零ー24 筋肉だな...
出航から15日目の夜。
イカーケンに襲来により多少の遅れは出たが、その後は何事も無くミノア大陸に到着した。
「――いやー、助かった助かった! あんちゃん達のおかげだ、ありがとな!」
「いえ、流石にあの状況では私達も動かざるを得ませんでしたので。それに私の指示通りに動いてくださって本当に助かりました」
「そうだっての! 気にすることなんて何もねえって!」
「アストは動けなかったからな」
「うぐ……」
そして歩く筋肉にお礼を言われたが、元はといえば俺のせいなので何とも言えないものである。
「あんちゃん達は冒険者なんだろ? ……執事服のあんちゃん以外」
「俺も冒険者だから!」
「はっはっは! 冗談冗談! 何せ執事服を着てるやつは大体が本当の執事だからどうも硬っ苦しくてな! あんちゃんみてぇなのは一緒にいて面白い!」
俺達はイカーケンを討伐した後、戦いを観ていたらしい船長とその他船員とで宴をして、酒を酌み交わしたりしていた為割とフレンドリーだ。
未成年? そんなものはこの世界には無い。
「あー、それでな。俺もさっき耳にしたばかりなんだがよぉ。近頃普通の魔物とは少し違う奴らが出来てるらしいんだわ。幸い街には近付いて来ねぇみてぇだがそいつを討伐しようとした奴らは全員重症で命からがら帰ってきたってーんだ。あんちゃん達、気ぃつけろよ?」
「忠告、感謝します」
「そんな奴俺がっ」
「熱くなんな。ありがとう船長」
「いいって事よ! じゃ、また会おうぜー!」
そうして船長は船の方へ戻っていった。
「それでは行きましょう」
「おう!」
「ああ!」
【ようこそ観光都市”ルーゼルク”へ!】
ん?????
~~~~~~~~~~
「――さぁーさ、見ていきなぁ! リー、ルー、ローの大道芸が始まるぜぇ!!」
『リュアァァァ!!』
『ルァ!』
『ロォォォォ』
「まもなく水神様が題材の劇が始まりまーす! ぜひお越しになってくださーい!」
「ケイニ様に決まっているだろ!」「いーや、スウ様だ!」
「ルーゼルク名物、”バウルの唐揚げ”だよ! そこの兄ちゃん達! 食べていかないかい!」
「じゃあ4本頼む」
「毎度!」
「ふいふぁみはまってふぁみふぁふぁいひょな」
「ルイさん、何を言っているか分かりません」
「っん。水神様ってたぶん神じゃないよな。もしかしたら後に神になったのかもしれないけど」
「そうなのか? 水神様って確か絶滅寸前の人類に希望をもたらした存在だって聴いた気がするんだが」
「俺が思ってる人がその水神様だったとしたらそれは概ね間違ってないな。はい、ユキ」
『ありがと』
ミノア大陸唯一の街は観光都市だった。
街は活気に溢れ、街灯の数が多く、昼間と同じくらい明るい。
この光景だけ見るとここがシストルム大陸とは違い危険な魔物が多くいるなんて思えないが、かなり離れた場所にある200メートル程の城壁を見るとそんな感じはしなくなる。
「ルイさんがそう言うのでしたらそうなのかもしれませんね。なかなか不思議なものですが……」
「人が神になることなんて有り得んのか?」
「あー、この中だとアストが1番神に近いかもな」
「馬鹿の神様ってところですかね」
「あぁ゛!? それならお前は色欲の神だろうが!」
「なんですって!」
「やるか!?」
「臨むところぁ!?」
「あがっ」
「や、め、ろ」
久し振りに見たな2人の言い合い。
まあ船ではアストがダウンしてたから見る事が無かったんだろうけど。
「で、どうする?」
「ロイツさんの所へ行きましょう。ルイさんは知らないと思いますが、ロイツさんはこの都市の一応責任者って事になっています」
「一応……。それって俺もついて行っていいのか?」
「ええ、私達の仲間の執事という事にさせてもらいます」
「執事服だし間違いじゃあねえだろ」
「……」
アスト、基礎も分かってないけど一応俺は執事だからな?
仲裁→料理担当→執事だろ?
