零ー21 違う、お前じゃない...
「オロロロロ…………」
「なあ」
「何でしょうか」
「アストが走って行こうとしたのってこういう事?」
「ええ、その通りです」
俺達は船に乗っていた。
クルーズ客船みたいな大きさの船だが、随分と黒く、武器が多く物々しいせいで、巨大な魔物に見えなくもない。
というか、魔物に襲われないようにこんな感じなのだとか。
そしてアストは乗り物にかなり弱いらしい。
「それにしてもよくこんな船に乗れたよな。……金無いのに」
「そうですね、お金は無いです。それでも王家として証明するものは持っていましたので、この国の王の所まで行き、お金はアストの家に請求するように言いましたので」
「だからさっき別行動したのか」
運賃は1人金貨50枚で3人で150枚だった。
ちなみに、ニーアスに来て、すぐに発ことになったのは、2人が日程を合わせて出て来たからだとか。
「驚くだろうな、アストの家の人達」
「まあミノア大陸行きの請求書が来たら私達がミノア大陸に行くのに気付きますからね。1人分多い事にも疑問に思うかもしれませんが」
「だな」
到着予定日は15日後。
それまではゆっくり出来ればいいんだけど……
「――そこの美しいお嬢さん、今夜ディーナーをご一緒にいかがですか?」
「え、えっ。えっと……」
「オロロロロ…………」
何故か本性を現し始めた色狂いと船酔い男をどうにかしなくては。
~~~~~~~~~~
船内の部屋に俺達は3人はいた。
「――今日で13日目……暇だな」
「そうですね」
「お前は女がいれば暇になる事なんてねえだろうが」
「まあ確かに色々なお嬢さん方が来てくださるので暇にはなりませんでしたね」
「どの口が言ってやがる……」
アストの船酔いはキュアで吐かない程度には軽減した。それでもリレンと喧嘩する元気は無かったようで、こちらとしてはかなり助かった。
そして1番困ったのがリレン。
ミノア大陸に行くこの船は金貨50枚という高額なので、必然的にこの船に乗っているのは位が高い人とかに限られる。もちろんそれ以外もいるけど。
それ故か綺麗な人が多い。
それがいけなかった。
綺麗な人を見つけ次第声をかけ、普段リレンが行かないように牽制していたアストはそんな事が出来る状態じゃなかったので、俺が連れ戻しに行くしかなかった。
そして船内にいる女の人の殆どに声をかけたので暇になった。それで今に至る。
「お前って……残念な貴公子だよな」
「残念イケメンという称号がついてるルイさんが言えることではないと思います」
「ぐっ……」
リレンは何もなければ普通にイケメンなんだよな。
リレンは金髪碧眼の爽やか系だ。
ちなみにアストは赤髪紅眼で全体的にワイルドなイケメンなので、かなり本人の性格と合っている気がする。
さすが公爵と王子、イケメンここにありけりって感じだ。
「残念なのはこの服装だろ? 分かってるよ、分かってるけど着てないと落ち着かないんだよ」
「ですが称号にまでつくのは流石に……ふ、ふふふ」
「笑うなよ!?」
まあなんだかんだで暇である。
『ご主人様、何か来るよ』
「ん? 何か来るのか」
「ユキさんが何か言ったのですか?」
「何か来るってさ」
「なるほど、では船長に伝えに行きますね。ルイさんは甲板で警戒をしておいてください。アストは……」
「置いてこう。《キュア》大丈夫だよな?」
「おう、問題ないぜ……」
元気はないけど顔色は大丈夫そうだしいっか。
「ではお願いします」
「ああ」
~~~~~~~~~~
「――荒れてきたな……」
俺はリレンと別れた後、船首の甲板に来ていた。
そして海を見てみるとだいぶ波が立って来ている。
ちなみにユキは置いてきた。
「おう、執事服のあんちゃん! 危ねーから部屋に戻ってなぁ!」
「いえ、この荒れは魔物のせいで起こってるものと思われます。ですので私はここで待たせてもらいます」
マッチョな船員さんが話しかけて来たので、取り敢えず無難に言葉を返す。
「あー、魔物のせいって言うなら厄介なあいつかもしれねーなぁ」
「あいつ? ――っとと」
俺がそう船員に聞き返すと、これまでとは違う一際大きな波が立った。
そして海から軽く東京タワーくらいはありそうな生物が現れる。
「あれは……クラーケン!?」
「違う! あれはイカーケンだ!」
「イカーケン!?」
そんな馬鹿な……ここは普通クラーケンが出てくる場面だろ……
まあよく見たらまんま巨大なイカ何だよな、あいつ。
でもイカーケンって初めて聞いたな。これも教えられなかった?
「ってか足多すぎだろ!?」
「知らなそうだから言っておくが、イカーケンは足が80本で腕は20本だ。腕は足より危ねぇから気ぃつけろよ」
「見分けつかないけどな!?」
そもそもイカに腕何て初めて聞いだぞ。
「ってやば、魔力溜めてるし。これ俺が
壁出しても焼け石に水だろこれ……」
あーあーあー、やばい早速死にかけてるよな?
「船員! 対策は!?」
「ありゃ無理だ、いつもの倍はでけぇからどうにも出来ねぇ。運が悪かったって潔く死ぬしかねぇかもなぁ」
「落ち着きすぎたから! ああ! もう無駄でもやるしかねえだろ! 《暴風よ-我らを守る盾となれ-風壁》っ!!」
俺の魔法が完成するのと同じくイカの魔物が巨大な津波を引き起こす。だがそれは、到底俺の魔法では防ぎ切れないほどの魔力が込められていた。
「あ、無理だこれ……」
敗因は俺がイカの魔物を視認した瞬間に詠唱を始めなかった事。
そんな意味の無い事を考えながら俺は目の前に広がる災害を見つめていた。
そして――
「《――我等を守護せよ-水壁》」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、俺の目の前に巨大な水壁がせり上がった。
水と水がぶつかり合ったとは思えない程の轟音が鳴る。
ぶつかり合ったのは一瞬、それでも俺にはとても長い時間に感じた。
目は閉じていませんよ?
閉じたらグハッですからね。




