零ー39 女の敵は私の敵です
思い出しました。
まずルイの口調の変化なのですが、前までのはどこか普通の元男子高校生としては違和感を感じたので今のルイの口調で固定させていただきます(なお、前話の修正はいたしません)
それとルイの設定を見返していると2点ほど。泣けなくなったとあるのですが、そもそもこの話で泣くような場面に遭遇しない事に気付いてしまいそれを無くします。後は残念イケメンではなく痛いイケメンでした。
「ワタシの力をとくと見ヨ〜!」
精霊――リンネがゴブリンに向かってゆっくりと飛んでいく。
彼女はゴブリンの正面から行ったので、それに気付いたゴブリンは彼女に向かって剣を振り下ろす。
それを彼女は――避けない。まるで自らが動かなくてもそれが当たるとは思っていないように、優雅に飛び続ける。
思わず俺達は飛び出しそうになったが、スイハちゃんが小さな風を起こしそれを制す。
その小さな体を容易に切り裂いてしまうであろう白に煌めく刃がリンネに迫る。
10…………5………3…2…1……
今まさに、彼女を切り裂かんとした刃がその身に触れるか触れないかの所でピタリと止まる。
その距離は1ミリ程度しかないだろう。そして剣が目の前で急に止まったにも関わらず、彼女の髪は一切なびかない。
ゴブリンが思わず困惑の声を上げる。
その隙に彼女はスススッとゴブリンの目の前まで飛び、ゴブリンの頭に触れた。
「《――》」
彼女が何らかの魔法を使う――バタリッとゴブリンは全身の力を失ったように倒れふした。
ふっふーんと得意顔の彼女が茂みに隠れていた俺達の元へ戻って来る。
「少なイ魔力でもゴブリンを倒セちゃうリンネちゃン! さっスが〜」
「……今、なにを?」
「え? ナにって――脳の時間を止めただだヨ?」
「うっわ……」
防ぎようないじゃん。それに脳の時間が止まる="死"だよな? だけって、簡単に言っていいことかよ……。
「ワタシ程になるとゴブリンくらイ相手にならなイからネ。元のワタシなラ兎も角、今はスーちゃんかラ魔力を貰っテる状態で節約シないといけなイからやれることは最低限だけどネ〜」
だから目の前に刃が迫るまで剣を止めなかったのか。離れた距離の時間を止めようとすればそれ相応の魔力を使うんだろうし。それを踏まえても強すぎる気もするが……。
ちなみに翻訳の方はユキが彼女の話すのと同時に行っている。神獣はどんな言語でも理解出来るらしい。
「こいつ俺らに使ったりしねえよな?」
「あア〜、それは心配シなくてもイイヨ! キミ達の脳を止めヨーとシたらスーちゃんにまタ魔力貰わないとイけなくナっちゃうからネ! 時間も掛かるシ! …………10秒くらイ」
「時間が掛かるのなら安心ですね。その前に倒してしまえばいいのですし」
どうやらリレン達は彼女の最後の言葉が聞こえていなかったらしい。10秒は長いようで短い。髪にまとわりつかれたら取り外す前に経過してしまう。
精霊って恐ろしいな。
「まっ、ワタシの力は見せれたことだシいこー!」
小さな手を鬱蒼と生い茂る木々に向かって指す。
向かう先はゴブリンの巣。それの破壊が彼女に提案された風の遺跡に案内してもらう為の条件だった。
その提案をされた時からリレンがそわそわしだしたので何が起きるのか少し不安だ……。
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「ここヨ」
リンネが声を潜めながら言う。
彼女に連れられて辿り着いた先は大の男が5人は並んで入れるほどの大きさがある穴の入口であった。
見張りは入口付近に剣と弓を持った4匹のゴブリンがおり、その油断のない姿は何処か熟練の騎士を思わせる。
なお、俺達が歩く時などの音は俺が風の流れを操作して周囲からは無音の空間を作り出している。俺達の周りだけ別の空間が出来ているようなものだ。なので彼女が声を潜める必要はない。
「で、なんの相談もなしにここまで来たけど何かあるか? 俺が思うにゴブリンには毒とか火とかを使って安全にやるのが良いと思うが」
「ここのゴブリンにそれをシても全部はヤれないヨ」
「正め――」
「却下です。ここはルイさんに協力してもらって私と2人で奴を――殺ります」
リレンの目から光が消える。口には薄らと笑みを浮かべ、声はどこか無機質なものになっていた。
その不気味なリレンの姿にスイハちゃんはヒッと小さな悲鳴を漏らし俺の後ろに隠れ、アストはまたか……と見慣れたものを見るような目を、リンネは引いていた。
そして俺はこれまで何故リレンがそわそわしていたのかを悟った。
理由は単純。
ゴブリンは一般的に女ならば誰彼構わず攫い、苗床として子を孕ませる、いわば女の敵だ。
