第十八話 カメラに映すもの
凛が隠していた軽音部のこと。茸木と田中の同好会に残る意味。聡平が宣言したみんなのための曲作り。「新・ボランティア同好会」はここまで曖昧になっていた、四人で音楽をすることに対する気持ちを互いに確認し合い、無事に揃っての再スタートを切ることができた。
四人は会の目標であり、この一年で成すべきことである「ムジカデラーニモ」への出場に向けて活動する日々となった。
「校内選考という未知のものはあるが、ボクたちは『ムジニモ』に出るために必要なことを進めていく。まず最初の関門である動画審査。これに向けて今日は動画を撮る」
凛は部室の黒板を使いながら、円滑に会を進めていく。いつも教卓にドカッと座り不貞腐れたような表情を浮かべる彼とは大違いに清楚な姿であった。
ビデオ審査。動画時間は計六分。簡単なバンドの紹介が一分、演奏は五分までという内訳が指定された形式である。しかし、当然曲によっては五分を超えるものもあるので、適宜調整するわけだ。
わざと時間を超えるものを選びアレンジにより尺を調整したり、バンド紹介部分を削ったりと、六分という枠組を越えなければ何をしてもいい。演奏はカバー、オリジナルどちらでも可だ。
「ボクたちが演奏する曲に関してだが、志之の曲がまだ完成してねぇから、馬鹿ほど練習してるいつもの曲でいく。ボクらは結成間もない初心者バンドだ。どうしても長いバンドには劣る部分もある。新しい曲に手をつけるより、ある程度弾き慣れた曲を磨き続ける」
いつもの曲はコマーシャルでも使われているぐらい、世間で流行りの曲。まだ先にはなるが、これから来るであろう「ムジニモ」の本審査。会場でのライブパフォーマンスに必須である、指定された課題曲の演奏。来年の傾向から、その中に選ばれそうな曲でもあった。
「はい! 中堂先輩のフルコーラス歌えない問題はどう解決するのでしょうか」
田中からの質問であった。
「先送りにする。今回はあくまでビデオ審査。動画編集もセットだ。だから、演奏終了ギリギリで、ボクが倒れるところは違和感ないようにカットする」
「え、すごい現代的! 倒れる前提だ!」
「ごめんね、俺が何とかするとかカッコつけたけど、その具体的な解決法も今練ってる最中だから、もう少し待って欲しい」
「……倒れるって分かってれば、やりようはあるぞ。あらかじめ枕を用意するとか……」
「ダイナミック就寝過ぎない!?」
先輩はわちゃわちゃするタケとタナショーに反応するわけでもなく、謝った俺に目線を向けていた。先輩と目線を合わせると、すぐに目線は逸らされてしまう。目を伏せた先輩は小声で呟いた。
「期待してる」
確かにそう聞こえた。その言葉を認識すると自然に体が反応する。ちゃんとしなきゃ、先輩に応えなきゃって思える。俺の耳に届いたことを確認した先輩はにんまりと一度だけ笑みを浮かべ、すぐに顔を戻した。
「おい! お前らいい加減にしろ。今日はゲスト呼んでんだ。それまでに、ここ綺麗にして迎える準備整えんぞ」
「「「ゲ、ゲスト?」」」
「ああ。音楽はボクたち。それなら映像はその道のやつらに丸投げすんのが良いに決まってんだろ」
「その道のやつらって?」
「そんなに気になるか志之? お前が知ってるやつだよ」
凛はふっと意地悪な笑みを浮かべた。
凛の指示の元、三人は机を一箇所にまとめ、使う楽器や機材を設置して、簡易的なライブ環境を部室に整えることになった。凛の分……というかほとんど、聡平のコミックみたいなパワーにより短時間でセッティングを終えることができた。
「……マジでカッコいいよ志之。一家に一台志之が欲しい。そんな世の中がすぐそこに」
「お前はもっとやれ! って思ったが、やるな。怪我されたら困る。大事な指だ。茸木はここにいろ」
「中堂先輩はそれ言えた立場ですか!」
「志之、次はマイキングな。マイクの位置わかんだろ?」
「了解っ!」
「無視!?」
