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第11話 掘り出しもんじゃのぅ

 三日目の朝。


 宿の硬いベッドから身を起こし、わしは一つ息を吐いた。


 若返った体は実に軽く、目覚めもすこぶる良好じゃ。


(魔力の循環も馴染んできたな。毒も完全に解毒されているようじゃの)


 昨日手に入れた金貨の袋を揺らす。ジャラリと、心地よい重みが返ってきた。


 これだけあれば、当面の生活には困らぬ。


 わしは身支度を整え、宿を出た。


 昨日の食堂に寄り同じように朝食セットを頼みパンを頬張る。


(うむ、やはり美味いの)


 食堂の店主と軽い挨拶をして食堂を、あとにする。


 大通りに店を構える『銀の剣亭』と書かれた店へと足を向けた。


 装飾過多な看板、磨き上げられたショーウィンドウ。


(五百年も経つと武器屋も豪華になるもんじゃな)


 店内に入ると、わしを下から上に見て鼻で笑う店員がこちらへ来た。


「おや?うちに君の手が出るような『なまくら』は置いていないよ。

 全てが『名剣』や『名槍』ばかりよ」


「……ふむ。」


 わしは言われるがまま、目の前の棚に鎮座する『名剣』とやらを眺める。


 金細工が施され、宝石が埋め込まれた派手な長剣。


「……見た目だけは良いが、魔力回路が歪んでおる。

 一度魔法を流せば、柄から爆ぜるぞ」


 店主の顔が引き攣った。


「な、何を……! この店一番の売れ筋を侮辱するか!」


「侮辱ではない。そっちの槍も、石突き(いしづき)の重さが足りん。

 こちらの盾は、革のなめしが甘くてすぐに剥げる。

 ……やれやれ、全部ダメじゃな。

 使い物になるのはこの棚の重しに使っておる石くらいか?」


「出ていけ! 二度と敷居を跨ぐな、このガキが!」


 盛大に塩を撒かれ、わしは店を追い出された。


 やれやれ、真実を言っただけなんじゃがな。


 気を取り直して、大通りを外れ、路地の奥へと進む。


****


 次に向かったのは、街の端にある武器屋。


 看板には、煤けた剣と槌の紋章。


「あんた、冒険者か?

 うちは安物は置いてねぇが、若造にゃちと荷が重いかもしれねぇぞ!」


 奥から出てきたのは、火傷跡の残る逞しい腕を持った大男じゃ。


 ガハハと豪快に笑うその顔には、職人特有の自信が溢れておる。


「ほう、悪くない店構えじゃな」


 わしは店内に並ぶ武器を順に眺めていく。


 まずは入り口近くの長剣。


(重心が先端に寄りすぎている。

 大振りを誘うが、作りは丁寧じゃな。

 使い手を選ぶ剣じゃ。

 惜しいのぅ)


 次に、壁に掛けられた反りのある片手剣。


(鋼の粘りは合格点。

 だが、柄の巻きが甘い。

 仕上げだけ残念。

 手汗をかけば滑るぞ)


 三本目。台座に置かれた、魔石を埋め込んだ豪華な短剣。


(魔力伝導を意識しておるが、伝導率はあと一歩じゃな。

 物自体は良いのに勿体無いのぅ)


 店主は、わしが次々と素通りしていくのを、面白そうに、あるいは少し不機嫌そうに眺めていた。


 そしてわしは、棚の最下段、油にまみれて置かれた地味な一振りの前で足を止めた。


 装飾もなく、ただ黒ずんだ鞘に収まった短剣。


「……ふむ」


 わしがそれを手に取った瞬間、店主の笑い声が止まった。

 

「……ほう、そいつを手に取るか。

 見た目こそ地味だが、そいつは俺が三日三晩、不純物を抜き抜いて叩き上げた鋼だ。

 派手な魔法付与もありゃしねぇが、折れねぇし曲がらねぇ。

 だが、その価値が分かる若造は滅多にいねぇんだがな」


 わしは親指の腹で刃を軽く撫でる。


 重心のバランス、刃紋の均一さ。この店の中で、最も自分に合う。


「うむ。火入れの温度が完璧じゃな。……これをもらおう。」


「ガハハ! 気に入ったぜ、兄ちゃん!

 見た目に似合わず、目が肥えてやがる!

 口調には似合ってるがな!

 が、払える金はあんのか?金貨二枚だ」


「ほれ」


 わしは無造作に金貨二枚をカウンターへ置いた。


「驚いたな!いやすまねぇ。

 見た目が若造なもんでな。

 兄ちゃん、どこぞの工房で修行でもしてたのか? 」


「趣味のようなものじゃ。」


「趣味ねぇ……。抜き身じゃなんだから鞘を付けてやる。

 革製だかそこらの装飾品より革製の方が邪魔にならねぇからな。」


「気前がいいのぅ。ありがくいただくとするかの」


(こっちの店に来て正解じゃったの)


「ちょっと待ってな!」


 そう言って店主は工房らしきところへ消えて行った。


 視線を移す。


 少しばかり古びてはおるが掃除自体は最低限されておる。


 真面目な鍛治場にある鉄の匂い。


 ここなら変な素材は置いてないじゃろうな。


「おう!待たせたな!」


 店主から革製の鞘と共に先ほどの短剣を受け取る。


 これで最低限の武器は手に入ったが……


「店主。少し無粋なことをお願いしたいのじゃが、短剣修理用の鉄塊と炭は購入出来んかの?」


「出来ないこたないが、なんだ?その自慢の短剣を打ち直したりするんじゃねぇだろうな?」


 店主の目が釣り上がるが


「勘違いするでない。知り合いの娘がな。

 今にも折れそうなボロを持ち歩いておって、見ていて寝覚めが悪いんじゃ。

 少しばかり、補強してやろうと思ってな」


「ああ、そいつはおせっかいなこった!

 だが、わざわざ鉄と炭を買っても仕方ねぇだろう。

 このボルジャーの店に持ってきてくれりゃぁ修理ぐらい請け負うぞ?」


「ありがたいが、専門家にしてもらうほどではないわい」


「いや、素材だけ売っても専門家がいなけりゃ意味ねぇと思うんだがな……」


 そう言いつつもなんだかんだ店主から素材を買い取って店を出た。


 豪快にまた来いよと背中を叩かれた時は背骨が折れるかと思ったもんじゃが


 帰りに大通りにあるシャレた《カフェ》なる店に立ち寄る。


 トマトソースの旨味が強いパスタを口に運ぶ。


(ふむ……少しばかり辛味が効いており、これも美味いの)


 味は素晴らしいが……


(少し量が物足りんのぅ)


 食後に茶をすすり、次は二人前頼んでも良いか……などと考えながら店をあとにする。


 宿の自室に戻り、買ってきた素材と自分の新しい短剣を机に並べる。


「さて、あやつが明日、約束通りギルドにおればよいが」


 別に、感謝されたいわけではない。


 立て替えてもらった分の返金と道案内の利子を返すだけ。


 ただ、あの娘の短剣は、このままでは次の実戦で砕けるのが目に見えておる。


 折れた武器を抱えて死なれるのは、ちと後味も悪いしの。


 顎をさすりながら、思考は今日の晩御飯に奪われた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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