EP 7
純粋善という名の暴力(リリス無双)
ドゴォォォォォンッ!!!
ルナミス帝国第三区画の夜空に、巨大な火柱が上がった。
SSRアイテム『対戦車ロケット(RPG-7)』の弾頭は、L-Pay中央処理サーバー塔の地下空間で炸裂し、分厚い防爆扉と獣人テロリストたちを丸ごと吹き飛ばしたのだ。
「……ハァ、ハァ、ハァ……ッ!」
爆心地から数百メートル離れた路地裏。
影丸の『シャドウ・ステップ』で間一髪、爆風から逃れたリアンは、冷や汗で最高級シルクのパジャマを濡らしながら、震える手でマギ・フォンを取り出した。
(サ、サーバーは!? 俺のネット通販の命綱は無事か!?)
画面を見る。通信アンテナのアイコンは……立っている。
なんと、リリスが放った対戦車榴弾の爆風は、巨大なサーバー群を「数センチの隙間」で完璧に回避し、テロリストの仕掛けていた『圧縮闘気爆弾』ごと、敵だけをピンポイントで薙ぎ払っていたのだ。
「……あり得ない。あんな無軌道な発射で、どうしてインフラ設備が無傷なんだ」
リアンは前世の簿記1級の頭脳で確率を計算し、戦慄した。
答えは一つ。彼女の異常なユニークスキルと『善行システム』だ。
もしサーバーを破壊すれば、それは帝都の経済を止める「特大の悪行(マイナス10万ポイント相当)」となる。リリスの『クライマックス補正(運命力)』が弾道を捻じ曲げ、結果的に**「サーバーをテロから守った究極の善行」**へと事象を強制改変したのである。
「……あいつ、俺の完全犯罪の計算を、運だけで凌駕しやがった……」
リアンは深い絶望と共に、現場の様子を『竜丸』のカメラ越しに監視し続けた。
* * *
一方、爆心地である地下施設跡。
もうもうと立ち込める黒煙の中から、ボロボロになった獣人たちが這い出して来た。
「ガハッ……! ゴホッ……!! な、なんだ今の威力の魔法は……! 詠唱も陣もなかったぞ!?」
虎耳族の隊長が、自慢の毛皮をチリチリに焦がしながら血を吐いた。
屈強な肉体と闘気コーティングがなければ、跡形もなく蒸発していただろう。彼らは「人間は魔導に頼りきったヒョロガリ」だと見下していた。だが、今の一撃は彼らのちっぽけなプライドを根底から粉砕していた。
そこへ、煙を割って「コツ、コツ」と可愛らしい足音が近づいてくる。
「あーあ、せっかくのドカーンおもちゃ、一回で弾がなくなっちゃった。でも……」
緑色の鉄パイプ(使用済みのRPG)をぽいっと捨て、金髪のツインテールを揺らしながら歩いてきたのは、パジャマ姿の十歳の少女だった。
「ケホッ、ケホッ……って、獣人さんたち、真っ黒焦げで血だらけですね!? すっごく困ってますね!?」
リリスの目が、夜の闇の中でギラリと黄金色に輝いた。
「ひっ……!」
歴戦の勇士であるはずの人狼族の兵士が、その「純粋すぎる善意の眼差し」に射すくめられ、思わず後ずさる。
「大丈夫ですか!? 今すぐ私が『人助け』してあげますからね! 怪我人を助けたら、えーと、一回1000ポイントだから、三人で3000ポイント(30連ガチャ)!!」
「ば、化け物……! 逃げろォォォ!!」
虎耳族の隊長が絶叫した。
戦士の誇りも何もない。あれは人間ではない。「自分たちをポイント(点数)の塊としか見ていない、純粋悪ならぬ純粋善の捕食者」だ。
テロリストたちは蜘蛛の子を散らすように、夜の帝都の街路へと全速力で逃亡を開始した。
「ああっ! 待って! 逃げないで私のポイントォォォ!!」
リリスが地を蹴った。
魔神王を討ち果たした勇者・鍵田竜の血を引く彼女の脚力は、獣人たちのそれを遥かに凌駕していた。
「ひぃぃっ! 来るなっ! 闘気刃!!」
最後尾を走っていた豹耳族の兵士が、振り返りざまに真空の刃を放つ。
