第114話 誇りを持った仕事人は尊敬するのう
とりあえず行ってみて考える。
そう結論づけたわしらは、それぞれの部屋に戻り眠りにつく。
そして翌朝。
「お迎えに来たであります!」
宿のロビーに出るとサーシャが待っておった。
朝も早くから元気なことじゃの。
「もう、バリスでの公務はよろしいでありますか?」
「そうじゃの。次の街も視察した上で帝都へ向かうぞい」
わしはサーシャの言葉に頷き、そう答えた。
「馬車を用意しているであります!」
そう言われてわしらは止まった。
「どうしたでありますか?」
「あの、サーシャさん。
馬車は私達は自分達の馬車で移動させてもらってもよいでしょうか」
アリアがそう切り出した。
「わわわ! そ、そうでありました!
自前の馬車、それはありますですよね!」
サーシャはバタバタしながら、自分に言い聞かせるように言った。
そして、そのまま宿の外に出て行った。
「あれは大丈夫なのか?」
ドランがボソリと呟く。
「何が大丈夫と聞いておるのかは……分からぬではないがの」
わしはそう言って苦笑した。
「ボニフ殿が監視役の話をしていましたが……
サーシャ殿にはその自覚はなさそうに思いますね」
フレインがそう言ったので、わしらは顔を見合わせ同意した。
「本日、街を出られるのですね」
宿の主人がそう言ってきた。
「うむ、世話になったのう」
「いえ」
主人はそう言って頭を下げた。
そして、ドランの方に視線を向け、しばらく沈黙する。
「ん? どうした?」
「いえ……すみません。他意はありませんが」
主人はドランから視線を外す。
そしてその場を離れ受付まで戻ったと思ったら、封筒を持ってこちらへ渡してきた。
「これは?」
わしは封筒を受け取り、主人へ聞く。
「すみません。サーシャ様より、お客様が次に"ルクセリア"へ行くとお伺いしましたので」
「ルクセリア?」
アリアが聞く。
「次の街の名前です」
「それが、その封筒となんの関係があんだ?」
ドランがわしの手にある封筒を指差して言った。
主人は再度ドランへ視線を向ける。
「ドラン様は王国の貴族、もしくはそのお付きでいらっしゃいますよね」
ドランがわしを見たので、わしは頷いた。
「どうやらそうらしいな」
「しかし、ルクセリアの宿は……どの宿でもドラン様の宿泊は断られる可能性が高いのです」
「えっ? そこまで?」
アリアは純粋に驚き、声を上げた。
主人はアリアの言葉に静かに頷いた。
「しかし、他国の貴族、及びその付き人とされる方への扱いとして美しくない」
「美しくない?」
フレインは主人の言葉を繰り返した。
「私は帝国民です。そして帝国民としての誇りもあります」
主人は一拍置いて、続ける。
「そんな帝国の高級宿のオーナーとして、他国のお客様にも気持ちよく宿を利用してもらう。
それが私の仕事です」
主人はドランから目を離さず、そう言った。
「なんか、どう言っていいか分かんねぇが」
ドランは主人に近寄って手を差し出した。
「この宿に泊まれて良かったぜ」
主人はドランの手を取り、握手をした。
「それは私にとって、最もありがたい言葉ですね」
主人はドランの言葉を噛み締めるような表情をしておった。
「その封筒には、"蒼壁亭"から"蒼門亭"への紹介状……のようなものが入っております」
「そうもんてい?」
「ルクセリアにある系列の宿です」
アリアが聞くと主人が即答した。
「そこの主人にお見せ下さい。
そうすればドラン様がお断りされることもないでしょう」
主人は力強く、そう言った。
「ありがてぇ。いや、ありがとう」
「主人、ありがたく使わせてもらうぞい」
わしらは四人で頭を下げた。
「他国とはいえ貴族が平民にそう頭を下げるものではないです」
主人はあくまで姿勢を崩さず、そう言った。
「これは貴族としての立場ではなく、個人的に頭を下げただけじゃ」
そうしていると、外に行ったサーシャが中へと戻ってきた。
「用意していた馬車は帰らせたであります!
自分もあなた方様の馬車に乗らせていただきたいであります!」
「え?」
主人の帝国、仕事に対する誇りや対応に胸を打たれていたところに、サーシャがそのように言った。
まさか同乗を求められるとはのう……
「まぁ、仕方ないのう」
「お願いしますであります!」
わしらは宿を出ようとする。
「あ、伝え忘れておりました」
主人がそう言い、わしは振り返った。
「蒼門亭の主人の名は"ラウネル"と言います。
先ほどの封筒をお見せする際には、その名で確認を」
(最後まで仕事人じゃの)
わしは頷き、そして聞く。
「名はなんと?」
「え? ですから"ラウネル"と」
「いや、おぬしの名じゃ」
主人は目を丸くした後、少し笑って答えた。
「私の名は"グラウス"と申します」
「世話になったの。グラウス殿」
「いえ、いってらっしゃいませ」
グラウスはそう言って深く礼をした。
さて、次の街へ行くかの──ルクセリアへ。
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