零ー22 一刻間の災害
2
一瞬にして長い時間。
そして全ては治まる。
「――損害無し……か」
直前で現れた水壁のお陰で何とか切り抜けられたみたいだ。まあ誰がやってくれたかは分かりきってることだけど。
「ルイさん、危なかったですね。私もすぐに詠唱を始めておいて良かったです」
「リレン、助かった。俺も少し呆然としてた」
「問題ありません。それよりも今はイカーケンです。あの少しだけ紅く光っている右目が核なのであれを壊すなりなんなり出来れば良いのですが、私の魔法では距離が離れすぎていて防がれてしまいます、それを分かっててあの様に距離を離してるようですが……」
「じゃあ俺が行け大丈夫だろ?」
「方法はありますか?」
「勿論」
俺はセティさんの様に自由には飛べない。
それでも海の上を歩くくらいなら今の俺でも出来るはず。というか出来なきゃ困る。
「船員の方!」
「……」
「船員!」
「っ、あ、ああなんだ!?」
「貴方達は避難を、乗客も決して外に出さないで下さい。分かりましたね?」
「分かった!」
リレンがマッチョな船員に指示を飛ばしている中、俺は刀を垂らし力を抜く。
「じゃあ、援護頼んだぞ」
「ええ、任せてください」
そして俺は船から飛び降りた。
水の上なんて歩いた事ないから確証は無い。それでも、外に押し出す様な形で風を足に纏わせれば水と反発して浮けるはず!
「《風脚》っ!」
水面に着地――――成功!
そしてイカの化物に向かって走り出す。
「《風よ-それは我が身を守る盾となる-風壁・纏》」
強度はほとんど無く、矢を数センチずらすくらいしか出来ないけど何もしないよりはマシなので、風の衣を纏う。
俺の接近に気付いたイカはその巨大な触手を叩き付けてくる。それでも1本、ハエを叩き落とすような感覚なんだろう、あの化物イカは。
「おお、風壁も無駄じゃ無かったな……いや、なんか思ってたより強くなってないか?」
俺が左に避けた後に、化物が触手を叩きつけた事によって起きた水しぶき、と言うよりちょっとした津波は俺を避けて流れていくことに少しクビを捻りながらも次々に叩きつけてくる触手を避けながら、時には打ち返しながら進んでいく。
「触手だけでも200メートルは超えてるよなこれっ、 《打ち返せ-風打》っ!」
ハエから蜂くらいにランクアップしたのか今度は纏めて叩き付けてきたので、触手の1本を刀で弾き返す。そして津波が起きる前に触手の1本に跳び乗る。
「――ー気に行かせてもらう!」
触手の上に乗れば眼までは最早一本道、俺は出来る限りの速さで一気に駆け抜ける。
が、俺は失念していた。
イカなんだから声帯なんて無いだろうと思っていた。
しかしこいつはイカの魔物。普通のイカでは無い、それでも声帯があるなんて事を予想すら出来ていなかった。
まさかイカが甲高い、嫌悪感を催すあの嫌ないやーな人間誰しも聴きたいと思って聴くことは無いだろうあの音。
「うわっ!? やめろよその音ぉ!?」
俺は予想外、そしてあまりの音の大きさに痛みを感じない筈なのに思わず耳を塞いで立ち止まってしまった。いや、痛みを感じなくても体は反応してしまうものだ。
何せ黒板を爪で引っ掻いたような音だぞ?
しかし、そんな俺の気も知らないで化物が行動を起こす。
化物が頭を倒れるという名の叩き付けをしてきた。
「やっばぁ!?」
巨大すぎる頭は断ち切れ無……い訳ではないがそんな暇すらない。そして俺の風では打ち返すことが出来ない絶体絶命。
数秒後に俺は海に叩き落とされ締めあげられ死ぬ事だろう。触手プレイなんて高度なプレイはしないよな? ……な?
刻一刻と迫る死神が振り下ろす鎌を幻視してしまいそうになるそれは触手……。
「こんな死に嫌だぁぁぁぁ――」
「――っなーんて」
――――轟
倒れてきた頭に、後方から飛来した化物の幅と同じくらいの巨大な岩が当たり、その巨頭を跳ね返す。
そして岩が砕ける
「ナイス援護!」
俺は砕けた岩の欠片を足場として飛んでいく。
そして刀を仕舞い、代わりにロクス様に貰ったスティレットを取り出す。
「《起きよ雷-起きよ風-汝全てを貫く雷なり-汝全てを弾く突風なり――》」
イカの化物は今になって漸く自らの危機に気付いたのか、黒くなった触手を盾にするかのように自らの眼を覆った。
恐らくあれが腕とやらだろう。
それでもこの魔法にそんなもの関係無い
「《――汝は一刻の災害たる者-ならば見せよその力――》」
旅立つ寸前に完成した山をも穿つ風の魔法。
セティさんの魔法には到底及ばない。それでもこの化物には十分!
「《――全てを穿つ風よ-我が剣に宿れ-雷纏風牙》っ!!」
俺は8節詠唱により若干の倦怠感を感じながらも雷を纏い、風が守護する剣をそのまま化物に向かって刺突する。
そして、イカーケンが作り出した触手という盾も最早意味をなさず貫通し、剣が紅く発光する眼に当たると
――――パキンッ
――音を立て、砕け散った
「――ふぅ、少しだけ肝が冷えたけど、パーティの初陣としては良いものだったな……アストはいないけど」
巨大なイカは大きな波を立たせながら沈んでいく。
俺はそれを眺めながら、仲間がいると言うだけでこんなにも安心感のある戦いが出来るのだという事に、これなら試練も問題無く終わらせられると、この時はそう楽観的に考えていた。
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「――お疲れ様でした、ルイさん」
「ああ、リレンもな。良い援護だった」
「ありがとうございます」
俺達はイカの魔物を倒した後、そのまま部屋に戻っていた。
操縦席からも魔物が海に沈んでいったのが見えていただろうし、後に止まっていた運航も再開するだろう。
「それにしてもあの様な魔法を持っていたのですね。私はイカーケンの腕には強力な粘着力があることを伝え忘れていましたのでどうなることかと思いましたよ」
「1番重要だろうに……」
「終わりよければすべてよし、ですよ」
「うん? ……そうだな」
普通に斬ろうとしてたら間違いなく捕まって絞め殺されてたけどな。
話している間に部屋に辿り着いたので、扉を開くと目の前に白い塊が飛び込んできた。
『ご主人様っ!』
「んんっ……!?」
口を塞ぐな、口を!
俺は顔面にへばりついたユキを剥がし、腕の中におさめた。
『うぅぅぅ……』
魔力を渡す度に高性能になっていった念話からユキの泣きが混ざった声が聴こえてくる。
今回はイカの触手を叩きつけた時の音はかなり大きく、どれだけ脅威の魔物かが分かっていたんだろう。
確かにあのイカは俺が1人だったら勝てたかどうかは分からない、結果的勝てたのはリレンという仲間がいたからだ。
「ごめんな、ユキ。心配掛けて」
『う……う…………うわぁぁぁぁん!!』
神獣と言えど中身は普通の臆病な少女。
そんな彼女が泣いてしまったので、俺は落ち着くまで撫で続けるのだった。
「――ユキさんが何を言っているか分からないこちらとしては何がなんだか……」
「うぷっ……ルイ、回復を……」
あー、そうでしたね。はいはい。
このパーティーいつも最後が締まらなすぎるから……
残魔達『先を越された...だと...ッ!?』




