EP 14
未来予知のバグ(読めない暗殺者)
「……ハァ、ハァ……ッ! あり得ない……こんな未来、あり得ないッ!!」
『ナンバーズ』の地下アジト。
組織のリーダーであるゼロ(ギアン・アルバード)は、チェス盤をひっくり返し、頭を抱えて発狂寸前のうめき声を上げていた。
ワンは失踪。ツーは音信不通。スリーは自己破産してドワーフに追われている。
組織をここまで壊滅に追いやった「見えざる敵」の正体を突き止めるべく、ゼロは自身の最強のユニークスキル【未来予知】を限界まで発動させたのだ。
結果、彼の脳裏に一人の少年の姿が浮かび上がった。
クライン侯爵家の子息、リアン・クライン(10歳)。
「たかが十歳のガキが……俺の組織をコケにしたというのか。舐めやがって。俺自身が直接、奴の屋敷に赴き、その首を刎ねてやる」
ゼロは目を閉じ、【未来予知】を使って「リアンの屋敷に忍び込み、暗殺を成功させる未来」のシミュレーションを開始した。
だが、その予測の先に見えたものは、ゼロの理解を遥かに超えた『地獄』だった。
* * *
【未来予測ルートA:窓からの侵入】
ゼロは夜の闇に紛れ、リアンの寝室の窓から音もなく侵入する。
ベッドで眠る少年に近づき、刃を振り下ろそうとした瞬間。
『——カチャッ』
足元の最高級ペルシャ絨毯が僅かに沈んだ。
絨毯の下に、致死量のANFO爆薬(自作)と、起爆用の魔導線が「網の目」のように張り巡らされていることに気づいたのは、ゼロの体が爆風で木っ端微塵に吹き飛ぶコンマ一秒前のことだった。
(死亡確認)
【未来予測ルートB:天井裏からの強襲】
床がダメなら上からだ。ゼロは天井板を外し、気配を完全に殺して落下攻撃を仕掛ける。
だが、空中に飛び出した瞬間、リアンの部屋の「観葉植物の植木鉢」の中から、自動照準化された『地球製の玩具リボルバー(.357マグナム実弾装填)』が三丁同時に飛び出し、空中のゼロの眉間を正確に撃ち抜いた。
(死亡確認)
【未来予測ルートC:影に潜んでの毒殺】
物理攻撃が通じないなら、毒だ。ゼロは気配を消し、リアンが飲むはずの紅茶に猛毒を一滴垂らす。
しかし、リアンが紅茶を飲む前に、三十センチのワーム『喰丸』がカップごと毒を飲み込み、そのままゼロの「自身の影」の中から騎士『影丸』が飛び出してきて、ゼロの心臓を背後から串刺しにした。
(死亡確認)
【未来予測ルートD:屋敷の外からの遠距離魔法攻撃】
もう部屋に入るのはやめだ。外から屋敷ごと炎の魔法で焼き尽くす。
ゼロが呪文の詠唱を終えた瞬間、上空に待機していた空母ドローン『竜丸』から降下してきた無数の『ミニ丸』部隊が、ゼロの鼻の穴と耳の穴から体内に侵入。胃壁を内側から切り刻まれ、象用麻酔薬を致死量注入されて口からカニのように泡を吹いて倒れた。
(死亡確認)
* * *
「——グアァァァァァッ!!?」
ゼロは玉の汗を流しながら、現実の世界で床に転げ回った。
「な、なんだあの狂った防衛網は!? あれは人間の子供の部屋じゃない!! 国王の寝室よりも、魔神王の城よりも凶悪な死地じゃないか!!」
ゼロの【未来予知】が見せた結末は、14通りの侵入経路すべてにおいて『ゼロの無惨な死』だった。
リアンの部屋は、自販機化への恐怖が極まった結果、**「半径5メートル以内に侵入したあらゆる生命体を、原価率0.1%以下のコストで確実かつ自動的に隠滅する」**という、世界最悪の要塞と化していたのである。
「ハァ……ハァ……。ふざけるな……。あいつは一体、何に怯えてあんな異常な罠を張り巡らせているんだ……! 国家に対する反逆か!? それとも世界征服の準備か!?」
(※ただ「ネット通販の履歴を見られたくない」という一心です)
ゼロは震える手で壁を叩いた。
このままでは、自分が殺される。だが、あの要塞(クライン侯爵邸)にいる限り、リアン・クラインを暗殺することは100%不可能だ。
「……待てよ。奴とて、一日中あの部屋に引きこもっているわけではないはずだ。外に出る瞬間が必ずある……!」
ゼロは再び【未来予知】を起動し、リアンの行動パターンを解析した。
「……ルナミス学園。初等部五年、特待クラス。……そうか、学校か!」
ゼロの顔に、サイコパス特有の歪んだ笑みが戻ってきた。
「いくらあの異常なガキでも、公共の場である学校の教室に、爆弾や罠を仕掛けることはできまい。そこが貴様の『死角』だ……!」
ゼロの未来予知は、「学園でリアンを急襲すれば、罠を発動される前に殺せる」という僅かな勝機を導き出した。
だが、彼は一つだけ、致命的な計算違いをしていた。
リアンの教室(特待クラス)は、罠がないから安全なのではない。
そこは、「善行という名の暴力を振るうガチャ勇者」と、「飢餓感で何でも食べる乞食姫」、そして**「正道の覇気で全てを圧倒する雷の神童」**という、トラップよりも遥かに理不尽な『歩く災害』たちが密集している、この世で最も危険な特異点だということに。
「……待っていろ、リアン・クライン。明日の昼、お前の学園を血の海に変えてやる。未来は、このゼロが支配するのだ!」
高笑いするテロリストの首領。
いよいよ明日、ルナミス学園を舞台にした、第二章最大の乱戦の幕が上がる。
* * *
一方その頃。
未来で自分の命が狙われていることなど露知らず、クライン侯爵邸の自室(要塞)にいるリアンは、徹夜で目を真っ赤に充血させながらマギ・フォンを操作していた。
「……よし。屋敷の防衛システムのアップデート完了。次は、消えた帳簿の復元だ……。クソッ、領収書(魔導レシート)の束が合わない。あのテロリストの親玉、絶対に許さない……。明日、学校の授業中も内職して計算しないと間に合わないぞ……」
暗殺神童の怒りの矛先は、もはや「命のやり取り」ではなく、完全に「確定申告の期限」に向いていた。
——交わるはずのない二人の殺意が、明日のルナミス学園で、最悪の形で激突する。




