零ー36 戦い、疲れ、冷めた心にオアシスを
「……ぶっつけ本番で使うようなものじゃなかったなあれ……」
「ッ!?」
起き上がり、魔力を確認すると案の定魔力が枯渇していた。
「全魔力使って5秒も持たないって……身の丈にあってない魔法のせいか、俺の魔力が少ないせいか……」
あの時使った魔法の事を考える。
”風刀鬼風”
簡単に言えば刀を通して俺の魔力を触媒にして不可視の風刀を作る、そしてそれを振るうイメージを持つだけだ。
兎に角風を圧縮しているので、不可視の刀は触れただけで鉄でもなんでも豆腐のように切れる……と思う。ただしそれは、圧縮に圧縮を重ね、更に風なので常に風刀の中で風を循環させる必要がある。循環させなかったら刀のような鋭さを持たない唯の暴風になるしな。
そして実力不相応な魔法使った後、少し頭が痛いだけで済んでいるのは耐性のお陰だろう。それと身体強化もだな。
「熟練度的にまだまだ負荷がなぁ……」
「――!」
俺はランクを熟練度と言うことにした。なぜならランクは飾りと言われてしまったからだ。それならランクとしてより熟練度として見た方がなんだか気分的に良い。
あ、そう言えば……
「ここどこだ?」
「――!」
「ぶっ――」
誰かにビンタされた……。
いや、さっきからチラチラ見えてたし何か喋ってるのは聞こえてたんだけどな。
「――!」
「何言ってるんだか……」
俺の目の前で頬を膨らませている耳の長いエルフの少女。髪は薄緑のショートカットで瞳はパッチリと開いた茶色い瞳、幼いその容姿は少女というより幼――
「――おっと」
「――!!」
俺が考えてる事が分かったのか再びビンタしてこようとしたので、俺はその軌道に手を合わせてガードした。
すると、膝の上に乗っていたユキから呆れ返った声が聞こえてきた。
『ご主人様、そこは素直に叩かれないと』
「俺は幼女に叩かれて喜ぶ趣味はない」
『……取り敢えずスキル使お。忘れてないよね?』
一瞬間が空いたのが気になるが……確か口と耳に魔法を使う容量で魔力集めて森人族共通語を使おうとすればいいんだよな。
……共通語なのにシストルム大陸のエルフには通じないっていうのは変な話だけどさ。
「……こんにちは?」
「もう夜よ、こんばんは」
何を言ってるんだか、といった様子肩をすくめているエルフの少女に言われた通り外を見ると暗く、部屋には魔力燈が灯っていた。その魔力燈の光が自然すぎて夜になっていることに気付かなかったみたいだ。ルーゼルクにあった魔力燈の光は地球にあった電球とかの光みたいな人工的な光だったんだけどな。
お、あそこの光ってるテントはリレン達のか。
「ええと……」
「スイハよ」
「スイハちゃん、大丈夫だった?」
俺は目の前のエルフの少女――スイハちゃんにそう尋ねた。
何せこの子はあのゴブリンに対して木の棒だけで戦っていたのだから。恐らくこの子は山菜とかを採りに行って、運悪くゴブリンに遭遇してしまったのだろう。故に武器を持っていなかったと。
「ええ、大丈夫よ。それとちゃん付けはやめて。少なくとも……」
「ルイだ」
「少なくともルイ、あなたよりは歳上よ」
エルフとはいえ見た目10歳くらいの女の子にそう言われてもなぁ……。実際俺も外見は17歳で止まってるし、こっちに来てから15年で今は実質32歳だからな。
「何歳なんだ?」
「なっ!? ふつー乙女にそういう事言うかしら!? ……ま、まあいいわ。私は心が広いのよっ、だから教えて上げる――35よ」
ふふんっと何故か自慢げに胸を逸らしながら自らの歳を宣言するどこか見た見相応な姿のスイハちゃん(35歳)。その年齢差僅か3歳。
その可愛らしい姿を見て俺はなんだか冷めた心に温かい何かが灯ったような気がした。
「な、なによっ……」
「可愛いなぁと」
「なぁ!? か、かわ、かわァ!?」
やばい、めっちゃ和む。
今までは戦って戦って戦って戦ってだったから癒しというものがなかった。唯一癒しになりそうなのがスウ様だったがあれは違う、悪魔だ。いや、実際に俺に大きな危害を加えてるわけじゃないし小悪魔か。
まあいい。
それに比べ、目の前の顔を真っ赤にしながらあたふたしているこの子はまさに俺の心のオアシスになりうる存在だ。
「飴ちゃんあげるからおいで〜」
「わぁーい! 飴ちゃんだぁ〜! ――ってなるわけないでしょ!?」
一瞬来かけたくせに……。
やっぱり色々と見た目相応の子なのかな。なんで深いこの森にいるはずの子が飴を知っているのかは少し気になったが……まあ何があってもおかしくはないか。取り敢えず――
「……チョコ」
「!?」
「……グミ」
「なっ……」
「……クッキー」
「む、むむむむ――」
手を伸ばしたり引っ込めたりしながら頭をブンブンと振り欲望と争うスイハちゃん。
さぁ、まだお菓子はあるぞ。いつまでその欲望に抗えるのか――さあ!
