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EP 13

マネーロンダリング攻防戦(消えた残高と帳簿の怨念)

帝都ルナミスの商業の中心、ゴルド商会・本店ビル最上階。

『ナンバーズ』のナンバー3(スリー)にして、ゴルド商会の大幹部でもあるギリルク(40歳)は、最高級のルチアナの雫(米麦草の特製酒)を傾けながら、マギ・フォンの画面で己の資産を眺めていた。

「ククク……。愚かな人間どもめ。まさかこの私が、商会の物流システムと自身の【テレポート】を悪用し、ナンバーズの活動資金をマネーロンダリングしているとは夢にも思うまい」

ギリルクは組織の兵站ロジスティクス担当だ。

各地でナンバーズが略奪した金品を自身の【テレポート】で安全な場所に転送し、それをゴルド商会の架空口座を通して『正当な利益』として洗浄ロンダリングする。彼の口座には、既に数十億円(JPY)という莫大な裏金がプールされていた。

「ゼロ様も大げさな。【リセット】など使わずとも、私の資金力で飛竜騎士団ごと買収してやれば、帝都など——」

ピロン♪

その時、彼の手元のマギ・フォンに、一通の通知が届いた。

『通知:ダミー会社【K-Frontier】より、超重量建築資材(鉄骨1万トン)の緊急テレポート配送依頼を受注しました。自動決済:マイナス5億円』

「……は? 鉄骨、1万トン? なんだこの誤発注は」

ギリルクが眉をひそめた、次の瞬間。

ピロロロロロン♪

『通知:先物取引市場にて、貴方の保有する【太陽芋】の価格が暴落中。追証マージンコールが発生しました。自動引き落とし:マイナス15億円』

『通知:【K-Frontier】より、大量のトライバードの糞(特級肥料)10万トンの着払い依頼を受注しました。テレポート魔力消費率:98%警告』

『通知:不正な口座間送金を検知。ゴルド商会監査AIにより、口座A〜Zまでの資金を一時凍結します』

「な、なんだ!? 何が起きている!?」

ギリルクはワイングラスを落とし、慌てて画面をスクロールした。

狂ったような通知の嵐。保有資産の数字が、凄まじい勢いで溶けていく。数秒ごとに何億円という単位で金が消滅し、同時に自身のユニークスキル【テレポート】の魔力が、謎の「大量の糞」の転送処理によって強制的に限界まで吸い上げられていく!

「ば、バカな! 私の裏口座のセキュリティは完璧なはずだ! ゴルド商会のシステムにハッキングを仕掛けられる者など、この大陸に存在しな——っ!?」

『ピロン♪』

最後の通知と共に、画面の残高表示が『0円』を通り越し、赤文字で『-45,000,000,000円(マイナス450億円)』という絶望的な数字に切り替わった。

バンッ!!!

直後、VIPルームの分厚い扉が蹴り破られた。

「ギリルク取締役ェ!! てめぇ、商会のシステム使って不正取引と巨額の焦げ付き出しやがったなァ!!」

なだれ込んできたのは、筋骨隆々で顔に傷のある、ゴルド商会『特務監査部(別名:物理的借金取り)』のドワーフたちだった。彼らの手には、闘気を帯びた巨大なハンマーが握られている。

「ち、違う! これは罠だ! 私の口座が何者かに——ヒィィィッ!?」

「問答無用だ! 450億、てめぇの内臓と【テレポート】のスキルごと売り飛ばして回収してやる!!」

「ま、待て! テレポートで逃げ——あ、魔力が! 先の『糞10万トン』の転送で魔力が枯渇して……アバーーーーーッ!!!」

大幹部の悲鳴が、夜の帝都に木霊した。

     * * *

同時刻。クライン侯爵邸、リアンの自室。

「……ふぅ。これでスリーの保有資産は全損。ゴルド商会の監査の目も入った。奴はもう、表の世界にも裏の世界にも居場所はない」

ベッドの上で、三台のマギ・フォンと、空中に投影した数枚のホログラム・ディスプレイを同時に操作していたリアン(10歳)は、冷たい目でエンターキーをターンッ!と叩いた。

