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零ー43 痛くはしないから...

 

「《風刃・纏》はっ」

「いや〜、話も聞かないで攻撃してくるなんて――」

「《貫け――降雹》」

「酷いよね〜」


 あぁ゛っ、イライラする!


 さっきからへらへらへらへら笑いながら俺とリレン攻撃をまるで俺達がわざと外しにいってると思ってしまう程にひらひらと避け続ける男。


 迎撃すらしてこない辺り、まだまだ余裕を感じさせ――


「《許多の氷よ-覆い尽くし-圧殺せよ》」


 リレンが詠唱を始め、俺と男の周囲に魔力が集まりだした。アストの言っていたのはこれの事だよな。

 取り敢えず全力退避で。


「《――氷塊》」


 俺が男から離れたと同時に男の周囲に人間大の大きさの氷が次々に現れ、男を圧殺せんと四方八方から飛来していく。


「守れ」


「っ――《風壁》!」

「《土壁》」


 一言、黒い風が男を覆った。


 俺はその黒い風に見る事すら嫌になるほどの嫌悪感と全身に鋭い痛みが走った。

 俺はそれに己の死を感じ、咄嗟に風の壁を作った。リレンも俺のそれに続き土の壁を形成し、俺達は様子見のためにその上に立つ。


 氷が黒い風に触れ、甲高い金属音を立てながら消失する。


 おおっ、とリレンが驚嘆の声を上げ、俺は場違い過ぎるそれにツッコミを入れたくなったがそれよりも先にすぐここから離れるように言い俺は《風壁・纏》を自分に掛けて男の頭上に跳んだ。


「転じて滅せ」


 リレンが後ろに下がったと同時に黒い風が男を中心に吹き広がる。


 土の壁が黒い風に触れ、壁は壁としての意味をなさずに消失していった。


 アストは――カメレオンを盾にして避けてるな。


「《汝雨の如く-汝幾千もの針となれ――風針雨》」


 俺は男に向かって広範囲の魔法を射つ。


 範囲を広くする分威力は低いが今はとにかく情報が欲しい。同じ風を使う者として、黒い風に俺の風がどれほどの効果をもたらすのか。

 何故か全身に痛みが走ったがこれくらいならどうってことない。



「――うん、やっぱり君には資格があるよ」


 男は魔法が己に迫った時、俺を見て笑った。


「僕は主に生み出された縛られし駒」


 針の雨が男に降りそそり浅い傷を作る中、男は刀を構え落ちていく俺を見据えながらゆっくりと話しだした。


「僕は常に思考の主導権を破壊衝動に奪われていた。けれど意思はしっかりとあって、僕はエア様を元に生み出されたお陰か封印されて、奪われていた思考を取り戻した後は破壊衝動なんてものが起きない確固たる意志を持つ存在になった」


 俺は今は攻撃する場面じゃないと思い、風を起こして、さっきまであった傷が無くなっている男から離れた位置に着地する。


「君が他の幻魔? に会いに行くのだとしたら最初からどんな姿で現れようと警戒は忘れないように。僕の時と同じようにあんな甘い警戒だったら直ぐに死んじゃうから。他のみんなはどこか狂ってるからね。僕程は強くないにしてもね〜」


 アストの方から聴こえていた戦闘音がいつしか止んでいた。

 俺は横目でアストの方を見るとカメレオンとアストは向かい合ったまま動いていなかったので恐らくアストは様子見、カメレオンは自らの主人が動かないから何もしないんだろう。


「異界……同族が殺されるかもしれないのに俺達になんで助言をする?」


 人間は己の仲間が殺される事を嫌う。が、仲間以外の人間が殺されることに関しては全くの他人事のような同族意識の薄い種族だ。

 それは異界種も変わりないものだと俺は思っている。テイト様から見せられたあの映像の中では人間が異界種になっていた。という事は異界種の本質は人間と同じ筈。ならば何故仲間が倒される可能性を上げるのか?


  倒されると思っていない? ただ俺達を舐めているだけ? それとも、絶対的強者だという自負があるから……。


 いづれにしても敵にアドバイスされるのは何とも形容し難い気持ちになるな。


「いやいや、どうしてそんな嫌そうな顔するの? さっき言ったじゃないか〜。僕は元々思考を奪われてちゃんとした意思を持ててなかったんだ。でも今は大丈夫。だからもう僕は君達を害するつもりも無いし、なんだったら協力しようとも思ってる」

「……協力?」

「うん、そうだよ。例えば、そうだね……君が感じている痛みの事とか?」

「……」


 いきなりそこ突いてくるか。


 男の口振りからしてこの痛みの事を知っているみたいだけど……どうしたものか。

 我慢できるとはいえ、できれば痛みなんて感じたくない。というか痛みを感じたいなんて言う人はただのドMだろ。俺はそんな特殊な趣味は無い。


「あとは……うーん……主には逆らえないしもう特にな――いや、君に風ならではの戦い方なら教えてあげれるかな。こういう感じに――」


 そう言って、男が手を最初の時と同じように手をひらひらと動かす。すると、その周りから魔力の靄が急速に広がり始めた。


「これ、どうなってると思う?」

「普通に魔力を広げていってるだけだろ?」


 俺は周りを覆っていく靄を見ながら答える。


「うーん、ちょっと違うかな〜。広げてるっていうよりは風に混ぜてるって感じだね。君が見えている魔力の靄は、僕の魔力がこの手から起きた風に溶けた姿で、故に僕の魔力は何処までも魔力の風となって広がっていく。これは神でも人でも知っている人はいない技術だよ。多分ね」


