零ー35 守護者の少女は鬼を魅る
「ヒャッハー1人くらい来いよ……ヒャッハー……」
「何言ってんだルイ?」
セティさんから貰った地図を見ながら俺達は森の中を進んでいた。
ルーゼルクから3日程走っている道中やけにゴブリンと遭遇したが、それは俺達3人であれば訳は無い。それに何故か1体ずつ、または2体集まっているのにしか遭遇しなかったのが幸いした。
しかし、ミノア大陸はいつ魔物が現れるか分からない。それに1体1体が強いので不意を打たれないようシストルム大陸の時のように全力疾走は出来ないが、それでもだいぶ速く進んでいるので日が暮れる頃には集落に着く予定だ。
……俺にはどうも異世界の森といえばヒャッハーする盗賊が湧いてくるイメージがある。
いや、こんな所に拠点作るとかほとんど自殺行為にも等しいか。もしいたとしたら是非とも作った理由を聞きたいね。
「盗賊ってこの世界にいるんだよな?」
「ええ、いますよ。私はあの野蛮な人間を同じ人間とは考えたくないですが」
「俺達のいるアーイスト王国には盗賊はほとんどいないぜ? なにせ騎士団が発見次第捕縛してハスト神聖国に送ってるからな」
「あぁ……」
洗の……もとい、教えを説いてるのか。
「そして暫くすると綺麗な盗賊が帰ってきます」
「いらなっ……」
なんでわざわざ送り返してくるんだよ。普通に信者として迎えいれればいいものを……。
俺がそう考えていると、リレンがそれと、と付け加えて説明してくれた。
「ハスト神聖国は基本的に1度でも悪に身を落としたものは国民としては受け入れません。改心はさせますが、その後は知らぬ存ぜぬで通してしまいますから盗賊を送った国が引き取る形になっています。また盗賊に身を落としてしまっては本末転倒ですからね。因みにその綺麗な盗賊で出来た騎士団もありますよ」
「カオスだな……」
俺が元ヒャッハー軍団がキビキビ動いてるその姿を想像してしまいげんなりとしていると、ユキがバシバシと頭を叩いてきた。
「どうした?」
『あっちから何か折れたような音が聴こえた』
ユキはそう言い、俺の右目の少し上あたりを再度叩いた。
「どうしました?」
「ユキが何かが折れた音が聴こえたらしい」
「魔物がいるのでしょうか?」
「分からない。様子見も兼ねて俺が先行する。リレン達は後からついてきてくれ」
「分かりました」
「おう!」
ユキの叩く力がいつもより少し強かった。これは即ち急いだ方が良さそうってことだよな。
「《風纏》《風よ-追風》」
必要最低限の魔法を掛けた後、俺は全力で木々の間を駆け抜けた。
「……ルイのやつ速くなってねえか? 一瞬見失ったんだが」
「……さあ? 私にはそもそも見えませんでしたから」
△▽△▽△▽
「――くっ……鬱陶しいのよ!」
飛んできた矢を叩き落としながら私は悪態をつく。
私はいつも通り守護者として遺跡から溢れだした魔物を処理していた。お母様もお父様、集落の誰1人として魔物を自分から処理しようとしない、守護者の自覚はないのかしら? しょうがないから私がこうして1人で来たというのに……
「なんで今日はゴブリンばっかりなのよぉ!?」
おかしいでしょ!? おかしいわよね!? なんでよりによってゴブリンなのよ! 魔虫! ……は嫌だけど筋肉ダルマ! ……じゃなくてオークでもトレントなんでもいいからゴブリンはやめなさいよ! 剣! 槍! 弓! 杖! あなた達はそれ何処から持ってきてるのよねぇ!? 私の槍より絶対に性能いいわよね!! でも倒したらその武器ごと消えるってホントなんなのよもぉぉ!!!
「数もおかしいわよ! 何が嫌で迷宮から出てくるのよぉ!」
前までは集まってても5匹以上にはならなかったのに今は30匹超えてるのよね……。20匹は倒したハズなのにまだ半分は残ってる気がするし……逃げる? 逃げちゃう?
