零ー41 風の遺跡へ
俺が幼女に諭されるというなんとも形容しがたい経験をしてから数日。
身体の痛みもだいぶ引き、戦闘に支障がない程度には回復した。
食事の方は……なんというか……うん、知ってた。食べれるようなものじゃなかった。なので俺が簡単なものを適当に作っていた。
そして時折爆発音やらなんやら聞こえる中、俺は暇なので魔法の構想を練っていたんだが……どうもスイハちゃんが俺の事をチラッチラッと見てくるので中々集中できず、お菓子を出してみせると寄ってきたので愛でた。
彼女と触れ合っていると何故か痛みがほんの少しだけ引いているような気がしたが、それは恐らく彼女の可愛さ故だろう。
そんなこんなで俺達は5人は風の遺跡へ向かうべく、先導するリンネについて行きながら森の中を進んでいた。
「そういえばなんでリンネは遺跡の場所を知ってるんだ?」
「それはモちろんリンネちゃんだからネぇ!?」
リンネがスイハちゃんに叩かれそうになって変な声を上げる。
「アハハ、冗談冗談だってバー。ホントーはスーちゃんに呼ばレてなイ間は精神体になってここラ辺を見て回ってるンだヨ! そしたラ変な魔力ヲ感じる遺跡が――」
話すのを途中で止めたリンネに俺達が訝しげな目を向けた時、ゾワッと背筋に悪寒が走り俺は咄嗟に刀を構えた。
そんな俺を、リンネを除く3人がリンネに向けていたものと同じ目を向ける。
「おい、どうしたんだルイ」
「い、いや。なんでもない、行こう」
俺は常に襲ってくる悪寒の正体に嫌々ながらも気付かされ、刀を鞘に納めて未だに固まって動かないリンネを引っ張りながら歩みを進めた。
リンネが固まってしまうのも無理はない。彼女は自然の理として存在する精霊が故に魔力や常人には見えないものさえも感じ取ってしまう。
俺はその独特な"畏怖"すら感じさせる独特な空気を浴び慣れているのでそこまで問題はないが、彼女は慣れていないそれに完全に呑まれてしまっている。
リレン達がこれを感じ取っていない事に関しては思う事がない訳では無いが、それはもしかしたら俺が特殊なだけかもしれない。
近づくにつれて大きくなっていくそれに呼吸が難しくなるほどに息が詰り、全身から嫌な汗が吹き出す。
スイハちゃんは心配そうに見てくるが、言葉を返す余裕が無い。少しでも気を抜けばリンネと同じように呑まれてしまう。
そして5メートル程進んで俺は漸く気付けた――その空気を出しているのが1人ではないと。
もしこれが1人じゃないとしたらその力はセティさんクラスの化物になる。そのレベルとして考えられるのはミーシア様、ニーシャ様、またはセティさん。テイト様は都市の防衛があるだろうから違うな。
で、1人じゃないと思った理由としてはその3人の力を既に上回っている気がするからだ。セティさんからはミーシア様、ニーシャ様以上の存在がいるとは聞いたことが無い。それ以外で考えると終焉の代行者とやらしか考えられなくなる。
そんなのが来ていたら同じ大陸にいるセティさんも気付くだろうし、そもそもこの時点で俺達は死んでいる。
『5人いる』
「……」
『たぶん魔物よりの神』
「……そうか」
ユキがプルプルと震えながら伝えてくる。
5人……5人か。
魔物よりの神。中級神という事になるな。それが5人も集まっているならこの空気も納得がいく。何せ魔物よりの神はミーシアから貰った神力を隠す事を苦手とする。というかできない。理由は野性的過ぎるから、知性はあるがただの話せる獣と考えていい。
俺は未だに固まって動かないリンネをぐるぐると円を書くように勢い良く振り回す。
そしてリンネが抗議の声を上げながら戻ってきた所で漸く5人の神が見えた。
「お、おい。ルイ、あれはなんだ?」
それを見て少し顔を青くしながら歩みを止めるアスト達3人。
それも無理はないだろう。力関係はともかくあの見た目は俺も見た事がなかったら怖気ずく。
