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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第三章 帝国編

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第105話 文化や制度とはそういうものじゃよ

 宿に着き、しばし部屋で休んでいたところに扉がノックされる。


「アリアです」


 そう、扉の向こうから声が聞こえた。


 わしは扉を開け、アリアを招き入れた。


「どうしたんじゃ?」


 わしは少し曇った表情をしておったアリアに、そう聞いた。


「ボニフさん、さっきのどう思いますか?」


 さっきの、とは獣人系への料金割増のことじゃろうな。


「ふむ、少し昔話でもするかの」


「昔話、ですか?」


 アリアを部屋にあったソファに座らせ、わしはベッドに腰掛けた。


「わしが、そうじゃな……まだ五十の頃じゃったかな」


 わしは昔を思い出し、そして続ける。


「わしらがおった、グランゼール王国……そう、王国でもあぁいったことはあった」


「えっ!? 王国で?」


 アリアは驚いたように声を上げた。


「まぁわしが五十のころじゃから、今から数えると八百年以上は昔の話じゃよ」


 わしは苦笑しながら答えた。


「その頃は王国に、獣人どころか、エルフやドワーフもおらんかった」


「いなかった?」


 わしは頷く。


「要するに、王国内には人間しかおらん。

 そういうことじゃな」


 アリアはそこで首を傾げた。


「でも、いなかったら料金割増みたいな制度もないんじゃ……」


「料金割増は結果的な制度であり、本質ではない」


 わしはアリアの疑問に待ったをかけ、続けた。


「ことの本質は"無知"じゃ」


「無知?」


 わしは大きく頷いた。


「目を瞑って今からわしが言うことを想像するんじゃ」


 わしがそう言うと、アリアは素直に目を閉じた。


「おぬしが住んでいる街には顔や背丈、肌の色は違えど、"造り"が同じ者しかおらん」


 つまり種族として人間しかいない世界をイメージさせる。


「そんな街に、一体の"ゴブリン"が初めて現れる」


 わしがそう言うと、アリアは肩をピクリと動かした。


「さて、初めて見る生き物に、おぬしはどうする?」


 アリアは目を開いて、しばし悩んだ。


「その"ゴブリン"は、話しかけてきたのでしょうか……」


「そうじゃのう。話しかけてきた……方が現実的じゃろうな」


「だったら……会話を試みますかね?」


 少し自信がなさそうにアリアが答えた。


「アリアらしいのう……おぬしはそのままで良いのかもしれぬな」


 わしはアリアの答えを聞いて、少し笑ってそう答えた。


「実際はどうなるんでしょうか」


「顔や背丈、肌の色……ではなく明らかに自分達と"造り"が違う生物が話しかけてきた。

 しかし、アリア達は"ゴブリン"を知らぬ」


 そこまで言うとアリアは小さく頷いた。


「全く知らぬ、初めて見る"異物"に話しかけられた時、人間はの──

 "無視"するんじゃ」


「無視ですか?」


「うむ。無視というのはの、"どうして良いか分からない"──そういった考えから生まれるんじゃ」


 アリアは少し理解したように頷いた。


「そして、それはやがて"嫌悪"や"恐怖"に繋がる」


「嫌悪や恐怖……」


 アリアはわしの言葉を、そのまま繰り返した。


「まぁ、"距離を置く"という精神的な行動から、嫌悪や恐怖のような感情が生まれる。

 きっかけの話みたいなものじゃな」


「それに繋がると、どうなるんですか?」


 アリアはわしに続きを促した。


「まぁさっきの例はゴブリンじゃったが、それが他の亜人種になっただけじゃ。

 当時の王国に、人間ではない種族が来たんじゃ」


 わしはそのまま続ける。


「最初は知らぬ者への恐怖から始まる。

 しかし言葉は話す。

 貨幣文化も同じようにある。

 無視をし続ける訳にもいかぬ」


「それはそうですよね」


 アリアが少し曇った表情を明るくして言った。


「じゃが、人間とは違う。

 この者達に人間と同じ扱いをして良いのか?とな

 そう感じるようになるんじゃ」


「でも普通に会話も出来るんですよね」


 わしは頷く。


「出来る。じゃが会話が出来ること、それが相手を理解する、には繋がらぬ。

 心の奥はどうなのか?

 その者が持つ文化はどうなのか?

 食事、習慣、宗教──まぁもっとあるじゃろうが理解出来ぬことは多いの」


「それは、確かにそうですね」


 アリアはそこで頷いた。


「例えば宿で人間とは違う使い方をして、部屋の物が壊れる、汚れる。

 料理店で種族として味覚や好みが違うために暴れる、怒る──こういった想像が積み重なった結果、制度として割増という"文化"が生まれる」


「少し飛んでませんか?」


 わしは首を振る。


 アリアの言いたいことも分からぬではないが、現実として文化は時に飛躍するもんじゃ。


「最初は"念のため"の追加料金みたいなものじゃったんじゃろうな。

 当時の王国にもあった制度の成り立ち、みたいな昔話じゃよ」


「では、今の帝国の制度も同じ、だと言うことですかね?」


「それは分からぬ。

 じゃが昔王国にもそういう制度があった。

 そういう話じゃよ」


 わしはそこで言葉を止めた。


「なんだか、分かったような分からないような……」


 アリアは複雑な表情を浮かべた。


「まぁ王国はその後、亜人種が普通に国の中で生活をするようになり、理解が深まり、その制度がなくなった。

 "無知"が消えたわけじゃな」


「帝国はまだ"無知"である、と?」


 わしは首を振る。


「それはないじゃろう」


「?」


「王国で長い歴史を経て、そういった制度が改革された。

 その情報は"ヴァルディア共和国"にも伝わっておった」


「昔の帝国、ですよね?」


「帝国になる前、の国じゃな」


 わしは、推測……にもならん、想像を話す。


「これは勝手な想像じゃが。

 共和国から帝国として国が変遷した時に、"獣人族"への嫌悪や恐怖、もしくは"見下し"や"蔑み"──そういった考えを持つ層が制度を復活させた」


「そんな!」


 アリアがソファから立ち上がった。


「想像の話じゃと言うたじゃろ」


 わしはそんなアリアを見て大きくため息をついた。


「本当のところは分からぬ。

 じゃが帝国民の全員が全員"そういった感情"とは限らぬ。

 少なくともこの宿の主人に、その感情は見えんかったしの」


「まぁ、確かにそうですね」


 アリアは宿の主人を思い出して、そう答えた。


「国の制度として、文化として定着しとる以上、わしらがゴネても何も変わらんじゃろうな」


「受け入れるしかない、と?」


「それが国、というものじゃ」


 そこまで続け、部屋の中に静寂が訪れた。


「なんとなく分かりました」


 アリアは立ち上がって、わしに頭を下げた。


「なんかモヤモヤしたものが少し晴れた気がします。

 ボニフさん、ありがとうございます」


 わしはアリアに向けて、手を振る。


「わしらの間では、そう畏まらんでよい。

 弟子の疑問に答えるのは師としての役割みたいなもんじゃ」


「その弟子の話、まだ生きている設定なんですか?」


 そこで帝国に入ってから、一番の笑顔になってアリアは笑った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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