「《大地は岩を造り風は吹き荒れる》!」
私の飛ばした岩が逃げ遅れた1匹のゴブリンを押しつぶす……いやいやいや、1匹だけって……。
「もぉぉぉぉ!!」
私はヤケになって剣を構えていたゴブリンに向かって槍を横薙ぎに振るう。
そして槍が剣に接触した時、鈍い音と共に槍が随分と軽くなったような気がした。いや、軽くなったのだ槍が半ばから折れてしまったせいで。
「――え?」
私は何が起きたのかを理解するのに数瞬の時間を要した。そしてなにが起きたか理解した瞬間、横から鈍い衝撃を受けて私は木に叩きつけられていた。
「ヒゥッ――」
突然受けた衝撃に息を詰まらせてしまい、私は口に手を当て咳き込んだ。
「ケホッ……あ…………」
すると、口に当ていた手に妙に温かい何かが付着していた。
「……血? だよね……あはは……私…………もうダメかも……」
思わず私は乾いた笑い声を上げる。
目の前には10を容易に超すゴブリン。身体には力が入らなくなり、魔力もほとんど底が尽きてしまった。
これを絶望以外なんというのかしらね……?
「その数は流石に反則よ……」
私を吹き飛ばしたであろう金属の塊をゴブリンが再び振り下ろす。
せめて痛くないように、と私は意味の無い願いをしながら目を閉じた――
あれ、何も来ないんだけど……。
聞こえてくるのはゴブリンがほとんど出すことのないガラガラとした声。この声は断末魔としてか、ゴブリンがよほど警戒している相手にしか出さないはず。
私は目を開けた。
「――! ――?」
ゴブリンと相対している黒い服を着た男が私に声を掛けてくる。私はその男が何を言っているのかは分からない、けれど心配してくれているのはその声音を聞いて何となく理解出来た。
「……ええ、大丈夫よ」
私は痛みのせいでぎこちない笑みを浮かべながら言葉は通じないであろう男にそう返した。
「――。――《――》」
男は顔に安堵の笑みを浮かべ、私とはどこか違う詠唱を始めた。
途端にゴブリンは聞いたことの無いゾッとする雄叫びを上げ、詠唱をしている男に顔を恐怖の色に染めながら飛び掛った。
「ッ、逃げて!」
私はその光景に咄嗟に手を伸ばしそう言った。
意味がないのは分かってる。それでも私は男がゴブリンに殺られてしまう光景を幻視してしまったのだから。
――けれど男はこちらを振り返りこちらを安心させるような優しげな笑みを浮かべる。
ゴブリンの剣が男を切り裂こうとした時、男は詠唱を終え、その顔に鬼のような、それでいてとても――とってもステキな笑みを浮かべていた。
風が吹いた――
そよ風のような頬を撫でるやさしい風。
なのに私が瞬きした一瞬――全てのゴブリンがその首と胴を離れさせながら吹き飛んでいた。
「――ッ!?」
私が何が起きたのか分からず目を白黒させていると、彼が座り込んでいた私の横までフラフラと歩いて来て、頭に手を当てながら何か魔法を唱えた後――私に覆いかぶさった。
「な、なぁななななにを!? こっ、こんな所で大胆なッ、あ、でもでもそれも悪くな――」
私は気が動転して自分でもわけが分からないことを口走ろうとした時、彼の体が白い何かに吹き飛ばされた。
「えっ!?」
『落ち着いて』
「えぇ!?」
『ご主人様が――』
「ウサギが喋ったぁぁぁ!?」
私は反射的に彼の元に駆けていた。そしてその後、彼の仲間と思われる人達と一緒に喋るウサギを仲介役にして集落に案内している時、私は体が動くようになっていることに漸く気付いたのだった。
……ウサギが喋る理由は彼が起きたら聞こうかしら。
忘れておりました
無詠唱 (技術)
消費魔力×1.5倍 魔法威力×0.3倍
無詠唱 (ユニーク)
消費魔力×1.1倍 魔法威力×0.8倍
火魔法→炎魔法・水魔法→氷魔法・風魔法→雷魔法
純粋な火力を出す魔法
土魔法
壁等を造る形成系の魔法
↓
大地ノ変革術
高規模な大地変革を起こす形成系の魔法
光魔法→聖光魔法
対アンデット浄化系の魔法
闇魔法→暗黒魔法
闇に潜む潜伏系の魔法
詠唱について
ルイが詠唱の最初に「《起これ○○》」というのは魔法威力増幅の為で、風誕等のの下位互換です。ただし途中で詠唱が途切れた場合無駄に魔力を消費してしまいます。
2種の詠唱
「《━━━━━━》」と、行う1文の詠唱と「《━・━・━》」と、短い文を繋げながら行う詠唱。
文唱
セルスティーナ・エルフ(今回でてきた)・アスト
単唱
セティ・ルイ・リレン