「ここでこれの真髄。僕はいまから魔法を打ちます。害は無い唯の風を起こすだけだから避けれなくても問題はないよ。……もし避けれたらリヴァイアサン達の弱点、教えてあげるよ」

「お前の弱点は?」

「ないかな〜。じゃあ集中して」


 あっさり流されたな。


 まあいい。魔法を避けるくらいなら目をつぶっていようとそのくらい余裕――


「あれ、これって……」

「漸く気付いたようだね」


 これまでに目隠しをしながらセティさんが打つ魔法をを避けるっていう事をしてたけど、それはあくまで魔力がどこに集まったかを感じ取れるようになる為の訓練だ。例え5感が無くなっても相手の魔力だけを感じ、戦う為に。


 が、今の状況。


 四方八方から魔力が感じられるせいでどこに集まっているのかが見当つかない。

 俺のしてた訓練は魔法がどこから来るのかを予知する為の訓練じゃなかったしそれも当然か。



 所謂――詰み。


「っ――」

「はい、僕の勝ちだね」


 俺の髪が右になびき、男は自分の勝ちだと告げた。

 確かに男の言った通りただの風だったな。もし、今のが黒い風だったとしたら俺、死んでたのか。


 そう考えるとこの男は本当に俺達に害を加えるつもりは無いのかもしれない。そうじゃなかったら既にさっきの技を使われて、俺達はもうここにいない。


「と、まあこのように魔力で魔力を隠しながら戦うのが僕個人の中ではそれなりに良い戦いなんじゃないかな、と思ってる。魔力はそこまで多く使わないしね」


 でも、と言い男は続ける。


「この戦い方は君が使うと、とっても疲れると思う。常にこの靄って自分で制御しなくちゃいけないから。だからこれに関しては日々鍛錬が必要だね。――で、僕が止めちゃったことだけど再開する?」

「遠慮しておく」


 断言できる。この男――フェニックスには絶対勝てないと。

 まず1つ――この魔力を隠すこれに対抗できる策が全く浮かばない。

 2つ――恐らくこの魔力を隠す魔力を更に隠す事をこの男はできる。それこそ俺がゴブリン相手に使ったあの魔法のような……。

 そして3つ――ただ単に実力差がありすぎる。


 だから男が戦うか戦わないかを選ばせてくれるのなら俺は絶対に戦いたくない。それに戦い方を教えてくれるのだとしたら、それを全部覚えてから暗殺でもなんでもすればいい。それでこのチョーカー(首輪)を外す為の試練がクリアできるなら多少方法が汚くてもいい。


「あ、君が今触ってる魔道具の事なんだけど、それって僕に関しての物だよね?」

「ああ……分かるのか?」

「勿論――と、言いたい所なんだけど……僕がそれを知っているんじゃなくて、その魔道具から僕に何か鎖みたいなのが伸びてるんだよね。だから何か関係があるんじゃないかなって」


 鎖か……。恐らく試練の内容が指定された魔物――幻魔の討伐という観点から見ると、これは対象が死んだかを確認する為の物なんだろう。そう考えると、最初のイカが首から鎖を自分に繋いでいる俺を見すぎてリレンの魔法に気付かなかった、という事で合点がいく。


 そしてこの鎖とチョーカーの関係性は――



「1回死んでくれないか?」

「……え?」

「あ、一応あそこのカメレオンにお前が死んだ後、俺達に攻撃しないように言っといてくれ。俺もリレン達には伝えとくから。大丈夫、痛くはしない」


 俺が笑顔でそう言うと、圧倒的強者である筈の男が後ずさる。俺はその分だけ男に近付く。


「どうせ生き返るんだろ? それなら俺に1回くらい……殺されてもいいよな?」

「え、君、無意識に僕と同じ魔法使ってない? 痛いよね? あ、体動かない……。え、嘘……ま、まあいいや、どうせ生き返るし。カメさん、後で合流ねー――って痛くしないって言ったよね!? それって絶対ノコギ――」



 ふぅ……。これで試練は2つ目クリア。後は水、土、闇、光の幻魔って事で4つだな、頑張ろう。

フェニックスの男はやろうと思えば、ルイ達と会った瞬間から勝負を決めることが可能でした。強さは、人型にされた弱体状態で、しっかりと対策を取ったルイが30人いて漸く勝てるかもしれない強さです。復活しますが...。

相手がセルスティーナになると、フェニックスは1分持てば良い方になります。例え風に溶けても空気ごと凍らせるので復活できません。

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