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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第三章 帝国編

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第109話 道理が通れば認めざるを得ん

 わしらはニクソンに促され、ソファへと腰をかける。


「さて、私に会いたいとサーシャから聞いているが」


 ニクソンは前置きもなく、本題を切り出した。


「うむ。サーシャのことじゃ」


 わしはそこ言葉を区切ったが、ニクソンは目で続きを促した。


「案内役、と本人から聞いておるが──」


 わしは目を細め、ニクソンを見る。


「王国の貴族の名代とはいえ、一領主の、それも子爵の名代に文官という役人を案内につける、というのが気になってしもうての」


 ニクソンに回答を求めるように、わしはそこで言葉を止めた。


「何か、私に裏がある、と?」


 ニクソンは眉を顰めてこちらを見る。


「裏、とまでは言わんが……少しばかり厚遇をされておるような気がしての」


「ふん。貴殿らは少しばかり自身が所持している許可証の大きさを知っておくべきだな」


「と、言うと?」


「確かに許可証には王国の子爵の名代、その身分の証明である。

 しかしその実、大臣の印が押されておるのだろう?」


 公爵の押印についての話も、既にあがっておったか。


 わしは入寮記録を書いておった男を思い出す。


(入国審査が厳重とは聞いておったが、入国だけでなく国内の管理体制もじゃな)


「と、なれば帝国として粗相が出来ん。

 役人レベルを案内役として派遣するのは当然だろう」


 確かに筋は通っておる。


「なるほど、それについて納得した。

 が、わしらも公務できておる。

 サーシャの案内役はバリスの街まで、という認識であっとるのかの?」


 わしは前段を終え、わしらの本題を切り出す。


「それはそのつもりであったが──」


 ニクソンは少し考え、わしの方を見る。


「その公務とやら、もちろん貴国の秘匿する範囲もあるだろうが、言える範囲で教えて欲しい」


「それは必要かの?」


「当然だ。勿論ないとは思うが、帝国の不利になる──例えば何が工作を仕掛ける、などをされてはたまらん」


 ニクソンは言葉の通りの意図はない、ということを示すように苦笑しながらそう言った。


(じゃが、本音が混じっておるように感じるの)


 ──警告、ということじゃろうな。


「と、いうのは冗談だ。

 案内役として、公務の内容を概要だけでも知っていると役に立つ。

 貴殿らにとって、分からない土地で迷いながら公務をするよりも良いだろう」


 合理じゃな……。


 わしは王国の国外秘の情報を出さぬように考える──そういうフリをした。


「概要だけなら問題ないじゃろう」


 わしがそう言うと、アリアかもしくはドランか……どちらかがゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。


 ニクソンは手で説明を促すような仕草をした。


「子爵殿の領では道路整備が遅れておる。

 帝国の道路は世界でも随一と聞く」


 ニクソンは、そこまで聞いて小さく頷いた。


「子爵殿より“その実態を視察し、王国の整備の参考とせよ”と命じられておる」


「なるほど、帝国のインフラ視察、ですか」


 ニクソンがそう言い、わしはそれに対して頷いた。


「と、なると帝都の方まで?」


「当然、視察として目指しておる」


 ニクソンは納得はしたようじゃが、チラリとこちらを見た。


「そのリザードマンを連れて、か?」


 その質問の意図が分からず一瞬、わしは聞き返そうとしたが、踏みとどまった。


 帝国では獣人系の亜人種への偏見、もしくは差別がある。


 バリスで得た情報からするにそれは確かじゃろう。


 つまり、帝都までの視察にドランを連れ回す──その不自然さに対する質問。


 そこまで思考を巡らせ、わしはその質問に答えた。


「王国では獣人種は普通に生活をしておる。

 道路やインフラの視察に、そういった種族の視点も必要なんじゃ。

 それに──」


 さらに言葉を続ける。


「こちらに来るまで、そういった制度や文化を、"深くは"知らんかったのでな」


 あくまで、帝国の制度や文化に不平不満がないことを伝えるように付け足した。


「分かりました。では、それならば」


 ニクソンはサーシャの方に視線をやる。


 サーシャは、その視線に体を固くした。


「帝都まで、サーシャを案内役としてつかせましょう」


「「「「!?」」」」


 わしらは同時に、そしてわずかに反応した。


「こうして見ると分からないでしょうが、サーシャは獣人と人間のハーフです。

 しかし帝国の役人です。

 役人であるサーシャが案内役として同行をしていれば、そちらのリザードマンへの牽制にもなります」


(道理じゃな。筋が通り過ぎておる)


 断れば怪しまれる、か。


「それは大いに助かるのう。

 じゃが、サーシャ本人は大丈夫なのかの?」


 わしがそう言うと、ニクソンは大きく笑った。


「問題ありません。サーシャは役人で私の部下ですから」


 ニクソンはそれだけ言い、サーシャへと体を向けた。


「サーシャ。

 王国の子爵名代殿一行を無事、帝都まで案内するよう、バリス代官ニクソン・ナルニコフの名によって命ずる。

 返事!」


 ニクソンがそう言うと、サーシャは元々伸びていた背筋をさらに伸ばした。


「はっ! バリス文官サーシャ。

 代官ニクソン・ナルニコフ様の命を全うするであります!」


「よろしい」


 わしらはそのやり取りを、無言で眺めた。


「では、貴殿らの公務が問題なく進捗することをお祈り申し上げます」


 ニクソンはそう言って、会話の終わりを告げた。


****


 代官邸を出る。


 サーシャはわしらを街に送るということで、馬車の用意をしておる。


「なんか、すげぇやり取りだったな」


 ドランが先ほどのニクソンとサーシャの光景を思い出しながら呟いた。


「確かに、あれが帝国の軍、ということなのでしょうか」


 フレインはそう言うが、アリアは。


「代官とサーシャは文官のはずでは……」


 そうこぼした。


「そこも含めてサーシャに聞けばよかろう」


「確かにそうだな」


 ドランは馬車の用意をしているサーシャを見て言う。


「しかし、帝都まではサーシャ殿が同行……となると益々"公務をしている体"を取らないといけませんね」


 フレインがそう言うので、わしも困った表情をした。


「帝国に怪しまれずに通過する。

 そのための体じゃったのじゃがな……」


 やれやれ、じゃな。


「それにしてもボニフさん」


「なんじゃ?」


「よくあんな咄嗟に公務の内容をツラツラと作りましたね」


 アリアは感心と呆れを含んでそう言った。


「それな! なんというかさすがボニフだな、と思ったぜ」


 ドランの方は純粋な感心じゃが。


「まぁ年の功、というやつじゃ」


「見た目は若いですけどね」


 わしの返しに、さらにアリアがそう返した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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