零ー25 魔導師とは固定砲台である
何事も無く迎えた早朝、俺達は北門を出て都市がかなり小さく見える草原にまで来ていた。
所々に血痕が見える辺り、昨日船長が言っていた返り討ちにあった人か魔物の血だろう。
「それでは始めるぞ、まずはアストからこい」
「はい!」
どうも昨日からアストのロイツさんを見る目はどこか輝いている様に見えるんだよな。
王子であって剣王でもあるアストがそんな目で見るって……ロイツさんって相当すごい人なんだろうか?
「行きます!」
「……」
アストは声をかけた瞬間ロイツさんに斬り込んでいった。
「って、ロイツさん強化してなくね!?」
身体強化を使っているアストとは違い、ロイツさんからはそんな気配は見受けられない。
こんなの勝負になんて……
「観ていれば分かります、なにせロイツさんは――」
「ハアァァァッ!!」
アストが下段から剣を振り上げる
――――キィィンッ
「は……はいぃ!?」
アストの剣がロイツさんを真っ二つにするのでは、と幻視した瞬間、ロイツさんは腕を剣の軌道に合わせ、接触――――そして剣同士が接触したとしか思えない金属音が鳴った。
「え、ちょ……えぇ!?」
言葉が出ないとはまさにこの事だろう。
剣と肉体のぶつかり合い。言葉だけで見ると肉体のが一方的に斬られて終わるように思える。
でもそうはならない
「……どゆこと?」
「ロイツさんの剣と接触する場所をしっかり見てください。それすれば分かるはずです」
俺達が会話している間にも剣と筋肉の応酬が続く。
そしてリレンに言われた通りに見てみると接触の瞬間に僅かながら身体強化が部分的に行われているのが見てとれた。
だとしても筋肉が金属みたいな音を立てているのは納得出来ないけど。
「はぁ〜、凄……。高速戦闘で部分強化するって最早自殺行為にしかならないよな」
「普通はそれが正しいです。ですがロイツさんは例外。当時第1騎士団団長だったロイツさんはもっと強くなってくると言って単身で”空白の森”、所謂魔境ですね。そこで10年程過ごしたらしいです。そこで身に付けた技術があれです」
「空白の森ねぇ……」
空白の森……魔境…………ん?
「魔境!?」
「ええ、凄いですよね。常人では踏み入れた瞬間、濃魔にやられて生者が死者となる、そしてたとえ入れたとしても生息する魔物によって同じく死者となるシストルム大陸で唯一未解領域だった森ですから」
「いやいやいやいや、そこじゃない! 俺も魔境で偶に魔物を見かけてたから分かるけどそんな凄いじゃ片付けたら駄目だって!」
「ルイさんのいた森って空白の森だったのですか!?」
「……そこ?」
「そこですよ!」
「え、えぇぇ……」
そんな詰め寄らなくても……
そういえば説明する時って何の森とかは言ってなかったな。
「ふぅ……アスト! だいぶ強くなったなぁ!」
「あり……がとう…………ございます」
「それとルイ! 会話は聴こえていたがおめえさんは空白の森に行ったことがあるのか?」
俺がリレンにいきなり詰め寄られたことにより驚いて硬直していると、丁度息も絶え絶えのアストと全く疲れた様子を見せていないロイツさんが帰ってきた。
「えーと……。行ったことがあるというか住んでた、ですかね? もちろん特殊な魔道具の1種を使っていたので魔物からの危険はありませんでしたけど……」
「「「……」」」
あれ、無言ですか。
まあ安全だった理由は魔道具+αだったんだけど。
「……いや、十分凄いですよルイさん」
「……空白の森で危険が無いからなんて言える奴初めて見たわ……」
「……そんな魔道具があったとは……。俺もまだまだ知らない事があるものなんだな……」
呆れ2名に考え込む人が1名。
でもしょうがないだろ、あそこにいないとすぐに死ぬことになってたんだから。
いや、あれなら最初から死んでおいた方が楽だったのでは……
『――ルァー坊! きぃもけぇのたぁーしーりぃしぃーきーぞー!』
『え、今ごは』
『いぃかーこぉー!』
『――設置しましたよー!』
『は…… クナビコ様ぁ!?』
『いーぞー』
『え、ちょやめ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――』
ちゃんと喋れるはずのロクスは何故か変な話し方をする。
そして新作の武器を造ると毎回俺の所まで来て、俺を斬っていく。お礼だと言って偶に武器をくれたりもするが……。
大抵俺が誰かに殺られる時に限ってクナビコ様も一緒に来ているから尚更やばかった。
「――あ゛ー、嫌なこと思い出した……」
「ルイさん、少々準備運動に付き合ってもらってもいいでしょうか?」
「うん? ああ、いいぞ。何すればいい?」
「軽く斬り込んできて頂けたら。勿論身体強化はしてです」
「分かった」
念の為に刃引きをされた鉄刀を取り出す。
「ふっ、ほっ、はっ」
「こうしてっ観るとルイさんはアストと同じ我流みたいですねっ。まあ流派通りにやっている人はすぐ限界が来ますのでっそれが良いのでしょうけどっ」
全力ではないにしろ5割位の力ではやってるんだけど物の見事に当たらない。
「やっぱりっリレンは凄いなっ」
「何がっですか?」
「ふっ、魔導師なのに強化に体がついてってるって事がっ」
「とはいえっ私なんてまだまだですけどねっ」
「謙遜しなくてもいいって」
魔導師というのは魔法士よりも高度な魔力操作と魔法を持つ者の事をいう。
魔法士は魔力操作のランクがそこまで高くないからか身体強化を使っても軽く移動くらいは出来るが、魔導師は魔力操作の向上に伴い身体強化の精度も上がってしまうので、よく転けたり壁にぶつかったりする。なので普通は固定砲台だ。
それに比べてアストは回避の合間に、偶にだが杖で攻撃もしてくる。
まさに絶技というに相応しい。
ちなみに俺は魔法士でも魔導師ない。魔法戦闘に特化しているただの剣士だ。
「――これくらいでいいか」
「ええ、ありがとうございました」
「おっ? 終わったか! じゃあ早速っ」
「ロイツ様、戦うのは朝食を食べてからにしてください。露店でいくつか買ってきましたので皆様でお食べください」
あれ、いつの間にか門番の人が来てた。
「そんじゃ俺はこれな」
「私は焼そば頂きましたましょうか」
「じゃあ俺はこの唐揚げを。ユキも同じでいいか?」
『うん』
腹が減っては戦は出来ぬ、だな。
さっきのロイツさんを見る限り万全の状態で戦わないとやばそうだし。