実際のところは、ひたすらにご主人の指示を受けるペットみたいな聡平とそれを手伝う田中。それを遠くから見て野次を飛ばす非力組の凛と茸木という構図であった。
おおよその準備が終わった頃。部室の扉を叩く音が聞こえてきた。
「失礼します。写真部一年の佐藤です。リン先輩に呼ばれました。今日はよろしくお願いします」
「え、さ、佐藤さん!」
扉の前で頭を下げたのは聡平のクラスメイトである写真部の佐藤であった。彼女は聡平の姿を確認すると、にっこり微笑むのだった。
先輩は佐藤さんへ気さくに話かけている。彼女に撮ってもらいたい映像についてを相談しているみたいだ。外から見ていると、女子二人が楽しげに談笑をしているとしか思えない光景である。そのせいか妙な近寄り難さを感じてしまっている。
「……もしかして志之の彼女か?」
茸木はそろりと聡平に近づくと耳打ちする。
「ふへぇっ、ち、違うって! 数回話したことある程度のクラスメイトだよ。ただの」
「ふーん。ただのクラスメイトね。ただの……」
「えー、彼女じゃないの? 報告書の写真くれたのあの子でしょ。ライブにも来てたくらいだから、てっきりそういうことかと思ったよっ!」
田中は聡平に軽く肘打ちをする。聡平は変なテンション感の二人についていけない様子で肩をすくめる。
「本当にそういう関係じゃないんだって」
俺は彼女たちへ再び目を向ける。奇しくも二人とも似たような髪型。背丈も同じくらい。ボブカットの彼女は先輩から説明を受けている最中も、首から下げたカメラへ力を込めている。彼女は他の女子たちとは違って、見た目の割に運動が苦手な俺に気が付いて、その後も気にかけてくれただけだ。
佐藤へ説明を終えた凛は三人に集合をかける。彼女への簡易的な自己紹介の後、すぐに撮影は始まった。最初は動画時間の一分ほどにあたるバンド紹介パートだ。
「バンド名をお願いします。その後は続けてパート担当を」
彼女がカメラマンとインタビュアーを兼任して撮影を行っていく。後で映像にする際に余分な部分はカットして、必要な所を繋ぎ合わせる。そのための素材を撮るイメージだ。だが、最初からつまずいた。バンド名がまだ決まっていない。
「カット! 皆さんお揃いで黙りこんでどうしたんですか? もしかして、まだバンド名決まっていなかったりします?」
彼女から飛び出たのは図星すぎる言葉であった。俺は先輩の方を見ると、すぐに目が合った。先輩の顔から感じ取れるのは、こうだ。
「志之、当然考えてきてるよな」
あー。これ、もしかしてライブの時みたいに俺が主導権握らなきゃいけない感じか。バンド名。カラオケの後、先輩に考えておくよう言われていたので、いくつか案はあった。
ただ、みんなと一度相談したいというのが本音だ。しかし、佐藤さんを呼び出して撮影を始めている手前、「ちょっと一回相談を……」とは切り出しづらい雰囲気である。
今も彼女は少し不安げな顔をしている。当然だ。「この人たち大丈夫かな」って俺でも思う。
「ごめん、佐藤さん。もう一度お願いできる? 今度はちゃんとやるからさ」
「う、うん」
聡平は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、両手を顔の前で合わせる。彼女は聡平の声を聞くと、戸惑いながらもカメラを構えて、息を吐く。
「バンド名をお願いします」
これから上を目指す。そんな俺たちが響かせる音はどこへだって届く、誰にだって届く、そんな力がある音であったらいい。先輩の歌声が一番だって思わせるぐらいの音を。
「はじめまして、『王様のトランペット』です!」
考えていた案の中で俺の気持ちに最も合う名前がすんなりと口から出た。
「コンポーザー、ベース担当の志之聡平です」
聡平に続くように、凛と茸木と田中も、自身の名前とそれぞれのパート名を言う。撮影はスムーズに、問題なく次へと進む。
「簡単に結成の経緯をお願いします」
「えー、今年の春にボーカルの凛を中心に結成しました。学年もやりたいこともバラバラなぼくたちですが、凛の歌声に惹かれたという共通点から集まりました」
