EP 15
絶対無敵のスパチャアイドル(盤面崩壊)
『エラー。対象の行動に合理性が存在しません』
『エラー。弾道の計算式が破綻しています』
『エラー。空間内の知能指数が極限まで低下しています』
『ナンバーズ』のリーダー、ゼロ(ギアン・アルバード)の脳内で、最強のユニークスキル【未来予知】が、かつてない警告音を鳴り響かせていた。
彼の視界(未来予測)は、これまでどんな達人の剣戟も、どんな高度な魔法陣の起動も、完璧な数式として処理してきた。
だが、目の前の二人の「十歳の幼女」が発する情報量は、ゼロの理解を根底から粉砕していた。
「——悪いテロリストさん! 教室を散らかした罪で、お仕置き(1000P)です!!」
リリス・カギタが、緑色の鉄の筒——SSRアイテム『対戦車ロケット(RPG-7)』を肩に担ぎ、満面の笑みでゼロに狙いを定めた。
「クッ……! バカめ、その魔力を持たない鉄の筒から何かが飛び出す未来は見えている! 弾道は直線! 俺は左に半歩ずれるだけで——」
ゼロが余裕の笑みを浮かべ、予知通りに左へ躱そうとした、その瞬間。
「よっと!」
リリスはRPGの引き金を引くのではなく、あろうことか右手に持った金属トングで、装填されたロケット弾の先っぽ(弾頭)をカァァァンッ!!とフルスイングでぶん殴ったのである。
「は……?」
物理法則と安全装置を完全に無視したトングの打撃により、ロケット弾は信じられない軌道——まるで生き物のようなスライダー回転——を描いて、ゼロの「回避しようとした先」へと急カーブして飛んできた!
「な、なんだそのデタラメな弾道はァァァ!?」
ゼロは悲鳴を上げながら、咄嗟に魔力障壁を最大出力で展開した。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
凄まじい爆風が教室を吹き飛ばす。
「グアァァァッ!?」
障壁を粉砕され、黒焦げになりながらも、ゼロは辛うじて致命傷を避けて後方へ吹っ飛んだ。
「ハァ……ハァ……っ! ば、化け物め! 未来予測の数式を、運と腕力だけで捻じ曲げやがった……!」
床を転がり、膝をつくゼロ。
彼の誇り高きサイコパスの顔面は、既にすすと脂汗に塗れていた。
「だ、だが、まだ俺には未来が見える! ここから体勢を立て直し、あの狂ったガキを——」
ゼロが顔を上げた、まさにその『着地点』だった。
「——みなさんご一緒に! ソレ! ヨイヨイ!!」
そこには、ボロボロのみかん箱の上に立ち、両鼻の穴に5円玉をねじ込んだ美少女——リーザが、自前のマイクを握りしめて待ち構えていた。
「♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン!!」
教室に、人魚の美声で歌い上げられる極上の下ネタ宴会ソングが響き渡る。
しかも、ただ歌っているのではない。ゼロの【未来予知】が捉える情報(音波)が、リーザの異常なまでの「無料への執着」と「アイドルとしての熱量」によって、物理的なノイズとなって脳に直接突き刺さってくるのだ。
「グッ……!? な、なんだこのふざけた歌は! 俺の未来予知の集中力が……乱され……!?」
さらに、ゼロを絶望の底に叩き落とす『追撃』が現れた。
リーザの背後で、泥だらけのジャージを着たもう一人の少女が、完璧なキレのバックダンスを踊りながら現れたのだ。
「♪月よ〜月で〜頭は ハーゲハゲでピーカピカ〜! ですわ!!」
「ル、ルルシア……ッ!?」
ゼロは自分の目を疑った。
学園の偵察に行かせ、行方不明になっていた組織の幹部、ナンバー2(ツー)。彼女がなぜ、乞食姫のバックダンサーとして、鼻に5円玉を詰めて踊っているのだ!?