……違うか
~~~~~~~~~~
俺達はリレンの案内の下、都市の再奥、北門の近くに建っている屋敷に来ていた。
そして今はリレンとアストが門番の人と話している。
「――当家にどのようなご用事でしょうか」
「ロイツさんに会いに来ました。私はアーイスト王国公爵家リレン=ハイストです《表示-一部称号-観覧許可》」
「俺はアスト=アーイストだ《開け-一部称号-観覧許可》」
「――っ!? 拝見させて頂きました。ようこそ当家へお越しくださいました、ハイスト卿、アーイスト殿下」
この門番すごいな。こんな大陸に王国の重鎮が供も連れずに来たというのに少し目を見開くだけって。
「では行きますよ、アスト、ルイさん」
「あれ、俺は何も見せなくていいのか?」
「問題ねえって!」
門番の方を見ると頷き返してくれた。
「じゃあ失礼します……」
俺は断りを入れてから屋敷に入った。
「ロイツさんは何処にいますか?」
「この時間帯ですと裏庭にいらっしゃるかと。ご案内させていただきます」
「分かりました」
「あれ、門番の仕事はいいのですか?」
「私はなんとなくここに立っているだけですので。それに当家に無断で入り込む頭のねじが外れている者はおりません。ですので門も常に開けておいて問題ありません」
「……」
「こちらでございます」
「ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ――」
何あれ……
「それでは私はこれで」
「ご苦労様です」
門番の人が帰っていく。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ」
「おーい、ロイツさん!」
「ふんっ……おっ、アストか! それにリレンもいるな! ふんっ」
おぉぅ。
本日2度目の歩く筋肉がこちらに逆立ちで近付いてきた。
足の裏に石のブロックを乗せながら……
「お久しぶりです、ロイツさん」
「ふんっ、5年、ふんっ、ぶりか、ふんっ、大きく、ふんっ、なったな! ふんっ」
この逆立ちしながら腕立てをしている筋肉がロイツさんらしい。
話す時くらい止めようよ……筋肉と話してるみたいだから。
「ふんっ、供は、ふんっ、そこの、ふんっ、執事、ふんっ、と兎か、ふんっ」
「いえ、ルイさんは私達の仲間です」
「こんな格好でも強いんですよ!」
「アスト……。貴方、ルイさんの戦う姿は見たことないはずでしょう……」
「勘だ!」
「勘って……」
「ふんっ、確かに、ふんっ、俺を、ふんっ、警戒している、ふんっ、姿を見る限り、ふんっ、そんな感じは、ふんっ、するな! ふんっ」
アストが敬語!?
「おい、なんだその目は」
「いや、アストって敬語使えるんだなーって」
「お前の中の俺はどうなってんだ!?」
「ふんっ、仲が、ふんっ、いいようで、ふんっ、結構! ふんっ」
いや、冗談だよ。
というか言葉遣いも分からないような王族はなんだかなーって思うし。
それはさておき
「私はルイと言います。リレンとアストとはここに来る前にアーイスト王国の国内で仲間に加わらせていただきました」
「ふんっ、なるほど、ふんっ、な! ふんっ、俺は、ふんっ、元アーイスト王国、ふんっ、騎士団、ふんっ、総団長、ふんっ、ロイツ、ふんっ、だ! ふんっ」
「そうなのですか」
うーん、どうもすごい事のはずなのに全く驚けないのはこの人からも何処か変人オーラが漂うからだろうか。
「ふんっ、どうだ、ふんっ、久し振りに、ふんっ、稽古でも、ふんっ」
「おっ、いいですね」
「私達も無駄に5年間過ごしてきたわけではありません。今度こそは勝たせてもらいます」
「ふんっ、そうか! ふんっ、それなら、ふんっ、ルイとやらも、ふんっ、一緒で、ふんっ、構わないぞ、ふんっ」
……この人正気か?
いくらなんでも剣術がⅨになっているアストに3つの魔法がⅤを超えて水魔法に限ってはⅧ、それに俺も加えて戦うって出来るはずがないだろ。
それに筋肉を除いたら見た目は50代前半っぽいし体は衰えてきてるはずなんだよな。
そんな俺の懸念を知ってか知らずかロイツさんは乗せていたブロックを降ろし、そのまま屋敷に向かって歩き出した。
「今日は泊まっていけ、明日の早朝には稽古を始める」
「「はい!」」
2人ともやる気だなー。
まあ2人がいやる気だし明日は俺も頑張りますか。
「ユキは観戦な」
『うん、頑張って』
「ああ」
???「無視された...オレだって新入りと話したかったのになぁ...」




