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EP 12

破壊の衝撃と、絶対防衛のゴミトング

ルナミス帝国、第一区画と第三区画を繋ぐ巨大な魔導大橋『ルナ・ブリッジ』。

帝都の物流と交通の要であるこの橋の上空に、禍々しい殺気を放つ大柄な男が立っていた。

犯罪組織『ナンバーズ』の武闘派、ナンバー1(ワン)——本名、ナナシ。

かつて快楽殺人鬼として死刑判決を受けた彼は、ゼロによってその命を救い出され、以来、世界を破壊することだけに喜びを見出す狂人となっていた。

「……ククッ。ゼロの旦那も慎重すぎるぜ。小難しい策略や、時間を戻す『リセット』なんてまどろっこしいモンは必要ねぇ。俺の力で、この帝都のインフラを端から『塵』に変えていけばいいだけのことだ」

ナナシは、自身の両手を見つめ、嗜虐的な笑みを深めた。

彼のユニークスキル【破壊】。

それは、魔法でも闘気でもない。触れた物質の分子結合を強制的に解き放ち、砂すら残さず消滅させる『絶対的な崩壊の力』。さらには、その力を「不可視の衝撃波」として遠距離へ放つことも可能だった。

「まずは、この無駄にデカい橋を消し飛ばしてやる。朝の通勤ラッシュでパニックになる人間どもの顔が目に浮かぶぜ……ハハハッ!!」

ナナシが両腕に凶悪な【破壊】のエネルギーを充填し、大橋の主柱に向けて一気に放とうと構えた、その時だった。

「——ああっ! コラッ! そこでタバコのポイ捨てしたおじさん! ダメですよ!!」

静まり返った深夜の橋に、場違いなほど元気で、甲高い少女の声が響いた。

「……あァ?」

ナナシが苛立たしげに視線を下ろすと、そこにはパジャマ姿の上にエプロンをつけ、右手には「長い金属トング」、左手には「指定ゴミ袋」を持った金髪ツインテールの十歳児が立っていた。

鍵田家の狂犬、リリスである。

「こんな夜中に何してんだクソガキ。……迷子か? それとも死にたいのか?」

「迷子じゃありません! 私は今、絶賛『夜のゴミ拾いパトロール(1p×無限)』の真っ最中なんです! ところでおじさん、今そこにタバコの吸い殻落としましたよね! 拾って分別してください!」

「……ハッ。狂ってやがる」

ナナシは鼻で笑った。

彼のような快楽殺人鬼にとって、子供を殺すことなど虫を潰すのと同じだ。いや、むしろ絶望する顔を見るのが最高の娯楽ですらある。

「いいぜ、ガキ。お前がそんなにゴミが好きなら……お前自身が、この世界から『粗大ゴミ』として消滅させてやるよ!!」

ナナシは、大橋へ向けるはずだった【破壊】の衝撃波の矛先を、無邪気にトングを構えるリリスへと向けた。

「消し飛べェ!! 【ディストラクション・ウェーブ】!!」

ゴゥォォォォォォォッ!!!

音すらも消滅させる絶対的な破壊の波動が、ナナシの手のひらから放たれた。

それは橋の路面をえぐり、空間そのものを歪ませながら、リリスの小さな体へと一直線に迫る。闘気で防御しようが、魔導障壁を張ろうが、あらゆる防御をすり抜けて対象を塵に還す、必殺の一撃。

だが。

リリスの目は、迫り来る「死の波動」ではなく、その風圧によって飛ばされそうになった『ゴミ袋』の方を向いていた。

「あっ!? ちょっとおじさん! 突風起こさないでください! せっかく集めた空き缶(1p)と燃えるゴミ(1p)が飛んじゃうじゃないですかぁ!!」

リリスは慌てた様子でゴミ袋を背中に庇うと、向かってくる【破壊】の衝撃波に向かって、右手に持った金属トングを無造作に振り抜いた。

——パァンッ!!!

