第106話 食の違いは面白いものじゃ
宿のロビーに降り、そこにおる主人に話しかける。
「宿の食堂のようなものはあるのかの」
「ございます。
お客様のような方々でしたら、むしろ外で召し上がるよりも当宿で摂っていただいた方がよろしいかと」
「それはどういうことじゃろうか?」
「あのリザードマン──ドラン様の存在もありますが、食事自体の問題ですね」
主人は続ける。
「帝都まで行けば、それはそれは美味しい食事もございます。
が、ことこの関門都市バリスにおいて、新鮮な食材の流通が少ないのです」
(中央集権型の国、そのものの話じゃな)
わしは主人の話を聞いて、帝国の国の形を頭の中で構築した。
「当宿は言っても高級宿に位置付けられております。
ですので、それなりには食材が回ってきます」
そう言って主人は食堂の場所を、手で指し示した。
「別料金にはなりますが、ご利用の際は中にいる給仕にお声がけください」
「うむ。承知した」
わしはそれだけ聞いて、部屋にいる三人を呼びに行った。
そして三人と共に宿の食堂へと向かう。
給仕に案内され、テーブルへ座る。
言うまでもないが、ドランの料金は倍であった。
ただアリアは複雑そうな顔をしながらも、先ほどの会話で理解したからか深くは踏み込まんかった。
ほどなくして、料理がテーブルへと運ばれてきた。
パンにスープ、焼いた肉、そして少量のサラダ。
「野菜が少ないですね」
アリアが小声で言う。
「うむ。先ほどこの宿の主人が言うておったが流通量が少ないんじゃろうな」
「まぁなんにしろ、あったけぇ飯だ!」
ドランは早速肉に齧り付いた。
「私達もいただきましょう」
ドランの様子を見てフレインがそう言った。
「そうじゃな」
わしはパンに手をかける。
少し硬めのパン。
野菜の入っておらぬスープに浸して口にする。
──美味い。
美味い、が。
「なんだか、味が濃い?」
アリアが少し首を傾げた。
「これはエルフにとっては、少し舌がピリピリしますね」
「そうか? 肉は美味いぞ」
ドランは久しぶりの温度のあるご飯に満足しておるようじゃが。
「濃い、というより、少ししょっぱい感じはするの。
とはいえ、不味いわけではない。
普通に美味しいと思える味じゃな」
わしはそう言いながら肉を食べ、サラダに手を伸ばす。
サラダは瑞々しさがあまり感じられんかった。
(この辺りで野菜は獲れぬのか……それとも全て帝都へ送られるのか)
今考えても分からぬことに思考が奪われる。
(今は詮無きことじゃな)
わしらは野営続きじゃった食事から解放され、異国の料理を楽しんだ。
****
翌朝。
同じ食堂で朝食をとる。
パンに腸詰め、そしてハーブティーが提供された。
(朝食では野菜はなし、と)
わしは頷き、腸詰めを齧る。
さすがにレーベンの腸詰めには程遠い味ではあったが、それでも美味しく味わった。
そして、ハーブティー。
少し酸味の感じるベリーの匂いがただよう。
「ふむ。これは美味いのぅ」
ミルクのような新鮮なものは降りて来ぬ代わりに、ドライフルーツなどで美味しさを追求しておるのじゃろう。
(ところ変われば、違う方向に技術が進化するものじゃな)
わしは文化の違いに面白みを感じた。
「おはようございます。ボニフ殿」
「相変わらず朝が早いな」
ドランとフレインも食堂に来て、同じテーブルに座った。
二人にも同じ食事が運ばれてくる。
「で、この街に二泊するんだよな。
早く帝国は抜けないのか?」
ドランが食事をしながら、わしへと聞いてくる。
「一応公務、という建前で来ておるからの」
「それなんだけどよ。
なんでそういう建前が必要なんだ?」
ドランは不思議に思っていたのか、そう口にした。
「わしらの立場は王国の貴族。
エルンスト殿の名代じゃからな。
王国の貴族が入国するに相応しい"理由"がないと怪しいじゃろ」
「ふーん。そんなもんなんだな」
あまり興味がなさそうじゃが、納得はしたようじゃな。
「それで、すぐに立ち去るのは違和感があると。
そう言ったお考えなのですね」
「まぁ、すぐ帝国を抜けてアグリスへ向かう。
そう動いても、もしかしたら問題はないかも知れぬが……」
そこまでわしが言ったところで、遅れてアリアが食堂へと入ってきた。
「おはようございます」
そう言って、空いていたわしの横に座る。
「今日はしっかり起きたんだな」
ドランがそうからかうと、アリアが少し顔を膨らました。
「私も異国の初日くらいは起きますよ」
それでも一番最後なのじゃがな……と口には出さんかったが。
アリアも朝食を摂り、四人でこれからの計画を確認しようとしておった。
しかしロビーの方から主人が、わしらの方へと向かってきた。
「ボニフ様達にお客様がいらしています」
「客? 帝国に知り合いはおらぬのじゃが……」
わしは主人にそう返しながら、席を立った。
わしに続いてアリア、フレインと席を立つ。
ドランはその様子を見てからゆっくりと立ち上がった。
「主人、その客とやらはロビーで待っておるのかの?」
わしがそう聞くと、主人は頷いた。
「ご案内いたします」
そう言って主人が前を歩く。
わしらはそれに続いて進む。
面倒ごとでなければよいのじゃがな……
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