第96話 技術的な話は楽しいのぅ
翌日。
わしらはラグナールの宿で一泊し、馬車工房へと向かった。
馬車の進捗を確認するためじゃったが……
「おぅ! 頼まれていた馬車の補強は終わってるよ」
馬車工房に着いて会うなり、ベルタがそう告げた。
「お願いした内容からして、まだ終わっとらんと思っておったのじゃが」
「普通ならね。
いやー久しぶりに実用性のある依頼だったもんで他の依頼より優先してうちの奴らかき集めてな」
ベルタはそう言い、工房におる職人たちの方を見た。
「中々に充実した仕事でしたね! ねぇ姉御」
そういって爽やかに笑っておる。
「まぁ、補強が済んだのなら何よりじゃわい」
わしらは実際に馬車の方へ移動する。
見た目は変わっておらぬようじゃが。
「車軸の方は、芯を合金に変えてある。
接合部には簡単に油が差し込めるようにしてあるからメンテナンスをしやすくしてある」
ベルタが横からそう説明した。
「ふむ、仮に街道を外れても軸が安定しそうじゃの」
「それに油の差し込み口は助かるの。
依頼にはなかったはずじゃが?」
「まぁ興が乗ったから勢いでやっちまった。
これに関しちゃ料金はいらねぇ」
わしが車軸を確認しながら言うと、ベルタがそう答えた。
「車輪の方はあえて変えてないよ。
元々の作りが良かったから。
少し歪みを整えたぐらいだね」
車輪の方を見ると、確かに前と変わっておらぬ、がこれまでの移動で少々の破損が治っておった。
「板バネの方はだいぶ苦労したよ。
ただ細かい調整をしながら最善な角度を見つけた。
ガタ付きや座り心地はかなり改善してるだろうね」
「その辺りは実際に使ってみてからじゃな」
「そうさね。
実際に問題があったら、また持ってきな」
わしは少し客車を上下に揺らしたが、こればかりは乗ってしばらく体験せんと分からんじゃろう。
「客車の屋根の方は水を弾く魔物の薄皮を仕込んである。
二重ばりにして中に空気の層を作ってある。
こっちは少し料金に上乗せさせてもらいたいがあとで相談だね。
雨や外の温度を遮断するから長旅には持ってこいさ」
「いや、かなりの大仕事じゃな。
わしの要望以上の出来じゃ。
料金の上乗せには相応であれば応じるぞい」
「さすがボニフの旦那。分かってるね」
わしとベルタは顔を見合わせ笑う。
「最後は重心の安定だが、馬が引きやすい重心に配置した。
人に合わせると逆に馬の負担が大きくなり、かえって安定しないからね。
荒い道でも横転せず、馬に負担をかけないよう重しを調整したよ」
わしはベルタの説明と補強の出来栄えを確認し終え、想像以上の内容に深く頷いた。
「いやー、久しぶりに充実した仕事だったもんで熱く語っちまったな」
「それだけの良い補強じゃったわい」
「ボニフの旦那も馬車工房で仕事しねぇか?
それだけ馬車に詳しいなら歓迎するぞ」
「旅が終わって世界を見終わった後ならそれも面白いかもしれぬな」
わしとベルタは握手をした。
****
「なんというか、全く二人の世界に入れませんでしたね」
「そうだな、まぁボニフのあの顔を見る限り、かなり良い方に転んだんだろうな」
「あのベルタという女性も晴れやかな顔をしていますね」
わしらの会話をよそに三人は離れた場所から、そう口にした。
****
代金を支払い馬車工房を出た。
ラグナールの街を出て、馬車の感想を言い合う。
「確かに前より安定感が増した、ような気がしますね」
アリアは馬車の椅子を触り、周囲を見渡しながら言う。
「風も窓を閉めていたらほとんど感じませんね」
フレインは窓を開閉して感想を口にした。
「馬の負担も今の所は問題なさそうじゃの」
わしは御者台から馬の様子を見ながら客車内に聞こえるように言った。
「これなら長旅でも大丈夫だな!」
ドランは客車から、布を捲りわしの方へそう告げた。
「恐らくの」
わしは短く、ドランにそう告げた。
ボルジャーの武器ができるまで、後一週間。
それまでは、わしの家でのんびり準備かの。
馬の軽快な足音とともに、馬車はわしの家へと向かう。
****
その後の一週間は、特に大きな出来事もなく過ぎた。
アリアは軽い鍛錬を続け、ドランは街の外で体を動かし、
フレインはわしの書庫にある本を、まるで歴史書を見るように興味深く読んでおった。
たまに四人でラグナールのギルドへ赴き、依頼をこなす。
フレインはその活動もありFランクからEランクに昇格した。
当の本人は特に反応もなく淡々としておった。
わしは馬車の微調整と荷物の整理をしながら、
帝国へ向かう準備を進めた。
****
武器の強化を頼んで二週間。
ボルジャーの言う通りであれば、そろそろ武器が仕上がっておる頃じゃろう。
わしらはボルジャーの元へと向かう。
わしはちらりと三人の様子を観察した。
ドランは新しい槍がかなり楽しみなのか、興奮しておる。
まぁアリアの方もソワソワしておるので似たようなものじゃろうな。
フレインは今のところ表情などに変化はないが、自分の武器じゃから実際に手にしたら変わる、かもしれぬの。
そしてボルジャーの店へ辿り着く。
扉を開けると、中から熱気が体を通り抜けた。
「おぅ、あんたらか」
そこには少しばかり痩せた、ように見えるボルジャーがおった。
「用件は分かってる。武器だろ?
出来てるぞ」
「おぬし、大丈夫か?
体格は前のままじゃが、覇気が消えとるぞ」
「あまりの大仕事に根を詰めすぎた。
だが手は抜いてねぇし、自信もある」
「だが」とボルジャーは続けた。
「出来上がった反動で、少し燃え尽きただけだ。
心配はいらねぇ。元気だぞ」
ボルジャーはそう告げながら、工房の奥へと歩いていく。
歩きながらぼそぼそと「これが終わったらしばらく休暇だな」とこぼしておるのが微かに聞こえた。
頼んでおいた武器を持って、奥からボルジャーが戻ってきた。
「さて、気を取り直してあんたらの武器のお披露目といこうか!」
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