「おいで〜」
「あ、ぁぅ……ぁぁ、ぁぁぁ……」
『ご主人様……ロリコン……』
~~~~~~~~~~
「「はぁ〜っ、しあわせ〜」」
途中からなんだか目が虚ろになり始めたスイハちゃん。そこで俺はとっておきを出すことにした。
それは、彼女が現在進行形で顔を幸せそうに蕩けさせながら食べているマカロンだ。このマカロン、なんと5個入りで銀貨10枚である。日本でいうと25000円くらい? 単価は5000円だな。俺がそれを買った店はマカロンの専門店であり、シストルム大陸から各国の御令嬢がこぞって買いに来る貴族以外はお断りの店である。何故貴族でもない俺が買えたのかは分からない。が、取り敢えず金貨1枚分の50個買った。
地球のオーバーすぎるテクノロジーは世界観がーとか言って伝わらないようにしているらしいが、こういったお菓子とかが広まっているのはいい事だよな。
「そう思うよな?」
「んむ? ――そうね!」
座っている俺の足の間にすっぽり収まっている彼女はよく分かっていなそうな顔で取り敢えず返事をくれる。
かわいい。
「――そう言えばエルフって基本怠惰でほとんど動こうとしないって聞いてたんだけどスイハちゃんは違うのか?」
俺はセティさんに聞いていたことを思い出す。セティさんに森人族に会うように言われた時、必要最低限の知識は教えられていた。その中のエルフというのは怠惰で普段から寝てばかり、危機が目の前に迫るまでは動こうとしないらしい。目の前というのは言葉通りで、剣の刃が目の前に迫るまでだ。
そんなエルフであるはずの彼女はどうも違うように思える。怠惰で寝てばかりいるエルフではなく、怠惰ではないお菓子好きのエルフである。
彼女の表情は見えないが、その長い耳を萎れさせながら、これまでの元気な声ではなくどこか呆れが入った声で言った。
「私は……分からないわ。私たちエルフはこの森の守護者。けど、誰もその自覚がないのか湧いてくる魔物を処理しようとしないわ。だから私が動いているだけ」
「スイハちゃんが魔物の処理を?」
俺が見た彼女は木の棒を1本しか持っていなかった。ということは罠とかか?
俺がそう疑問を浮かべると、彼女は横に置いてあった木の棒を手に取った。
「これは今まで誰にも見せたことがなかったのだけど。見てて《――》」
スイハちゃんが詠唱と思われる何かを唱える。すると彼女の手にしていた木の棒がミシミシと木のきしむような音を立てながらその形を変えていった。
そして彼女のその小さな手には身の丈を越す刃の潰されたなんの変哲もない、けれどそれには微量ながらも魔力が含まれている木の槍であった。
「魔槍?」
「ま、そんな感じね。今は家の中だからこれしか出来ないけど外ならこの木に鉄を付けるわ。でも木だからって甘く見ないでちょうだいね?」
「そうか」
確かに細めの人の腕なら切断出来そうではあるな。……刃がないから叩き切るようなものだけど。
「《――》――こうすれば持ち運びもできるわ」
「おおっ」
彼女が再び先程の魔法を使うと、木の槍が瞬く間に縮んでいき、小さな棒状の木になった。
「これが私のエルフとしての魔法――自然の主よ」
「魔法?」
「ええ、魔力を使っているもの」
”自然の主”って名前が最早魔法には関係ない感じがするよな。でもやっている事は魔法のそれだ。名前からするも自然を好きなように操るってことか、風とか大地とか木とかを。
「すごいな」
「でしょ? あなたが私の初めてを貰ったのよ? 感謝しなさい」
なにやら誤解を生むような発言を――
「アストさんアストさん。私達の中にロリコンが混ざっていましたよ、それも重度の。私でもその辺の節度は守ります」
「リレンさんリレンさん。俺も驚いたよ。まさかルイさんが執事じゃなく変態執事だったとはな」
『撤収ー』
え、なに、なんなの? いきなり現れて変態扱いは酷くな――
「ぅ"ごッ――」
首をもの凄い勢いでユキに蹴り飛ばされたせいで変な声がでた……。なんでユキは機嫌が悪そうなんだ?
「どうしてだ?」
「さあ? それより次はクッキーをちょうだい」
「はい」
「ありがとっ」
まあ暫くはスイハちゃんとゆっくりしてるか。
ユニーク
自然の主:あらゆる自然(風、大地等)を操る。海も操れないことはないが、小さな波を起こす程度。ただし気候などの大きな自然は操れない。
エルフの使う詠唱までは翻訳してくれませんでした。一応同じ言語ではあるのですけどね。
そしてスイハちゃんの家は1階立ての平屋、豆腐型です。繋ぎ目が一切無く、自在に家のかたちを操作出来るので窓を造ったり雨の日には閉じたりします。リレン達がルイとスイハを見たのはその窓からです。