彼の周囲には、キーボードを物理的に操作するための『弓丸』や、通信ケーブルを直接いじってIPアドレスを偽装する『ミニ丸』部隊がせわしなく動いている。

「……たかだか異世界のテロリストが、地球の『システムトレード』と『空売り』、そして前世で俺が死ぬ気で取得した【簿記1級の監査テクニック】に勝てると思うなよ」

リアンは、L-Payサーバー事件の後、ゴルド商会の暗号化された取引ログの「ほんのわずかな貸借バランスのズレ」を見逃さなかった。

そこからスリーの裏口座を特定し、【ネット通販】のダミー会社システムを逆用して、スパムのような超大口の物理配送(嫌がらせ)を強要。同時に市場を操作して、スリーの資産を一瞬で焦げ付かせたのだ。

「……テロを起こすのは勝手だ。人間どもを支配するのも好きにすればいい。だがな……」

リアンは、手元にある「丸一日分の作業が消え、白紙になった月末の帳簿」をギリッと握りしめた。

彼の背後から、怨念のような真っ黒なオーラ(前世のブラック企業の副料理長の怒り)が立ち上る。

「俺の労働(タダ働き)を『リセット』で無かったことにした罪は、何百億積もうが償えない。……これで、ナンバーズの資金源と物流網は完全に断たれた」

リアンの冷酷な計算は完璧だった。

資金がなければ組織は動けない。彼らは必ず、残された手駒で焦ってボロを出すはずだ。

「さて、次はどの口座を調べてやるか……ん?」

リアンは、スリーの口座から過去に送金されていた「謎の暗号化データ」の存在に気づいた。

パスワードクラック(総当たり攻撃)をミニ丸に実行させ、そのファイルを開く。

そこには、帝国政府の最高機密印が押された、古い報告書が入っていた。

リアンがそのテキストを読み進めた瞬間、彼の心臓が、ドクンッ!と嫌な音を立てて跳ねた。

『——特秘事項:ユニークスキル保持者の管理と運用について——』

『対象番号00(ギアン・アルバード)。スキル:未来予知。

対象は現在、第三区画地下施設のカプセル内に監禁中。魔力抽出管を接続し、帝国の未来予測システム(生体パーツ)として完全管理下に置く。自我の崩壊が見られるが、運用に支障はなし』

「…………っ!!」

リアンの顔から、サァッと血の気が引いた。

呼吸が浅くなり、マギ・フォンを持つ手がガタガタと震え出す。

「か、監禁……生体パーツ……」

そこには、リアンがずっと恐れていた「自販機化恐怖症パラノイア」の、**完璧な裏付け(証拠)**が記載されていたのだ。

「……やっぱり、俺の被害妄想じゃなかった!! ルナミス帝国は、ユニークスキルの存在がバレたら、本当に人間を隔離して、一生チューブに繋いで『機械(自動販売機)』にする国だったんだ!!」

リアンは頭を抱え、ベッドの上で恐怖に震え上がった。

テロリストの資金源を絶ったという達成感など一瞬で吹き飛び、絶対的な国家の闇がリアンの理性を食い破る。

「……ダメだ。スリーの口座をいじった痕跡から、帝国政府(監査部)が逆に俺にたどり着くかもしれない……。国にバレる……! 俺が捕まって、暗い地下室で一生『出刃包丁』と『トイレットペーパー』を【ネット通販】で出させられる肉ダルマにされる……ッ!!」

極度の恐怖は、天才の思考を「暴走」させる。

リアンの目は、完全に虚無へと落ちていた。

「……消そう。テロリスト(ナンバーズ)も、帝国政府の闇のデータも、俺の存在を知り得る全ての要素を、完璧な『更地』にして隠滅する」

防衛戦は、終わった。

自販機化への恐怖がリミッターを外した暗殺神童による、手段を選ばない**『絶対的証拠隠滅(殲滅戦)』**が、ここから始まる——。

     * * *

(その頃、ナンバーズのアジト)

「……ゼロ様。スリーの口座が凍結され、彼がゴルド商会から多額の借金取りに追われ、行方不明になりました」

「……なんだと?」

チェス盤の前で、ゼロは初めて眉をピクリと動かした。

ワン(ナナシ)は連絡が途絶え。ツー(ルルシア)は帰ってこず。頼みの綱だったスリー(資金源)までが、物理的な暴力ではなく「経済的な破滅」によって一瞬で盤面から消えた。

「……ふざけるな。一体、誰が俺の未来予測を狂わせている……!」

サイコパスのリーダーの顔に、初めて「焦り」の色が浮かんでいた。

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