第99話 いずれ帰ってくる場所
翌朝。
準備をしていた荷を馬車へと載せる。
これから始まるアグリスへの旅。
種族への脅威。
誘拐事件への義憤。
妹の救出。
失われた錬金術の真相。
それぞれがそれぞれの想いを胸に──。
「さて、旅立ちの前にラグナールへ行くかの」
わしらは全員頷き、しばらく戻ることが出来ぬであろう──ラグナールへ向かった。
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馬車工房へ向かうと、早速ベルタが出迎えた。
「おっ! 馬車の調子はどうだい?」
「かなり安定した走りじゃ。
まだぬかるみや雨などがないからその辺りは分からぬがの」
「まぁそりゃそうだ」
ベルタはそう聞いてニカリと笑った。
「ベルタさん本当にありがとうございました!」
アリアはそうお礼を言った。
「いいって。アタイはやるべきことをやっただけさ」
ベルタは手を左右に振りながら言った。
「で、今日はどうしたんだい?」
「今日から国を出て、長い旅になるでな。
その挨拶みたいなもんじゃな」
「なるほど。それであたいらに補強を頼んだんだね」
ベルタは納得したように頷いた。
「しばらくは戻って来れん。
馬車のメンテナンスはわしが道中に行うでな」
「おぅ! 戻ってきたら馬車の感想を教えてくれな!」
わしらは頭を下げて、馬車工房を後にする。
馬車は今までになく安定した走りで旅の負担を軽くしてくれるであろう。
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「本日はお休みでしょうか」
武器屋に着き、店の様子を見たフレインが言った。
「さすがに大仕事を頼んだからのう。
休息を取っておるんじゃろう」
わしらは閉じた店の前で心の中でボルジャーにお礼を伝える。
わし以外の三人は頭を下げながら手に新しい武器を握りしめておった。
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冒険者ギルドへ。
「あら、今日も依頼?
ってわけじゃなさそうな顔ね」
エルマがわしらを見て、早々にそう言った。
「エルマさん、これから長い旅に出るの。
しばらくは帰ってこれないと思います」
アリアがエルマにそう告げた。
「しばらくってどのくらいよ」
「分かんない。
一ヶ月なのか二ヶ月なのか……
いや一年以上かも?」
アリアは悩みながらエルマに伝える。
「えっ! そんなに?」
エルマはカウンターから身を乗り出した。
「大丈夫なの? 無事帰ってくるわよね?
心配だわ……ポーションたくさん持った?
危ない時は命を優先するのよ?
あと、えーとえーと……」
「エルマ」
横からエルマをミレイが制した。
「大丈夫ですよ、エルマさん」
アリアがわしらへと視線を向け、そしてエルマへと視線を戻した。
「私には心強い仲間がいますから!」
アリアがそう力強く言う。
ドランは少しばかり恥ずかしそうにしておる。
「そうは言っても……」
「一生会えないって訳じゃないんですから。
また戻ってきます」
「そう、寂しくなるけど……待ってるわよ」
エルマは納得したのか、アリアにそう答えた。
「アリア」
エルマの横からミレイが言う。
「あなたがパーティーを正式に組んでから、依頼達成率も向上しました」
ミレイの言葉にアリアは頷く。
「あなたも成長していると思います」
わしも頷く。
「あとは仲間を信じ、時に頼り、頼られる事です」
ミレイはそう言い、一拍。
「無事の帰還お待ちしています」
「はい!」
ミレイはわしらの方へ向く。
「あなた達も」
「まかせときな!」
ドランが自分の胸を叩いて答えた。
「《真理の導き》のご活躍を期待しています」
ミレイはそう言って頭を下げた。
「うむ、では行ってくるとするかの」
「なんでミレイが、そんなに綺麗に締めるのよ……」
「エルマが頼りないからです」
「うぅ……」
エルマとミレイのやり取りにわしらは笑った。
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ラグナールのギルドマスターゼノスがこちらへとやってきた。
「みなさん、その顔……もう行かれるのですね?」
「おう! 随分と世話になったな」
ドランがそう言うと、ゼノスは「特に何もしてませんよ」と呟いた。
「ゼノス、次は全部終わらせてからまた会いましょう」
「えぇ、フレイン様。
エルフの代表として、あなたに負担をおかけしてしまう事をお詫びします」
フレインはゼノスに近づき、肩を叩いた。
「私はエルフを代表して旅へ──教団からの脅威を阻止します」
フレインはゼノスの目をしっかり見ながら、力強く言う。
「が、特に負担だとは思っていません」
肩から手を離し、そして──
「吉報をのんびり待っていてください」
「分かりました」
ゼノスはゆっくりとフレインに頭を下げた。
「ゼノスさん、色々とお世話になりました」
アリアがゼノスに言う。
「妹さんの無事を祈っています」
「はい!」
そして、わしらはギルドを後にしようとした。
「ボニフさん」
ギルドを出るところでゼノスがわしに声をかけた。
「他の方々をよろしくお願いします」
そう言われ、わしは「大丈夫じゃよ」とは口に出さず、手を振った。
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ラグナールの街を出ようとしたところに街から走ってくる男が見えた。
「あれはボルジャーじゃねぇか?」
ドランの言葉通り、ボルジャーじゃった。
「おーい! ちょっと待てや!」
ボルジャーは走ってきて、わしらの元へ着くとゼェゼェと肩で息をした。
「俺に挨拶はなしかよ」
「いや、店に寄ったら空いておらんかったからの」
「む、それはそうか」
ボルジャーは頭を掻いて、そう答えた。
「この槍、馴染みがいいぜ。
ありがとな」
「この短剣もです」
「当然弓もですね」
ボルジャーは満足そうに頷いた。
「おい、ボニフ」
ボルジャーはわしを呼びながら麻袋を投げてきた。
わしはそれを受け取る。
「なんじゃ、これは」
袋を開けると、何やらサラサラとした粉が入っておった。
わしはその粉を掬いあげて確認する。
「ふむ、これは接合粉じゃな?
しかも混ぜ物があるな」
「さすが分かってるな。
これは嬢ちゃんの短剣やドランの槍に最適化してある」
なるほどの。
「やり方は知らねぇが、ボニフなら修理や調整は出来るんだろう?」
わしは頷く。
「補修用の素材は旅に持って行っておるが、接合粉、とはのぅ。
ありがたく使わせてもらうわい」
「ふん、俺の作った武器で死なれちゃ困るんでな」
ボルジャーは腕を組んで「ふん」と鼻を鳴らした。
「気をつけて行ってこい!!」
ボルジャーの大きな声で見送られながら、わしらはラグナールの街を後にする。
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「これからしばらく戻ることは恐らく出来ぬぞ?」
わしは最終確認として三人に言った。
「えぇ。エルフを代表して、教団の脅威を取り除くまで」
「女、子供……いや、それだけじゃねぇ……。
無実な人を苦しめるような奴は許さねえ!」
「そして、妹を……いえ、妹や私のように狙われる人をこれ以上増やさないためにも」
わしは御者台から手綱を握った。
馬は進む。
ラグナールの街が遠のいていく。
いや、一歩ずつ確かにアグリスへの道を進む。
「全部終わったらラグナールへまた戻ってくるしかないのぅ」
「はい!今度は妹と一緒に!
絶対に無事戻ってきましょう!」
ここで間章は終わりになります。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
戦力アップも終わり、準備も整いました。
ここから帝国を通過し、本丸へ……
果たしてすんなり帝国を通過できるのか?
物語は第三章「帝国編」へと続きます。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
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