「では、簡単に演奏についてのアピールをお願いします」
「活動期間の浅いバンドです。互いの足りない所を補いながら、最高の音を届けることがぼくらの音楽だと思います。まずは、凛の圧倒的な歌声に耳を傾けて頂ければと思います。今日は貴方の一番の音を変えるために精一杯演奏します」
「「「「お願いします!」」」」
「はい、カット!」
佐藤さんからの終了の合図を聞くと、一気に全身の力が抜けた。だけど、どこか不安な気持ちは拭えなかった。問題なかったかの確認を取ろうと、顔をみんなの方へ向けようとした。すると、タケとタナショーが、ばっと押し寄せてきた。
「すごいよ! まさか、あの質問全部考えてきたの?」
「いやいや、全部アドリブだよ」
「いいな、王様のトランペット。王である中堂先輩と平民のオレたち……」
「そ、そうかなぁ」
俺は押し寄せてこなかった一人を確認する。彼はグーサインを作ると、穏やかな笑みを浮かべた。その笑顔にどれだけ心が救われるだろうか。大丈夫なんだと心の底から思えるだろうか。
「バッチリだよ。サトちゃんもそう思うでしょ?」
「は、はい。しのくん話してる時、目を輝かせてて楽しそうだったので、きっと素敵な映像になると思います!」
佐藤からの感想を聞いた凛はゆっくりと聡平へ近づく。
「だってさ。志之、お手柄だよ」
先輩は心底誇らしげな顔だった。その顔ににどう答えればいいのか……。このうるさい鼓動をどう表すのか。
「Focoso」
「ふふ、その熱さはちゃんと伝わったよ」
二人は静かに笑い合うのだった。
続いて撮影するのは演奏部分。先程までの、聡平を労う和気あいあいとした雰囲気とは違って、四人はそれぞれ、自分の立ち位置で集中力を高めている。
凜は中央のマイクスタンドを前にして欠伸をする。とてもリラックスした態度で、口元を手で押さえながら、固定された正面のカメラへじっと視線を向ける。
そんな彼の右隣、舞台で言うと下手側には聡平がいる。彼の場所はエレキベースをはじめとして、様々な楽器が置いてあり要塞のようになっている。音を出しながら、入念に各楽器の具合を確かめる。
聡平の反対側であり、舞台で言うと上手側には茸木がいる。彼は真剣な眼差しでエレキギターを構えている。譜面を見ながら指版に触れ、ギリギリまで確認をしているようだ。そして、彼らの後ろに位置しているのがドラムセットと田中である。
「それじゃあ、カメラ回します。いつでも皆さんのタイミングで演奏を始めてください」
佐藤は身振り手振りで彼らに合図を送る。
先輩は真っすぐと正面を見据えて、こちらへ視線は寄こさない。寂しくはなかった。口笛で先導してくれていた頃に比べれば、俺たちのことを信頼してくれているのだと分かるからだ。俺は立奏用のスタンドに置かれたエレキギターの前で、タナショ―に目線を送る。彼は一度頷く。
次はタケだ。彼からも同様にいつでもいいと合図が返ってくる。イントロは彼が弾くギターと息を合わせて、ジャカジャカと伴奏を弾くことになる。それから、俺は一つ息を吐く。
「|Moderato Frivolo」
小さく呟いた。誰に伝わるか、伝えたいかも分からなかった。だが、そう言わずにはいられなかった。一種のまじないのように速度と指示を定めた後、タナショ―へ合図を送る。彼がシンバルを四っつ鳴らす、この乾いた音により、演奏は開始される。
始まった瞬間に分かった。足元のスピーカーから聞こえるタケのギターはより力強いものになっていた。幾度となく弾いた自信の表れがギターフレーズに現れているかのように思える。そんな程よく歪んだ音を支えてくれる、ドラムは明らかに音の手数が増えていて安定感が段違いだ。
実に好調なイントロであった。前回までの、ボーカルの到着をソワソワと待つような演奏からは脱却できた。凛の声が入る平歌からサビにかけては、相変わらず抜群の演奏であった。凛の声がない、問題の間奏も難なく二番へとバトンを渡すことができた。
