第95話 便利な物ほど扱いには気をつけねばならんのじゃ
レーベン領主邸へ。
書状を門番に見せると、そのまま応接室へ通された。
ほどなくして、エルンストが現れた。
「お待たせしたな」
「いや、ほとんど待っておらぬ」
そう、軽くやり取りをすると、エルンストは封書を取り出した。
かなりの高級な封書に見える。
「レオポルト公爵からの返信だ。
この封書と封蝋は公的なやりとりで扱われるものだ。
恐らく許可証が入っているはずだ」
「まだ中身は見ておらぬのか?」
わしはそう尋ねると、エルンストが頷く。
「中身には君らへの言伝もあるかもしれん。
私はするつもりはないがこの場で封を開けた方が君らも安心だろう」
(中身のすり替えも出来なくはない、ということじゃろうが)
真面目じゃな。
エルンストは封を開けて中から二枚の手紙と一枚の羊皮紙を取り出した。
エルンストは羊皮紙の方を見て、「ふむ」と声を漏らした。
「こちらは間違いなく許可証だ。
王国法務大臣の印も押されている」
「それは許可証としてはかなりの効力になるじゃろうな」
いくら五百年の時が経過しとるとはいえ、大臣の印の効力が劣っておる……ということはさすがにないじゃろう。
エルンストも大きく頷いた。
「こっちは君らへの言伝だな。
しかし、なぜ二枚も?」
エルンストはわしらへの言伝が書いてあると思われる手紙を、わしの方へ差し出した。
もう片方の手ではもう一枚が握られておるが。
わしは受け取った手紙を手に取り、中身を確認する。
その紙を他の三人も覗き込んだ。
『ボニファティウス殿、アリア殿、ドラン殿、そしてまだ見ぬフレイン殿。
こうして会うこともせず書状にての言伝で大変申し訳なく思う』
「なんか凄い硬い文章ですね」
「公爵が書くからには違和感はないが、相手があの法の番人じゃからな」
アリアがそう言い、わしは手紙から目を離さずに答えた。
『先の事件の件のことであるが、君達の活躍もあり事件が表面化された。
政治的な動きではなく偶発的な事故、という形になったのは君達のお陰である。
アルバート個人の件は大変残念であったが、書面にて改めて感謝を伝える』
「頭の中で公爵の声が響く文章だな……」
ドランがそうこぼす。
同意じゃな。
『さて、帝国への入出国許可証が必要である、とレーベン卿から文にて伺った。
私個人としても、君達には法の範囲で出来る限りを、と思い許可証を発行した。
帝国については帝国内部の軍部、政治部、元老院あたりの関係で不穏な空気が漂っている、と聞いている。
君達なら大丈夫ではあると思うが、くれぐれも気をつけてくれ』
「これは、詳細までは分かりませんが、かなり重要な情報ではないでしょうか」
フレインがそう言う。
「そうじゃな。
帝国については五百年前までのことしか、わしも詳しくは知らん。
もっと言えば当時はヴァルディア"共和国"じゃったしな」
「え!?そうなんですか?」
アリアが驚く。
「私が知っているのは帝国ですね。
もしかしたらボニフ殿がいた五百年前から私の生まれる二百年前までの間に帝国に移り変わった、のでしょうね」
「その辺りもファルネスに聞いておけばよかったのう」
「なんだか国ってのは複雑なんだな」
ドランの雑な感想も、言い得て妙じゃな。
わしは手紙に再度目を移した。
『許可証の詳細についてはレーベン卿に聞くといい。
もう一枚の文にレーベン卿宛に記載してある。
では、道中の旅の安全を祈っている。
──レオポルト・フォン・ヴァイスハイト』
最後まで目を通して、心の中で公爵へ感謝を述べる。
「まさか、そんな──」
ふと、前を向くとエルンストが紙を持ってワナワナと震えておる。
「エルンスト殿、どうかされたか──」
わしがそこまで言うと、エルンストが椅子から勢いよく立ち上がった。
「君らにお願いがある」
エルンストはいきなりそう言って続けた。
「絶対に、絶対に帝国で粗相はしないでくれ!」
エルンストはまっすぐな目でわしらに訴えかけた。
「一体、いきなりどうしたというんじゃ」
「これを見ろ!」
エルンストは羊皮紙──許可証の方を掲げてわしらの方へ向けた。
そしてエルンストはある箇所を指さした。
そこにはこう書いてあった。
『本状の持参人を、エルンスト・フォン・レーベン子爵の正当なる名代と認め、その身分を保証する』
そりゃ、エルンストもそうなるわい。
「私の名代として帝国へ入国するのだ……
もし、私の名前で帝国で何かやらかしたら国際問題になる」
「そうじゃな……」
「もし、私たちが問題を起こしたら──」
「名代と言うことは、その責任は──」
「私ということになるな」
エルンストはがっくりと肩を落とした。
「よく分かんねぇが大人しく帝国を通過してアグリスへ向かえばいいんだろ?」
ドランがそう言った。
確かにそれは真理ではあるの。
「なんというか、君らには感謝している。
感謝はしている──が」
「が?」
「凄く嫌な予感しかしない」
エルンストは力無くそう呟いた。
心配性じゃのう。
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肩を落としたエルンストに見送られ領主邸を後にする。
「まぁ、なんにせよ許可証を貰えたのはよかったな」
「うむ。許可証の責任がちと重いがの」
ドランの言葉に、わしは一言付け加えた。
「でも、帝国の入出国はしやすくなりましたよね?
アグリスへ向けて一歩前進した気がします!」
アリアはそう言って前を向いた。
「そうですね。
私達に帝国から危害が加われば他国の貴族位に害をなした……と、なりますから」
「まぁ、帝国はただの中継地点じゃしな。
そう構えることもあるまい」
これであとは馬車の補強とと武器の強化を待つのみじゃ。
わしらはレーベン滞在の最後の夜を過ごした。
翌日、レーベンから乗合馬車に乗りラグナールへの帰路についた。
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