「危ないですよ! 転んじゃいますよ!」
リリスは放たれた闘気刃を**「素手ではたき落とし」**、そのままの勢いで豹耳族の兵士の襟首をガシィッ!と掴んだ。
「捕まえました! はい、安全な場所に避難!!」
「グベェェェェッ!?」
アスファルトがクレーター状に陥没し、豹耳族の兵士が白目を剥いて気絶する。
『ピロリン♪ 迷子の保護(過剰防衛):1000ポイント獲得!』
マギ・フォンから軽快な通知音が鳴る。
「やった! あと二人!」
「ヒィィィィッ! 隊長ォォォ!!」
前を走っていた人狼族の兵士が、仲間が十歳児に地面にめり込ませられるのを見て泣き叫んだ。彼は錯乱し、路地裏に積まれていた木箱やゴミ箱を次々と後ろに蹴り倒しながら逃げる。
「あっ! ゴミのポイ捨てはダメです! ゴミ拾い(1p)! ゴミ拾い(1p)!」
リリスは走りながら、蹴り倒された木箱の破片を空中で次々とキャッチし、そのままの勢いで前方のフリスビーのように投げ返した。
「危ないからお返ししますねー!!」
「ギャアァァァァッ!?」
音速を超えて投げ返された木箱の破片が、人狼族の兵士の背中にクリティカルヒット。彼はボールのようにバウンドしながら壁に激突し、動かなくなった。
『ピロリン♪ ゴミの分別と返却:50ポイント獲得!』
「ちぇっ、1000ポイントじゃないのかぁ。まぁいいや。最後のおじさーん! 待ってー!!」
* * *
「ゼェ……ッ、ハァ……ッ! な、なんなんだ、この国は……っ!!」
部下を全員(物理的な人助けで)失い、ただ一人逃げ延びた虎耳族の隊長は、大通りをフラフラと彷徨っていた。
人間はモヤシだと聞いていた。だが、あの十歳の幼女の腕力は、レオンハートの獅子王すら凌駕している。
(はやく、はやく本国に報告しなければ……ルナミス帝国には、素手で闘気刃を弾き落とす狂気の兵器がいると……!)
逃げなきゃ殺される(※助けられる)。
その一心で夜の街を逃げ続けた隊長の視界に、煌々と明かりが灯る一つの建物が飛び込んできた。
『ルナミス市警・第三区画交番』
(警察……! 人間の警察に自首すれば、あの化け物から逃れられる……!)
誇り高きテロリストは、ついに国家権力に保護を求めるという屈辱的な決断を下し、交番へと駆け込んだ。
だが、その交番の前には、既に「先客」がいた。
「右! 左! 右! 左! ふぅー! 警察のおじさーん! 私、こんな夜更けに交番の前で謎の反復横跳び(不審行動)をしてまーす! 早く補導して、同情のカツ丼を出してくださーい!」
透き通るような水色の髪を振り乱し、みすぼらしいジャージ姿で、常軌を逸したスピードの反復横跳びを繰り返す美少女——シーラン国の親善大使(※乞食)、リーザである。
「……は?」
逃亡してきたテロリスト隊長と、夜食のカツ丼目当ての乞食姫の視線が、交番の前でバッチリと交差した。
背後からは、「待ってー! 私に人助けさせてー!」というリリスの足音が迫ってくる。
隊長の脳裏に、最悪のアイデアが閃いた。
(こ、このガキを人質に取れば……!)
隊長がリーザに向かって鋭い爪を振り上げた、その刹那。
「——そこまでだ、卑劣なるテロリストよ」
ビカァァァァッ!!と、深夜の大通りを、白昼のような雷光が照らし出した。
交番の屋根の上に、金髪をなびかせ、剣に極限まで圧縮した「雷魔法」と「闘気」を二重コーティングさせた少年が立っていた。
「ノブリス・オブリージュ……。このクラウス・アルヴィンが、正道の剣で貴様を裁く!」
暗殺者の罠を抜け、純粋善の暴力から逃げ延びたテロリストの前に、最後に立ちはだかったのは、雷鳴の騎士と、カツ丼を待つ乞食姫だった。
ルナミス学園最強の10歳児たちが、いよいよ一つの交差点に集結しようとしていた。