ベースを爪弾きながら、みんなの音に耳を傾ける。俺が今やらなければいけないことは、もう足りない音を探すことじゃない。適度に弾くのを休んで緩めて、音の隙間を作ること。
まだ二人が譜面通り音を鳴らすので、手がいっぱいな分、俺が全体の調整をする。先輩の卓越した強弱感覚に身を任せていれば、自然とメリハリのついた演奏ができた。
淀みなく進む。軽やかな演奏のまま曲の終盤も終盤。最後のサビだ。俺は先輩を見る。辛そうな素振りは全くない。むしろ、調子が乗って来たのか、気持ち良さそうな顔をしている。やはり、変な体質は体力的な問題ではないことは明らかだ。
サビ終わり。アウトロに突入する所で、俺はスタンドから急いでギターを外して、付随しているストラップを肩へとかける。そして、イントロと同じ伴奏を鳴らしながら先輩の方へと歩いていく。彼は歌い終えて顔を下へと向けている。
タケは逆に、少しずつドラムの方へ向かうのが見える。最後のキメの準備だ。俺は演奏終了後すぐに先輩を支えられる位置で、タナショーへ目線を送り、彼のドラムに合わせて三人で曲を締める。
凛も最後のギターの音に合わせて顔を上げる。その途端、彼の顔には大粒の汗が浮かぶ。
先輩と密着する。先輩が一人で立つのを補助するように腕を背中へと回す。
「カット! お疲れ様──って大丈夫ですか!!」
凛の体は限界に達し、制御を失い倒れそうになったが、聡平に抱き留められた。そのまま一緒にゆっくりと体勢を落としていき、彼は凛を床へと寝かせる。一度目の経験から、焦らずにここまでスムーズに対応する。
「佐藤さん、大丈夫じゃないけど、大丈夫だから」
「へ?」
「志之、酸素スプレー持ってきたぞ」
茸木から酸素缶を受け取った聡平は手際よく彼の口元へと当てる。
「──慣れてるんですね? もしかして、こうなることが分かってたとか? 商店街の時と……あ、すみません。失礼ですね」
佐藤は目の前で起こった、二度目の驚きの状況に対して戸惑いつつも自己完結する。聡平は凛に付きっきりで、茸木は両手いっぱいに缶を抱えて、そんな二人の様子を見守っている。
「まぁ大体そんな感じだね。僕たちもはっきりとは分からないんだけど、中堂先輩は歌い終わると倒れちゃうみたいで」
「え! そんな不思議なことあるんですか」
ドラムの位置の都合上、何も出来なかった田中が佐藤の相手をする。
程なくすると、何ごともなかったかのように凛の呼吸は正常になった。
「サトちゃん。心配と迷惑をかけてごめんね。志之のクラスメイトってこともあるし、一回倒れるのを見たことがある君にしか撮影を頼めなくて……」
「いえ、私は大丈夫です。それより、りん先輩が無事でよかったです。それに撮ったデータは安心してくださいね。しっかりと部に持ちかえり編集をしてからお渡ししますので」
それぞれが彼女へお礼を述べて、今日の動画撮影会は終わった。彼女が部室を出るときに、凛は聡平に部室まで一緒に着いていってやれと耳打ちする。聡平は凛のことが心配だったのか、一瞬だけ側を離れたくない素振りを見せた。しかし、彼の強い眼差しを受けて渋々従うことにした。
写真部の活動場所は部室棟の一階。新・ボランティア同好会が使っている部屋からはそれなりに距離があるので、歩きながらでも、それなりの会話ができる。とはいえ、二人の間には沈黙が流れている。
ビニル床をローファーの靴底がカツカツと叩く。規則正しい軽快な音のみが廊下に響く。佐藤は顔には出さないが、聡平のことを訝しんでいる。彼がわざわざついてきてくれた真意を測りかねているのだろう。
「なんか忙しなかったね。いつもあんな感じなんだよ、普段は一時間も活動しないからさ」
「そうだったんだ。でもね写真部も積極的な方じゃないよ。ああやって全員が集まるのなんて学校行事の時ぐらいだもん」
「へー」
何が「へー」だ。自分で自分が悲しくなった。長い廊下に二人だけという状況も相まって、恐ろしいほどにきまずい。それもそのはず。
