの入口。
崩れかけた柱。
人の気配はない。
「ここが……」
「遺跡、じゃな」
わしは一歩前に出る。
「さて」
軽く周囲を見回し、口の端を上げた。
「少しばかり、見物といくかの」
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