零ー40 貴方が思うほど小さくない
俺が4人……いや。5人か、から離れた後、ゴブリンの巣はリレンが土魔法と水魔法で泥を作り圧殺したらしい。
土だけの場合や水の場合は生き残る恐れがあるらしく、ならその2つを混ぜればいいとの考えらしい。
……普通は違う魔法を2つ合わせるのはそうそう出来ることではない。セティさんは普通に出来るみたいだが、他に出来る人は割と大きな国で探しても見つかるのは1人くらいなんだとか。
そして現在に至る。
「ルイさん。顔色が悪いですよ。本当に大丈夫なのですか?」
「ああ、2人が魔物を引き受けてくれてるからな。歩くのは何も問題ない」
もちろん問題ないわけではない。
正直今もめちゃくちゃ痛い。けれどいつまでも4人の所に戻らなかったら怪しまれる。なので顔に出ないくらいの痛みになったら顔を洗って戻った。
「それにシてもさっきのルイの魔法はスゴかったネ〜! タブンこのカラダになる前のワタシでもアレをやられたらどうしヨーもないナ〜。まっ、やらレるまえにやるけどサっ」
あの後、リンネが俺の事をキミではなくルイと呼ぶようになった。俺の事を認めてくれたって事だろうか?
まああんなもの二度と使いたくない。さっきから貧血でフラフラする。
4人には魔力を一気に失ったからだと言ったが、ある意味それも間違いではないので問題ないだろう。
「私としては全く魔力を感じなかった理由を知りたいのですが……流石に聞くわけにはいきませんね」
「ごめん」
あの魔法については代々受け継がれてきた一家相伝の秘術ということにした。魔法の無い世界から転生しといて一家相伝の秘術もなにもないだろうと我ながら思うが、そこは誰も詮索しないでくれた。言い訳しようにも頭が回らないな。まともな返しが浮かばない。
魔法を使うものとして、俺の使った魔法はリレンからしたら喉から手が出る程知りたい事のはずだが、追求してこない辺りは本当にありがたい。いい仲間を持ったよ本当に……。俺が弱った今なら吐かせることも造作ないはずだ。
「俺は魔法なんてほとんど使えねえんだがよ、魔力を一気に失うってのはどんな感じなんだ?」
アストが言う。
実際、アストの火魔法のレベルはそんな低い訳では無い。ただ魔力量が魔道士として考えると中の上くらいなせいで、魔導師のリレンと比較すると見劣りするだけだ。
故にアストはリレンが魔法でいくなら俺は剣だな、という事らしい。まあアストなら魔法なんて使わなくても強いから問題はないが。
「そうですね……。最初は浮遊感があります。その後は体が重くなります。ただ、魔力を全て失うと気絶する事がありますので注意が必要ですね。その点ルイさんは魔力がほとんど残っていないはずなのに普通に動けるというのはかなり凄いことです。普通の魔道士ですと立てもしません」
「なるほどな」
アストが進行上にいたゴブリンの首を刎ねながら頷く。
アストは魔力の枯渇を体験した事がないらしい。リレンは魔導師故に魔力を多く消費することも多いのだろう。恐らくイカの怪物と戦った時もかなり消費したはずだ。
それでも魔力が俺よりも多いからそこまで問題ではないんだろうけど……
「……」
ゴブリンの巣を破壊して以降、スイハちゃんがずっと俯いている。
そのせいで時折転けそうになるものだから心配だ。ゴブリンの内蔵を見てしまったんだろうか? ……可哀想なことをしたな。次からは原型をとどめないくらい木端微塵にしよう。
俺は飛びかかってきた蛇を切り裂きながら次に使う魔法の構想を回らない頭で練っていた。
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「――ッ、魔力はだいたい半分か」
俺達は集落という形だけのちょっとした草原に着いた後、リレンとアストに夕飯は任せてくれと言われたので俺は仮眠を取らせてもらった。理由としては、寝ていた方が魔力の回復が早いからだ。
