第111話 これは面倒なことになったのぅ
スープに口をつける。
味が濃い、が旨味が出ておる。
乾燥した野菜を戻してあるからか、味が凝縮されておるのが分かる。
酢漬けを口へ運ぶ。
こちらも味が濃いが酸味がちょうどよいアクセントになっておるな。
パンを手に取りパテを塗る。
パンは硬め、パテは香辛料が強めじゃな。
塩味が濃い。
(肉体労働が多めの軍人に向けた味、ということじゃろうか)
周囲の客席を観察すると、楽しそうに食事をしておるのが見える。
この街ではこの"味の濃さ"が、標準なんじゃろうな。
三人を見ると、それぞれ異なった表情をしておるのが分かる。
アリアは王国の料理との違いに驚いておるようじゃ。
ドランは帝国の味付けが好みなのか、既に肉料理に手をつけて美味しそうに食べておる。
フレインは少しキツそうじゃな……
素材の味が主のエルフには、香辛料や味の濃さは厳しいらしい。
「あなた様方、バリスの料理はいかがでしょう!」
サーシャは満面の笑顔でそう聞いてきた。
「うむ。味の濃淡がハッキリしておって美味いの。
特にスープは旨味がよく出ておるように感じるわい」
わしがそう言うと、サーシャはホッとしたような表情になった。
****
それぞれが違う意味で食事を楽しむ。
食事をしながら、わしはこれからの動きについて確認する。
「これからじゃが、この街で道路調査をしつつ、情報をまとめながら帝都へと向かいたい」
「そうですね! お仕事のためにも帝都へ向かいたいですね」
アリアが道を進む、ということの気持ちの表れか、そう言った。
まぁ、不自然ではないじゃろう。
「ドランとフレインも道路の感触、歩きやすさなどの感想を述べて欲しい。
あと"念のため"街並の観察もよろしく頼むの」
わしがそう言うと、フレインはわずかに周囲へと視線を巡らせ、ドランと共にゆっくり頷いた。
「公務というのは大変でありますですね。
一文官としても参考になるであります」
サーシャは頷きながらまたメモを取り出した。
食事中にメモはマナー的に大丈夫なのかの。
「帝都までの道中もしっかり案内させていただくであります」
メモを取り終わったのか、サーシャは顔を上げ、わしらにそう言った。
じゃが、すぐに表情を曇らせて続ける。
「バリスから帝都に近づくにつれ、自分やドラン様への視線は強くなるであります……
最悪ドラン様は外に出ず、という形で道路調査をした方が……そういった事もありえるでありまして」
「もし、俺が邪魔になるようなら宿にこもっておく……まぁそれでもかまわねぇが」
ドランはそう言い、わしの方を見る。
「なるべくなら一緒にいた方がよいのじゃがな……」
わしはそう言って顎をさすった。
(ドランの直感は鋭い。危機的状況の判断も良い)
万が一、帝国内でも教団が動いておるなら常に一緒に活動しておいた方がいいが……
人種差別と教団、これは思うておるよりも面倒じゃな。
名代として怪しまれずに帝国内を移動する。
加えて、帝都まで行った後にサーシャを巻いてアグリスへ抜ける必要がある。
考えるべき内容はまとまってきておる。
その反面、複数の事柄が絡まっておるせいで身動きが取りづらい。
(公務の設定を間違えてしもうたかの?)
わしは一瞬考える。
じゃが、怪しまれずに帝国を移動する内容として、これ以上はなかったようにも思う。
「まぁ、その辺りは後程相談じゃな」
わしは問題を後回しにした。
「そうですね。今考えても難しいですしね」
アリアはそれに同意し、ドランとフレインも頷く。
「そうでありますか。でも、あの、なるべく街を出る前に決めておいた方が良いであります」
サーシャがそう言った。
「それは何か理由があるのかの?」
「その、次の街は少し特殊といいますか……
バリスと違い、元老院の考えが強く広まっているのでありまして」
「元老院……ですか?
サーシャ殿、元老院というのはどういったものでしょうか?」
フレインが聞き馴染みのない言葉に、純粋に疑問を口にした。
「わわわ! えっとこれは、その、
今のはナシであります!
気にしなくて良いであります!」
いや、それは無理があるじゃろう……
「そうですか。失礼しました」
フレインは潔く引き下がった。
これ以上追求しても可哀想じゃしな……
ドランは特に興味がないのか果実酒を飲んでおる。
アリアは首を傾げておるが、まぁ後で会話するかの。
わしらは食事を終える。
「ここの代金は自分が支払うであります!
案内役として接待費を預かってあるでありますので」
「お言葉に甘えるとするかの」
「サーシャさん、ありがとうございます」
「美味しかったぜ」
「……ご馳走様でした」
最後の微妙な空気は、会計を機に霧散していった。
やれやれじゃな……
ここまでお読みいただきありがとうございます。
面白かったと思っていただけましたら、
ブックマーク・評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。




