零ー26 驚愕と畏怖
前回出て来た濃魔、少しだけですがルイが感じたあれですね。
「……」
「あれ、もう始まってる?」
「ロイツさんは戦う時にはほとんど喋らなくなるのでそうですね」
「しゃあ! いくぜ!」
朝食を食べ終わった瞬間、ロイツさんは俺達から距離を取った。
そしてアストと戦った時同様50メートル程離れた後、無言で拳を構えた。
「ルイさんはアストを援護しつつ私の護衛を! 《水祭》!」
そう言いリレンは自らの周りに池らしきものを作り出した。
「要するに中衛か、分かった! 《追風》《風脚》」
先程と同様、リレンの剣とロイツさんの肉体との応酬。
俺は出来る限り速さを上げ、ロイツさんに斬り込む
「《宿れ-風刃》、はっ!」
「っ……」
「避けるな!」
「そっちじゃねえと思う!!」
アストの剣と同様に俺の刀も受け止めてくれたらと思ったんだけどな。
まあ魔力が見えてるならしょうがないか。
そっちじゃないって? 何のことやら
「魔境を……思い出すな……」
「ですよね!」
「この刀の事ですか?」
確かにこの刀の素材には魔境の雷龍の骨が使われているし、なにか感じるものがあるのかもしれないな。
「――いんや……ルイ、おめえさんだ……魔境の鬼を思い出す……」
「……はい?」
「ルイ、お前自覚なかっのか……」
話しながらも攻撃の手は止めない。
いつ好機が訪れるか分からないからだ。
「いや……俺が鬼? 確かに称号に風の狂鬼ってのはあるけど俺は鬼じゃないぞ?」
「なるほど……な……」
「ぜってーそれだっての。今度鏡でも何でも見てみな、お前――」
「――捕食時の鬼種みてえな笑み浮かべてんぞ」
「え……?」
「馬鹿! 止まるんじゃねえ!」
「あっ」
俺はそのあんまりな表現に衝撃を受け、少しの間だが硬直してしまった。
その隙にロイツさんは詠唱中のリレンの所に駆け出した。
が、リレンだってなにも静観していた訳では無い。
ロイツさんが接近してきた瞬間、唱えていた詠唱を終えさせる。
「《――圧殺しろ-氷塊》」
足下の小さな池が一瞬揺れたかと思うと次の瞬間、上空に逃げ場が無いほどの巨大な氷塊が俺たち諸共圧殺しようかという勢いで落ちてきた。
「ばっ、アスト! 《風牢・刃》っ!」
「《火牢》!」
俺はアストに声を掛け、風牢に風刃を足した牢を作り、アストも意図を汲み取ったのか内側に火牢を作り出した。
――ドォォォォォンッッ!!
直後、氷塊の落下した事による地鳴り起こった
俺が氷塊を小さくし、アストが蒸発させ耐え凌ぐ。
「っ! 門番さんどうした!?」
「俺に馬鹿馬鹿言ってるあいつも十分馬鹿じゃねえか!」
さっきまで俺達の戦いを観ていた門番。ユキも観ていたが、ユキならすぐに落下範囲からは逃げ切っているだろうけど門番にそんな速さは無い。
――そして落下の衝撃が治まったが、何故か揺れは治まらない
「無事を祈ろう」
「そうすっか……」
……ていうか下に隙間空いてるんだよなぁ
「よ、予想は出来るけど……当たって欲しくないなこれ……」
「ロイツさんならこれくらいしてもおかしくねえとは思ってたがまさか、な……」
じゃあさっきの地鳴りって……?
俺がそう疑問を浮かべると同時に氷塊が上に上がっていった。
取り敢えず門番の確認――――無事、ついでにユキも。全く動かずに立っている…………なんで普通に立ってんの?
「ルイ、来るぞ」
「ああ、分かってる」
そしてロイツさんの方を見るといつの間にか気絶しているリレンと動かないロイツさんがいた。
「来ねえな、なんか揺れてるが……」
「揺れてるな。これって――」
なんだ? そう聞こうとした瞬間、ユキからの切羽詰まった声が聴こえてくる。
『下っ!!』
「っ、退避!」
俺とアストが立っていた場所から飛び退いた瞬間、地面から巨大な岩がせり上がり、氷塊を砕けさせた。
「ロイツさんの魔法か!?」
「ロイツさんは魔法は使えねえよ、こいつは……土竜……か?」
岩が地中から出終わり、その全貌を見たアストが疑問形になるのも当然で、本来土竜とは体長5メートル程の他の竜種と比べて比較的狩りやすい竜種だ。
しかし、この竜は軽く見積もって20メートルは超え、何故か翼も生えている。翼を抜きにすると岩龍になるとも俺は考えたが――
『――竜種と龍種はその殆どが空を飛ぶ事が可能です。火、光、闇は翼を使い飛び、風は魔法を使い飛びます。水は小さいながらも翼はありますが、その飛行速度は遅い為まず飛ぶ事はありません。土は竜、龍ともに飛びませんが、地中から仕掛けてくる事が多いです。もし翼のある風、土の竜、龍が現れたとしたらそれは別種の龍として対処する事を、頭の隅にでもいいので覚えておいてください』
「――岩龍じゃない龍種……か」
龍はこちらを敵とも思っていないのか見ようともしない。
そしてこの龍が現れてから胸がざわつく感覚を覚えながらも、隣にいるアストに目を向ける。
「アスト、この龍は……アスト? おいっ、どうした!」
そこには顔面蒼白、青を通り越し顔を白くさせながら、膝を震わせ今にも崩れ落ちてしまいそうな様子のアストがいた。
「あ、ああ……ルイは耐性が……あるから大丈夫なのか。……こいつは無理だ、俺の勘が、挑んでも、死ぬだけだって……執拗に訴えかけてきやがる…………」
「天賦の勘か……」
アストの持つ”天賦の勘”、これによってこれまで毒殺やら魔物が自らの格上だと直感的に分かる、と船に乗っている間に他のスキルと共に聞いた。
そして俺がアストを連れて逃げるかなんとかして追い返そうか迷っていると、現れてからそのままだった龍に動きがあった。
『――神ノ……ハドウ…………対象カクニン……ケイトウ……キシ……コレヨリ対象ヲ……排除スル』
「なっ……」
突如として機械的に話し出した龍。
龍は翼をはためかせ、その岩の巨体からは考えられない速さで――跳んだ。
その軌道の先にいるのは――――
【水祭】は大きく魔力を消費し(リレンの場合は600程)動けなくなる代わりに次に発動する魔法の威力が2倍になります(発動可能ランクⅧ)