二人で話すなんてこれが初めてだ。騒がしいクラスルームでさりげなく会話をするのとは話が違う。先輩は何を気にして、俺に彼女の見送りを指示したのだろうか。学校に暴漢なんて出るわけもないし、送るっていっても同じ部室棟内だ。
「しの君、楽しそうで安心したよ」
彼女は足を止めると、横を歩く聡平の方へ顔を向ける。
「私が最初、何を話しかけたのか覚えてる? 『本当にやりたいのは運動部じゃなくて、文化部なんじゃないの』って話ね」
「う、うん。それから俺は……おかっぱ頭、凛くんの居場所を聞いたんだよね」
「そそ。あれね、しの君が心配だったから声かけたんだ」
「まぁ、運動部のしつような勧誘にはかなりうんざりしてたけど、あの時の俺ってそんなに思い詰めてた?」
「ううん、違うよ。あれだけ校内で噂されて、あることないこと言われてたのに、平気な顔をして楽しそうに悩んでたからだよ。まるで自分への悪口なんて聞こえてないか、どうでもいいみたいに。今思うと、あの時のしの君はよっぽどリン先輩に会いたかったんだね」
彼女は一切言い淀むことなくはっきりと自身の思いを言葉にする。
「それで、その後何の部活に入ったのかはずっと分からなかったけど、偶然商店街で会って、音楽をやっていることを知った。あの素朴なステージに居たしの君は、いつもの君となんとなく違くて、この人はちゃんとこういう顔もするんだって」
真っすぐと向かってくるような言葉に悪い気はしない。何が言いたいのかは未だ分からないけれど、どこか覚悟を決めたような顔の彼女を無下にすることは出来なかった。
「カッコイイなって思った」
──面食らった。
佐藤さんは本人が目の前にいるのに恥ずかしがるでも、声が上ずるわけでもなく、堂々と言い放った。どこか俯瞰しているような様に両目が惹きつけられる。
清涼感のある風が吹いた気がした。彼女に対して胸がときめいたとか、体が熱くなったとか。失礼な話だけど、そうじゃなかった。きっと彼女はただカッコイイと思ったから、そう口にしただけ。それを俺はただ受け取っただけ。それ以外の余分な要素を俺は感じ取れなかった。
「ありがとう、照れるけど嬉しいよ」
「嘘。どうせ照れてなんかないんでしょ」
「…………」
「あー忘れて。なんか変な感じになっちゃったね。でもスッキリした。声に出したことで、自分の本当の気持ちに気づけたかも」
「……それあるよね。俺も似たようなことしてもらったからわかるよ」
「相手は先輩でしょ。分かるよ。しの君は顔に出やすいからさ」
佐藤はやれやれとお手上げのポーズをする。
「じゃあ、私もうここまでで大丈夫だから。しの君も皆んなの所に早く行ってあげて」
「そう? 今日は俺たちの為にわざわざありがとうね」
「うん、私も勉強になったから。また、写真撮らせてね。相変わらずいい被写体なんだよね」
佐藤は聡平を手で作ったカメラに一度おさめると、満足気な表情で笑った。そして、手を振って彼女と別れた聡平は部室へと戻る。片付けという力仕事を前に、コミックパワーの彼を失った三人の状況はおおよそ予想の通りだろう。
部室の扉を開けて、部屋の中を確認する。
「ただいま戻っ──」
「志之君助けてー! この人たち鬼なんだよー!」
タナショーは俺の姿を見るなり、運んでいた机を置き去りにして、駆け寄ってきた。
「帰ってきたな。志之、早速だが片付けを頼む。お前がいないから見ての通りの有り様だ」
「……そうだぞー。楽しい時間の後は、苦しい時間が……」
凛はいつものように不遜な態度で、茸木は肩を抑えながらだらんと脱力している。二人は見た目だけなら机の十や二十片付け終わった後の姿である。
「なんか二人してやった感じを出してるけど、自分の楽器しか片付けてないよね!!」
田中は聡平の後ろから顔だけを出して必死に反論した。
「全くもう……。温度差にやられちゃいそうだよ。みんな休んでな、後は俺にまかせな!」
聡平は嫌な顔一つせずに、清々しい顔で片付けに取り掛かるのであった。