「……………………は?」

ナナシの口から、間の抜けた声が漏れた。

彼が放った、万物を塵に還すはずの絶対的な【破壊】の衝撃波が。

十歳の幼女が「ハエを払うような手首のスナップ」で振り抜いた『金属トング』によって、まるで野球のボールを打ち返すかのように、あっさりと弾き飛ばされたのだ。

「あ、危ないなぁもう……。風の魔法ですか? ゴミ拾いの邪魔しないでくださいよ」

リリスはぷんすかと怒りながら、弾き飛ばした衝撃波の行方すら確認せずに、足元に落ちていたタバコの吸い殻をトングで器用につまみ、ゴミ袋に入れた。

ピロリン♪

『ポイ捨ての回収:1ポイント獲得!』

「……え? ……あ? ……は?」

ナナシの脳が、目の前で起きた事象を処理できずにショートしていた。

自分の能力は【破壊】だ。触れたものを消滅させる。当然、あのトングも触れた瞬間に塵になるはずだった。

だが、ナナシは知らない。

リリスは「魔神王を討伐した勇者の血」を引いているだけでなく、彼女のユニークスキル【善行システム】には、絶体絶命の危機において乱数がバグる『クライマックス補正(運命力)』が備わっていることを。

彼女が「ゴミを守る」という純粋な善意で動いた瞬間、そのトングは神をも殺す伝説の聖剣と同等の耐久度と概念干渉力を獲得していたのである。

「な、なんだお前は……っ!? なぜ俺の力が効かない!? 俺の【破壊】は絶対だ! 全てを塵に還す、神に選ばれた力のはずだぞォォォ!!」

パニックに陥ったナナシは、半狂乱になりながら、両手から連続で【破壊】の衝撃波を乱れ撃ちにした。

ドゴォ! ズバァッ! ゴガァァァン!!

「わあっ! ちょ、ちょっと! だからゴミが散らかるって言ってるでしょ!!」

リリスは右手のトングと、左手のゴミ袋を風車のように振り回した。

ドカッ! バキッ! パァン!!

飛んでくる衝撃波を、トングで弾き、ゴミ袋で受け流し、時には素足で蹴り返す。

「ひぃっ……! ば、化け物……ッ!」

ナナシが放った衝撃波の一つが、リリスのトングに弾き返され、ナナシ自身の足元の橋の欄干を消し飛ばした。

快楽殺人鬼の顔から、嗜虐的な笑みが完全に消え失せていた。

彼がこれまでの人生で積み上げてきた「破壊者」としてのプライドとアイデンティティが、パジャマ姿の幼女のトングによって、木っ端微塵に粉砕されていく。

「あーあ。おじさんが暴れるから、せっかく集めたゴミが散散らばっちゃったじゃないですか。……これは、ペナルティ(減点)ですね」

ピタッ、と。

リリスの動きが止まり、彼女の瞳が、夜の闇の中でギラリと黄金色に輝いた。

「ひっ……!」

ナナシは悟った。

こいつは人間ではない。人間の形をした、全く別の条理で動く『理不尽そのもの』だ。

「……ねぇ、おじさん。悪いことしたなら、お掃除、手伝ってくれますよね?」

リリスはトングをカチャカチャと鳴らしながら、とびきりの笑顔で一歩、ナナシへと歩み寄った。

「あ……あぁ……っ……」

恐怖。純粋な暴力への恐怖。

ナナシは膝から崩れ落ちた。彼の精神は、ここで完全に折れた。

「……ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!! 許してくれェェェ!! 俺が悪かった!! ゴミ拾いでもなんでもするから!! 塵にしないでくれェェェ!!」

帝国を恐怖に陥れるはずだった最凶の武闘派テロリストは、十歳の幼女の足元に額を擦り付け、涙と鼻水を流しながら命乞いをした。

「本当ですか!? わぁい! 一緒にゴミ拾い(1p)してくれる人が増えました! おじさん、いい人ですね!」

「アヒィィィ……ッ、ハイィィ……ッ」

     * * *

翌朝。ルナミス市警・第一区画交番。

交番の前に、綺麗に分別された「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「資源ゴミ」の袋が山のように積まれていた。

そしてその横で、屈強な大柄の男が、虚ろな目で竹箒を持って交番前の掃き掃除をしている姿が発見された。

「……お前、指名手配中の連続殺人鬼『ナナシ』じゃないか!?」

驚く警官たちに対し、ナナシはボロボロと涙をこぼしながら答えた。

「……はい。私がやりました。どうか……どうか早く私を安全な独房に入れてください。……外の世界は、トングを持った悪魔が歩いている……もう、お外に出たくないんです……っ」

こうして、ナンバーズが誇る最強の物理アタッカー『ワン(ナナシ)』は、リアンに認知されることすらなく、純粋善の暴力によって完全に無力化(更生)され、自らムショへと引きこもったのであった。

(一方その頃、アジトではゼロが「ワンの連絡が途絶えた……まさか敵の伏兵か?」とシリアスに警戒していたが、彼はただ独房の中で平和に折り紙を折っていた)

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