そんなものが巣を造っているのだ。たとえミノア大陸のゴブリンがそのような事をしないとはいえ、とても見過ごせるような事ではないだろう。
リレンがその無機質な声で俺に聞いてきた。
「ルイさん。あそこの4体を音を立てずに殺れますか?」
「あ、ああ。少し多めに魔力を使うことになるが出来ないことはない」
俺は思わず少したじろいでしまった。それくらいに普段の落ち着いた雰囲気を持つリレンとの差がありすぎた。というより怖すぎる。
「それではお願いします」
「分かった」
流石に風誕とか使ったらその風でバレるから使わないとして……少し趣向を変えるか。
「《汝我が身を喰らいてその身を隠す-風よ》」
この世界に隠蔽というものはない。詠唱を始めればそこに魔力が集まり始める。故にいくら秘密裏にやろうとその存在がバレてしまう。
しかし、バレずに魔法を使う方法が1つだけある。
「《-汝全てを切り裂く風となる》」
それはこの世界に合わせた魔力を魔法に上書きする。
いや、魔力というと少し違うかもしれない。
「《-天より降りし無情なる無音の刃》」
正確にはミーシア様が人を神にする際に与える力のことだ。
それは同じ力で創られたこの世界と深い関わりがあり、その力を使えば魔法をこの世界の自然の理として使うことが出来る。
「《-汝は雷の如く》」
デメリットがない訳では無い。別に弱体化するとかではなく、魔力がその魔法の質に関わらず3000程持っていかれるだけらしい。
それと使うと少し倦怠感が生まれる、らしい。
「《-されど汝は風となれ》」
先日、リンネに聞いた"神の魔力を持っている"が事実なら俺にもそれが使えるはず、と何となく思い検証もせずに今に至る。
「《-降れよ風刃――天刃ノ神風》」
次の瞬間、これまで何をしているんだ? という目をしていたリレン達4人の驚愕に見開かれる。俺も自分のやったことながらそれに驚いた。
洞窟の前に立っていたゴブリン達。その体が何の前触れもなく真っ二つに開かれたのだから。
ゴブリンが真っ二つに開かれた姿は見ていて気持ちの良いものではない。臓器が綺麗に見えてしまう。
なので俺は反射的にスイハちゃんの目を塞いでいた。彼女にはできるだけあんな物を見ないでほしかったからだ。彼女がそんな俺に抗議するが無視だ。
そしていち早く復帰したアストが俺の意を理解しそれを燃やす。それだけでは死体の焼ける臭いで中のゴブリンにバレてしまうので、俺が風を起こしその臭いが洞窟に行かないようにした。
他の面々も復帰し、リレンが少し声を震わせながら聞いてきた。
「ル、ルイさん。今のは魔法……ですか? それとも別の……」
「いや、魔ほ――」
俺は魔法と言いかけて言葉を止めた。止めざるをえなかった。
こみ上げてくる熱い何か。そして胸が焼けるような激しい痛み。俺は自らの身に何が起こっているのかを理解し、不思議そうな顔をしている4人に疲れたから近くで休んでくると言い、その場から急いで離れた。
「――がハッ」
口に溜まっていたものを地に吐き出す。それは――血。恐らくさっきの詠唱で身体にかなりの負荷がかかったんだろう。だがそれは既に効力は下がるものの無詠唱で治している。
問題はこの痛みだ。
何かが身体を突き破ってくるような感覚を覚える全身を襲う激しい痛み。
俺はこれまでに――それこそ初めてセティさんに刺されたあの剣の痛みよりも死を直接見てしまうこの痛みに思わず意識を持っていかれそうになる。
無音空間を作りたいがそれも出来ない。あれはそれなりに集中しないと使えない。故に俺はどんなに叫びたくても叫べない。出来ると言った手前こんな姿を見せる訳にはいかない。
リレンとアストだけなら別に良い。だが、リンネとスイハちゃんは駄目だ。リンネに知られるとそこからスイハちゃんに伝わる恐れがある。そしてスイハちゃんが知ると彼女がいらぬ罪悪感を覚える恐れがある。自分が出来ないから他の人に頼む事になった、そのせいでその人が苦しんでいる。
自分で言うのもなんだが、彼女は俺にそれなりに懐いてくれていると思う。が、それ故に彼女の感じる罪の心は大きくなる。
彼女に罪の心を植え付けてしまっては駄目だ。純粋な彼女の事だ。エルフのその長い生、ずっとそれを引きずって生きていく事になってしまう。
「ガッ、ぐぅ゛ゥ゛――」
顔を地面に叩き付け、声をくぐもらせる。
恐らく今の俺の顔は血だらけだろう。
それでも俺は叫びを上げない。
何故会って短い彼女にそこまでするのかは自分でも分からない。それでも――たとえどんなに苦しんでも幼い彼女にそんな重いものを背負わせたくなかった。
セティは上級神になってからこの方法を見つけました。なのでこの隠蔽方法は例え中級神がやったとしても痛みでのたうち回ります。