あれだ……一言で表すなら世紀末な人達、ヒャッハーしてそうなモヒカン頭の何故か全身傷だらけな人達だ。
なんか変な武装してるし……いや、銃かあれ。
「……こんな所に盗賊ですか?」
「神だ」
「え?」
「分類上は恐らく……神」
この空気に適応してきた俺はリレンの言う通り盗賊に見えてきてしまい自信無げに答えた。
「行ってみれば早いと思う。行こう――」
「「「「「ようこそ風の遺跡へぇ!!」」」」」
「ひっ……」
スイハちゃんが俺の後ろに隠れ、リレン達が思わずといった様子で得物を構える。
リンネは再び呑まれた、振り回す。
俺は代表して、初めて会ったが見た事はある5人に声を掛けた。
「ええっと……ハイエナの方々ですか?」
「そうとも!」
「俺たちゃぁ生まれ同じく!」
「グラールの兄貴に力を与えられた!」
「全ての魔物管理神を統括する!」
「獣神だぜぇ!!!!」
元気に5人で戦隊のようなポーズをする獣神様。どうかいましている格好を考えてポーズをとってほしい。コレジャナイ感がすごいから……。
まああれだ、この人達はテイト様から見せられた記憶の中にいた元ハイエナの方々だ。
「どうしてここに?」
「それは試練のルール説明を!」
「ルールは単純!」
「1つ目ェ! ルイ! アスト! リレン! お前ら以外はここには入れねぇ!」
「2つ目ェ! 最奥にいる風の幻魔フェニックスを倒せば試練は合格だ!」
「3つ目ェ! 特にしちゃいけねぇ事はねぇ! 遺跡を壊そうが埋めようがなァ!」
そこまで言って獣神様は俺、リレン、アストを掴んだ。
……え?
「「「「「ルールはこれだけだ! さぁ逝ってきなぁ!」」」」」
獣神様が俺達を壁に向かって投げつけた。
リレンとアストが絶叫を上げる。俺は相変わらず話を聞かない魔物の神に一矢報いてやろうと風刃を無詠唱で放った。が、その結果が分からないまま俺達は壁に叩きつけられ、一瞬の衝撃と共に視界が暗転した。
……違う! これ周りが暗いだけだ! 身体強化を使ってるのに周りが見えないってことは――魔法だ!
「リレン!」
「――っ《追随せよ-光明》!」
何かに気付いた様子のリレンが光を作り出す。
そしてその光が空間を照らし尽くした時、俺とアストは激しい違和感に襲われた。
「なんか壁が――」
「ルイさん、風! 風! 落ちてますよこれ!」
「壁が動いてやがる!」
アストが壁が上に上がって行っていることに気付いた。だが、リレンは恐らく最初から気付いていたんだろう。故に発動者を追う光を作った。
これは壁が動いているんじゃない。
――俺達が落ちているんだ。
「《風誕》!」
俺は暖気に詠唱をしている暇がないと思い、風を意思だけで操作出来る風誕を選んだ。
そして風誕を使うと、俺達に知らない魔法が付与されている事に気が付いた。それは俺と同じ風の魔法だったため、それを即座に俺の風で上書きして消す。
それにより、今までは無かった本来あるはずの浮遊感が俺達を襲う。
「今から壁に寄せる! だから後はひたすら壁を蹴ってくれ! 俺は飛翔系の魔法は使えない!」
「分かりました!」
「剣はどうすんだ!」
「俺に投げろ! 仕舞っとく!」
アストが背負っていた大剣を投げ、俺はそれを即座にポーチにしまうと風を壁に叩き付けるようにする。
そして壁に足が付いた時、その壁を蹴り反対の壁へ跳ぶ――体を捻り反転させて再び壁を蹴る。それを何度も繰り返し落下の勢いを弱めた俺達は何とか無事に地に足をつけたことに安堵の息をつくのだった。
いきなり初見殺しすぎるって……。
風刃は獣神達には当たりましたが無詠唱だと威力が下がるので体に浅い切り傷を与えるだけに終わりました。
そしてスイハとリンネは獣神達に護衛されながら集落に戻りました。
なお、獣神達の名前は
ハー太
イー太
エー太
ナー太
グー太
です(命名:茶の光・グラール)
...最近私ですらユキの存在を忘れかけたりしています。一応ユキは常にルイの頭に乗っていますが。