魔力は身体が傷を自分で治していくように回復するが、その回復量は身体の他の機能が働いていると低下してしまう、なので寝ている間が1番回復量が多くなる。奇絶した場合は尚良い。
という事で、まあ……予想していた通り魔力の回復が遅い。
傷は全て治したが、常に痛みが続いていたせいで色々と機能が働いたまま麻痺してしまったんだろう。それに加えて魔力の流れがどこか阻害されているような気がする。といっても少しだけだからそこまで支障は無いな。
それよりも未だに続く痛みの方が辛い……。
「回復魔法は意味ないし――」
「やっぱり無理してたんじゃない」
「ッ!?」
俺は横から聞こえて来た声に反射的に飛び起き、即座に距離を取る。
が、弛緩していた体を急に動かした事によって全身に激痛が走り俺は思わず顔を歪めてしまい膝をつく。
それを見て、横から聞こえて来た声の主――スイハちゃんは心配そうに、そしてどこか怒気を孕んだ声を上げる。
「見てたわよ」
「っ……なんの事だ?」
俺は彼女の向けてきた目に何もかもを見透かされているような気がして息を飲んでしまう。
見てた? それはゴブリンの内蔵をか、今俺が回復魔法を使っていたとこか、それとも……
「ルイ、あなたはとても苦しんでいる。痛みに今すぐ泣き叫びたいんでしょ? でも私がいるからできない」
「……」
「確かに私は小さいわ。でもあなたが思うほど私は小さくない。あなたよりも生きている」
確かにそうだ。
俺はスイハちゃんの事を小さいと思っている。それは身体の事じゃない。心だ、未発達なんだ。
人の心というのは他人と関わらなければその成長が止まってしまう。スイハちゃんにはリンネがいるのでそこまでではないが、だとしてもこれまでの言動を見る限りそこまで成長していない――と俺が勝手に思っていた。
「私は見てた、あなたが血を流していたこと、それでも声を漏らさないように、傷ついても必死に堪えていたこと。それにあなたから感じる魔力が怖いほどに暴れていた」
「……」
「正直私はあなたに恐怖したわ。あんな深い、黒の魔力なんて初めて見たもの。でも私は恐怖よりもあなたを心配する心の方が大きかったわ」
彼女が俺に近付いてくる。
「あなたは私があなたに罪悪感を覚えるとでも思ったの?」
「っ……」
「それは……確かに正解よ」
膝をついていた俺を彼女がそっと抱きしめてくる。
俺は突然の事に思わず体をこわばらせてしまうが、その小さな手に背中を優しく撫でられ、それも和らいでいった。
でも、と言い彼女は話を続けた。
「私はあなたが話すことよりも話さないで取り繕っているのを見ている方が心が苦しくなる。私が弱いからあなたが傷ついた。リンネがあなた達に頼らざるを得なくなった」
本来ならば気付かれることもなかった話。
俺は痛みを堪えることに慣れている。そしてそれを面に出さないようにもできる。現にリレン達には俺が堪えていると気付かれなかった。
何故彼女には気付かれたのだろうか。
「今回は気づけた。でも次からは? 次からは私はあなたが傷ついていることに気づけないかもしれない。私はなにも知らずに、気づけずに、呑気に生きていくことになる。そんなのは、いや……」
彼女の声には震えが混じっていた。
気付かなくてもよかった。呑気にでもいいから生きていて欲しかった。けれどそんなこと、彼女には言えない。
「だから、ね? 次からはわたしにはなしなさい? それがわたしのあたえるあなたへの罰よ……。いい……わね……?」
「ああ……分かった……」
とうとう泣き出してしまった小さな少女に俺は無力な自分が無性に情けなくなった。
それと同時に彼女に対し妬みを――違う――これは……違う……。
ルイが切った蛇は隠密能力が異常に高いだけの毒蛇です。ですが、ユキを見慣れてるルイにはただのバッタを相手にしているようなものです




