第107話 珍妙な言葉遣いじゃな
主人の後についていくと、ロビーに一人の女性が立っておった。
あれが"客"じゃろうか。
「サーシャ様、お連れしました」
主人がその女性──サーシャの斜め前に立ち、わしらを紹介した。
「あ、あなた方様が、その、王国の貴族の方々で、あらせられますでしょうか?」
眼鏡をクイと上げ、女性はわしらへそう言った。
「貴族、まぁ名代じゃが、扱いとしては貴族ではあるの」
わしはそう答えた。
「じ、自分はこの関門都市バリスの、その、文官でありまして!
名をサーシャと言いますです!
この街でボニフ様方のご案内役として、こうして馳せ参じましてございます」
なんというか、言葉遣いが珍妙じゃな。
(しかし、それより──)
「わしらの名前を?」
「わわわ! 入領記録が、あの、来ておりまして、ですね。
その、代官様よりご案内さしあげろ、と。
そう"命"を受けてきておりますです」
「なるほどの。
サーシャ、と言ったかの。
ちと、仲間と会話させてもらってもよいかの?」
「はっ! いくらでも、待ちますです!」
わしは肩をすくめ、三人の方へ顔を向けた。
「えっと、どういうことでしょうかね?」
アリアが率直な疑問を投げた。
「案内役、いるか?」
ドランは、必要性を疑った。
「私達は実際に帝国に用がある、わけではありませんしね……」
フレインは本質をついた。
「そうじゃのう……」
わしは案内役──サーシャの方をチラリと見た。
案内役、とは言っておるがその実
(監視、かもしれぬの)
じゃが、あの言葉遣いと挙動。
監視にしては頼りなさそうに見えるが……。
(もし、あれが演技なら凄まじい才能じゃが)
「案内役、といっても何を案内するのか。
この街に滞在中だけであるなら、問題はなさそうじゃが」
「それは確かにそうですね」
わしが、限定付きてあれば受け入れてもよさそうか、と言えば、アリアは同意したように答えた。
「でもよ、限定的じゃなかったら?」
「ドラン殿が危惧されているのは、帝国にいる間ずっと、という事でしょうか?」
フレインがそう聞くと、ドランは大きく頷いた。
「確かに、それは確認した方がよさそうじゃな」
「本人に聞くんですか?」
「いや、さっき本人が"代官から命じられた"と言っておった。
代官に案内役の意図を聞いてみるのが良いじゃろうな」
アリアの問いに、わしはそう答えた。
三人はわしの答えを聞いて頷く。
そして、わしは改めてサーシャの方へ顔を向けた。
「案内役、と言うておったが」
「はっ! ご案内はお任せくださいです!」
サーシャはキリッとした顔でそう言った。
「いや、わしらも帝国に来て二日目での。
案内役、というのは助かるのじゃが……」
「はい、そうでございますよね!
その、なんでも、どこでも案内できますです!」
なぜ、そんなに張り切っておるのじゃろうか。
「貴族の名代、とはいえ王国の一領主の名代にすぎぬ。
わしらにわざわざ文官という"役人"を案内役として命じる……
その意図を確認したいのじゃが」
「え? 意図、でございますでしょうか?」
サーシャは首を傾げた。
「じ、自分は案内を全うするべく!
あの、あなた方様にご満足いただけると」
「いや、そうではなくじゃな」
わしはサーシャを制した。
「その、案内役を命じた、という代官に会うことは出来るじゃろうか」
わしがそう言うと、サーシャはまるで小動物のようにバタバタした。
「わわわ! 代官様に会うで、ございますでしょうか。
あの、一度持ち帰って、代官様へ聞いてみないと、その、分からないでございますです」
「む、うむ。そうか。
何、深い意味はなく公務としても一度お目通りしておいた方が良いじゃろうしな」
わしが妙な方向にいかないように、付け加えて釘を刺した。
「あ、それはそうでございますね。
分かりました! 代官様へ確認させていただきます!」
そう言ってサーシャは、すぐさま宿から出て行った。
「なんだか凄い人ですね」
「あんなのが案内役って、大丈夫か?」
「まぁ、文官と言っていましたし。
役人の仕事をしているのならば大丈夫だと思いますが」
「まぁ、三人のセリフが全てじゃな……」
わしらは出て行った宿の扉を見ながら、口々にそうこぼした。
「失礼致します」
宿の主人が、口を開く。
「しばらくは戻って来ないと思います。
それまでお部屋でお休みいただいて構いません。
またサーシャ様がお越しになりましたら、私の方から部屋までお呼びいたします」
「む、そうか。それは助かるの」
主人の申し出にわしらは頷き、一旦部屋へ戻ることにした。
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