第112話 本当に公務をしておるの
店を出て一息つく。
「さぁ、公務としてどこへ案内すればよろしいでありますか」
じゃが、サーシャが張り切っておるようじゃ。
仕方ないのぅ。
「道路調査として、通行人の邪魔にならず道幅や材質を確認できる場所はあるかの」
「はっ! 自分にお任せするであります!」
サーシャが張り切って先頭を歩く。
「ボニフさん、この公務の設定、どうするんです?」
サーシャに聞こえないようにアリアが聞く。
「そうじゃな……帝都まではそういう形で行くしかないのう」
「まぁ無事に帝国を通り抜けるには、これが最善なんだろ?」
わしは少し悩んで、小さく頷いた。
「帝国に怪しまれて拘束……または国際問題に発展し勾留。
こうなるとアグリスに急いでおるはずが足踏みじゃしな」
「何もかも無視して通り過ぎる……
人間の社会はあまり分かりませんが、森でそのような行動を取っている他種族がいると想像すると確かに怪しいですね」
フレインの想像の通りじゃな。
「それもバリスに入って二日目にサーシャじゃ。
他国の人間が帝国に入った、という情報は筒抜けじゃったしな」
「そうですね……急ぎたい気持ちもあるんですけど」
アリアはそう言ったが、状況を飲み込んではおるようじゃな。
「それに、余計な行動でドランさんが酷い目に遭う──そんな想像もしちゃいますし」
アリアはそう口にした。
「気にすることはねぇ。
だが、俺が原因でアリアの目的が遅れるのは俺が許せねぇ」
「ドランさん……」
アリアは歩きながらドランに小さく礼をした。
ドランはアリアから視線を外して、鼻を鳴らす。
「まぁ四人で無事、帝国を抜けるまで公務のフリは続行じゃ。
何、これに関してはわしに任せぃ」
「それはそうですよ」
「そりゃボニフしか無理だろ」
「お任せします」
最初からそのつもりじゃった……ということじゃの。
わしは苦笑したが、悪い気はせんの。
小声で話していたが、あまり話し込むとサーシャに不審がられるか。
(サーシャなら大丈夫な気がせんでもないが)
念のためこれくらいにしとくかの。
サーシャに着いていき、大通りから少し曲がると、サーシャが立ち止まった。
「ボニフ様方。
こちらの通りであればすぐそこが大通りですし、人通りも少ないであります」
サーシャが振り返りそう言ったので、わしらも足を止めた。
「ありがとうの」
わしは一言サーシャに礼を言った後、しゃがんで道路の材質を確かめる。
──分析。
道路の構成要素を錬金術で確認する。
(これは三層構造になっとるの……火山岩、石灰、水……)
わしは道路から手を離した。
公務というフリじゃったが、これは面白いのう。
わしはそのまま立ち上がり、大通りまで出る。
道路を見て、反対側の道路も遠目で確認する。
元の位置に戻り、道路を蹴る。
──ガリッと音がするが、道路の材質が削れたりはしておらぬ。
「これは、かなり参考になるの」
「参考、でありますか?」
「うむ」
わしはアリアやドラン、フレインにも感想を聞く。
「歩きやすいと思います。
なんだか、地面に力が伝わるというか」
アリアがそう答える。
冒険者らしい感じ方じゃの。
「そうだな、道路が平坦だから足元を気にしなくていいな」
石畳のように凸凹がない、という観点じゃな。
「長時間の歩行だと、足や腰に負担がきそうですね」
森での生活が長かったフレインは体にかかる力に敏感なようじゃな。
何故かサーシャもメモを取っておるが……おぬしの街の道路なのじゃがな。
サーシャがわしの視線に気付き、顔を上げた。
「わわわ! すみませんであります!
住んでいるとこれが普通でありますゆえ、文官として参考になると思いまして」
「特に気にしておらぬよ」
「ついでに、聞いておきたいであります。
ボニフ様が参考になる、とおっしゃったのはどういう意味でありましょうか」
わしは「ふむ」と呟き、サーシャへと視線を向ける。
「石畳でなく、石を積み上げて強度を保っておる点。
石灰や水で接合部を強固に固めておるようじゃから馬車の荷重や軍行でも損害が出にくい」
わしは道路の硬さを足で確認するように説明した。
「次いで排水処置じゃな。
道路の中央がわずかに高くなっておる。
曲線を描くように端へと下がっておるので雨の日でも水溜りが出来にくい作りじゃな」
わしはサーシャに一通りの調査結果から参考になる点を伝えた。
(……これは本当に公務になっておるの)
内心、自分自身に少し呆れたが。
「凄いであります! さすが名代様であります!」
サーシャは興奮しながらそう言った。
「少し質問してもよいかの?」
「はい! なんでもどうぞであります!」
わしは少し気になった点をサーシャへ聞く。
「この道、向かいの道。
大通りから伸びる脇道はどれも等間隔で道幅も同じじゃ。
これの意図は何かあるのかの」
「それは効率のためであります。
区画としても番号で割り振りやすいであります。
何か揉め事や事件、聞き込みなどでも番号で伝えると迅速に軍が動けるであります」
サーシャがそう答えた。
なるほど、徹底した規律や治安のための合理性を重視した作りじゃな。
ニクソン代官……軍所属とサーシャが言っておったが。
(ニクソン代官の前から、いやバリスという街は代々軍で統治、運営されておったようじゃな)
「最後にもう一つ。
この通りだけ何故、人通りが少ないんじゃ?」
わしがそう言うと、サーシャはビクリと体を反応させた。
「あの、そのですね。
少し前に他領の帝国民と冒険者が揉めておりまして……
あまりに激しい喧嘩だったようだ、と聞いたであります」
サーシャは思い出すように言葉を続けた。
「その後最近まで軍がこのあたりを調査していたでありまして、その影響で一般の領民がこの道に寄りつかないであります」
「なるほど。人通りが少ないのは道路の問題ではない、ということじゃな」
「そうであります!」
わしが納得したことにホッとしたのか、サーシャが大きい声でそう返事をした。
「この街では、こんなところかの」
わしは、そろそろ切り上げてもよいじゃろうと、終わりを告げた。
「じ、自分は役に立った、でありますか?」
サーシャは少し自信なさげにそう言った。
「うむ、十分役に立っておる。
帝都までもよろしく頼むの」
「はっ! ありがとうであります!」
サーシャは笑顔でそう答えた。
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