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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第三章 帝国編

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第110話 肉は後にせよ、とは中々に酷じゃな

 わしらはサーシャと共に馬車に乗り、代官邸を後にする。


「帝国の道路調査の公務とは何をするでありますか?」


 サーシャがそう聞いてきた。


 三人がわしを見る。


「まずは材質調査じゃな」


「材質、でありますか?」


「うむ。例えば同じように石積みで道路を建設したとしても、

 石の材質、構成される石の大きさ、混ぜ物。

 それによって道路の強度や水捌け等も変わってくるでな」


「なるほど! 自分は帝国の道路しか分からず勉強不足でありました」


 わしが頭の片隅にあった道路の知識から、それっぽい調査内容をサーシャへ伝える。


「ではバリスでは道路の材質を調べるでありますか?」


「いや、材質の他にも道幅の規格や縁石、排水の処置、維持管理の方法……道路といっても調査は山積みじゃな」


「確かにそうでありますね! いや、文官として恥ずかしいばかりであります!」


 サーシャは何故かメモを取り出した。


 いや、案内役としての仕事のためじゃろうが……。


 わしが前を向くとアリア、ドラン、フレインが目を細めてわしの方を見ておった。


 これ以上それっぽい公務を増やすな……と言いたげじゃな。


(いや、仕方ないじゃろ)


 わしは小さくため息をついた。


「確かにそれだけの調査でありますれば、帝都の管理局まで行かなくてはなりませんですね!」


 サーシャは一人納得したのか、大きく頷いた。


 これ以上話すと深みにハマりそうな気がしたので、話題を変えることにした。


「ところで、サーシャよ」


「はいであります!」


「先程のニクソン代官との命令のやり取りはなんじゃ?

 まるで軍のようであったが」


「わわわ! そうでありますね!」


 サーシャは少し悩みながらも、そのまま続けた。


「代官様は軍部所属であります!

 私は地方行政局からの派遣なのであります。

 今私は代官様の管轄下でありますので、軍式でのやりとりになるのであります!」


 サーシャがそう言った。


 いや、しかしこちらから聞いてあれじゃが……。


「サーシャ……それは帝国の政治体系の情報漏洩のような気がするのじゃが」


 明かして良い情報ではない気がする……いや、この時代では周知の事実なのじゃろうか。


 わしが、そう考えておるとサーシャがバタバタし出した。


「わわわ! あの、その、今言ったことは完全にすっぱり忘れて欲しいであります。

 いや、あの大した情報でないでありますゆえ……

 全く全然重要でないので忘れて問題ないであります!」


 ニクソン代官……こやつが案内役でよかったのかの?


 わしは先程交渉したやり手と思われる代官に、心の中で問うた。


****


 他の建物と同じような色合いじゃが、少しだけ大きめであり、豪華に見える店。


 バリスの街の一角、その店の前で馬車が止まる。


「バリスで一番の料理店であります!

 ここで腹ごしらえをするであります」


 サーシャがそう言いながらわしらを店へと案内する。


 わしらは顔を見合わせ、店の中に入る。


 店内はなかなかに賑わっておった。


 それにしても、客層は軍人と思わしき者ばかりじゃな。


 客の視線がこちらへと向く。


 サーシャとドランに向けられる視線が、少し強いように感じるの。


 帽子で耳を隠しておるサーシャにもこれだけの視線があるということは……


 わしはサーシャを見る。


(すでに知られておるにも関わらず、常に視線を向けられる……か)


 帝国の文化というものは中々に難儀なものじゃな。


「こちらにおかけになって下さいであります!」


 サーシャはそんな視線に体を硬くしつつ、わしらを席に案内した。


 わしらは勧められるままに椅子へと腰をかける。


「そ、そこのもの!」


 サーシャが慣れないように給仕を呼ぶ。


「なんでしょうか? サーシャ様」


 給仕がこちらへ来てそう言った。


 言葉遣いは丁寧だが、声のトーンからサーシャを敬っているようには微塵も感じられん。


「こちらはグランゼール王国の貴族の方々であります!

 この店で相応しい料理をお願いしたいであります」


 サーシャがそう言い、給仕は少し体を硬くした。


「承知しました。少々お待ちください」


 そう言って、給仕は厨房の方へと向かっていった。


 わしらの方をチラリと見て、多少の礼儀を見せておったが……


 あまり歓迎、とまではいかぬようじゃな。


「ボニフ様方、すみませんであります……

 自分のせいで居心地を悪くしてしまい」


「別にお前のせいでもないだろ」


 ドランは自分を指差す。


「むしろ、あの代官? が言ってたように、

 お前がいなかったらもっと酷かったかもしれん」


 ドランは鼻を鳴らしながらそう言った。


「それは、なんと言いますか。

 きょ、恐縮であります」


 わしとアリア、フレインはそんなドランを見てフッと笑う。


 ドランらしいな、と。


 しばらくすると料理が運ばれてくる。


 パンにパテ、スープ、肉、野菜の酢漬け、果実酒がテーブルに並べられる。


 周囲の軍人客から、小さく舌打ちが聞こえた気がした。


 まぁつまりはかなり贅沢な品々、というところじゃろうな。


「ふむ、これは豪華じゃの」


「バリスの最高級料理であります!」


 サーシャが張り切って言った。


(とは言ったものの、色味は少々薄く見えるの)


 フレインを見ると、他の者では分からぬ程度にわずかに眉を顰めておった。


 森で育ったエルフであるフレインは、総じて聴覚、視覚、嗅覚が常人より鋭い。


 この変化は恐らく嗅覚じゃろうか。


 わしは運ばれてきた料理の香りを確かめる。


(少し香辛料が強めに使用されておる香りじゃな)


 わしはフレインの変化に納得した。


 ドランは単純に嬉しそうにしておるな。


 アリアは興味深そうに見ておる。


「さて、サーシャ」


「はい! なんでございましょうか」


「帝国では食事をする時のマナーなどはあるのかの」


 わしはサーシャへと聞く。


 こういった公衆の面前でマナー違反をするとエルンスト殿へ迷惑がかかるかもしれぬしの。


「え! あ、気付かず失礼したであります!

 帝国では特にこれといって特別なマナーはないであります。

 ただ最初はスープや野菜から食べるのがマナーとして良いであります」


「食べる順番にマナーがあるのですか?」


 アリアがサーシャへ聞く。


「肉料理などのメインからいただくのは、ガッツいているようではしたない。

 そう思われるであります」


 まさに肉料理から食べようとしておったドランが手を止めた。


 危ないところじゃったの。


「気をつける点はそれだけでしょうか?」


 フレインが聞く。


「はい! それだけで問題ないであります!」


 サーシャがそう言い切ったため、わしらはスープや酢漬けから手をつけることにした。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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