「ゼロ様! ちょうどよかったですわ!」
ルルシアは踊りながら、満面の笑みでゼロに手を差し出した。
「私、ついにサバイバル(乞食)の真理に辿り着きましたの! さぁゼロ様も、そのマントを脱いで公園の水道水を飲みましょう! そして、私たちのおひねり箱に5円玉を入れてくださいませ!!」
「……は?」
ゼロの脳細胞が、完全に活動を停止した。
目の前でトングとRPGを振り回すガチャ幼女。
鼻に5円玉を詰めて腹鼓を打つ人魚姫。
そして、完全にアイデンティティが崩壊し、ホームレスの極意に目覚めた部下(お嬢様)。
彼が築き上げてきた「選ばれし者による世界の支配」という冷酷な計画が、純度100%の「ギャグ」と「カオス」によって、跡形もなく塗り潰されていく。
『エラー。エラー。論理破綻。脳内シミュレーションを強制終了します』
プツンッ。
ゼロの絶対無敵の【未来予知】が、情報過多により、ついに完全にショート(処理落ち)した。
「あ……あぁ……っ。あり得ない……俺の……俺の完璧な未来が……こんな、こんな馬鹿げた光景で……」
ゼロは白目を剥きかけ、膝から崩れ落ちそうになった。
その、完全な『隙(死角)』が生まれた瞬間。
「——お前たちのせいで」
ゼロの背後の影から、漆黒のドロドロとした怨念が立ち上った。
「——俺の、丸一日分の『帳簿入力』が、エラー吐いて飛んだんだよ……!!」
ゾワッ!!
ゼロが背後に猛烈な殺気を感じて振り返ろうとした時、既に彼の首筋には、冷たく研ぎ澄まされた刃(前世の愛用・燕三条産ステンレス出刃包丁)が突きつけられていた。
リアン・クライン(10歳)。
彼の目は、暗殺者の冷徹さでもなく、10歳児の無邪気さでもなく、純粋な『残業を無駄にされた経理担当者の殺意』に満ちていた。
「俺は自動販売機にもならないし、税務署の監査も受けない。……お前の未来は、ここで『原価率ゼロ』で損金処理してやる」
リアンが、影丸の拘束力を最大にし、出刃包丁をゼロの頸動脈へと押し当てた。
テロリストの親玉の命が、ついに「確定申告の恨み」によって刈り取られようとした、その時である。
「——させませんわ! リーザ先輩! 今です!!」
「はいっ! ルルシアちゃん!」
ルルシアが踊りながら投げた「タローマートの試食のソーセージ」に、リーザが野生の獣のような速度で飛びつき、リアンとゼロの間に強引に割り込んできたのだ!
「あっ、美味しい! でも床に落ちたから3秒ルールですね!」
「リーザ!? 邪魔だ、退け!!」
リアンの刃が僅かに逸れた、そのコンマ数秒。
ゼロは最後の力を振り絞り、懐から一つの「魔導石」を取り出して叩き割った。
「シ、シアン……っ!! 【リセット】だ! 一日前でも一週間前でもいい! 俺をこの地獄から巻き戻してくれェェェッ!!」
ピシャァァァァッ!!
ゼロの体を中心にして、強烈な光の渦が巻き起こり、彼の体は空間ごと捻じ曲がるようにして消失した。
組織の最終兵器、シアンの能力を遠隔で強制発動させたのだ。
「……逃げやがった」
光が収まった後の教室で、リアンは出刃包丁を亜空間にしまい、深く、深くため息をついた。
テロリストの親玉は逃した。だが、奴の心は完全にへし折ったはずだ。当分、帝都に姿を現すことはないだろう。
「……ふぅ。まぁいい。とりあえず、俺の平穏(ネット通販)は守られ——」
リアンが安堵しかけた、その時。
「リアン君リアン君!」
リーザが、鼻の穴の5円玉をフンッ!と飛ばして手のひらでキャッチしながら、満面の笑みで近づいてきた。
「さっきの包丁、すごく切れ味良さそうでしたね! あの、もしかしてリアン君、お料理得意なんですか? 私、今日どうしても『野良猫が食べてた謎のキノコ』を調理してほしくて……!」
「…………」
リアンは無言で白目を剥き、そのまま後ろにバタンと倒れ込んだ。
テロリストの脅威は去った。
だが、ルナミス学園特待クラスの「日常」は、これからも彼(前世:三つ星副料理長)の胃袋と精神を削り続けるのである。




