零ー11 青年の過去と嘘
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「斎條さん。貴方のご両親はお亡くなりになりになられました……」
「え……」
とある病室に一人の少年と医師、看護師がいた。
少年は目覚めると医師から自らの両親が死んだ事を伝えられる。
少年は何を思ったか
――――それは両親がいなくなった悲しみか
――――それは自らを置いて行った両親への怒りか
――――それは両親を失った事による空虚感か
はたまたそれ以外か――
少年は虚空を見詰める
その虚ろな眼に映っているのは果たして何なのか……
そして、その日から少年は涙を流さなくなっていった――――
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「動物さん達可愛かったね!」
「そうね~」
「おっ、そうかそうか! じゃあ来週は遊園地に行こう!」
「パパほんと!? やったー!」
「――家族……」
夕暮れ時、動物園の一角に一人の青年、斎條流光 がいた。
他に誰かがいる訳では無い。ただ、彼はよく一人色々な所に行っている。
目的は特に無く、だ。本能のままに流されている。
そして彼の目の前には、檻に入れられたライオンがいた。
「お前も独りなのか?」
「……グルゥ」
「そうか、俺も独りだ。ほんと世界は残酷だよな……」
「……」
彼はライオンに話し掛ける。
別に言葉が通じてる訳では無い。
それでも一人と一匹、どこか通じるものがあったのかもしれない。
「これから俺はどうなるんだろうな――」
そう独り青年が物思いにふけていると
「あ! 斎條くーん!」
1人の少女がこちらに向かって走ってきていた。
少女の名は涼風香澄。
肩まで伸びた黒髪、ぱっちりと開いた黒目に小柄なルックス。そして誰にでも人当たりがいい事もあり、男女共に人気。さらに美少女という訳もあり、毎日のように男子からラブレターを貰ってはいるが『私、好きな人がいるから』とにべも無く断り、今まで誰とも付き合ったことは無い。
そんな彼女が青年の前に来た。
「涼風か、何かあった?」
そう青年が問うと少女は頬を膨らませ拗ねたように言う。
「もぉ、用事がなかったら話しかけちゃいけないの? 斎條くん」
「いや、そんな事は無いけど」
「そっか! それで斎條くんは何をしてたの?」
「動物を観てたけど」
「んー? ライオンが好きなの?」
「そういう訳じゃない。ただ観てただけ」
青年と少女は話に花を咲かす。とは言っても話しているほとんどは少女な気もするが。
「斎條くん。これから暇?」
「まあこれからやる事は特に無いしな」
「じゃあ付いてきて! 一緒に行きたい所があるのっ」
「腕を引っ張らなくてもちゃんと行くって……」
少女は青年の言葉を無視して、腕を引っ張りながら目的地へ向かう。
ただ、少女の顔にはほんのりと赤みが帯びていたのだった――
「ふれあい広場?」
「うん! この前出来たばかりなんだよ? さ、行こ!」
「ああ」
青年は少女に連れられて小動物を触ったり抱っこ出来る、ふれあい広場に来ていた。
「うわぁぁ、可愛い子達がいっぱいいるね~」
「結構いるもんだな」
「そうだね~。あっ! うさぎさん抱っこ出来るんだって! 飼育員さーん!」
「はーいっ! うさぎさんの抱っこ体験ですね~。ではまず持ち方ですねー。前足と後ろ足を――」
「斎條くん! 私、うさぎさん抱っこしてるよ! 見て見て!」
「ああ、見てる。見てるから落ち着け」
「写真撮って!」
「はぁ、りょーかい。――いくぞー。はい、チーズ」
「いぇい!」
「っ……」
『るい! ほら、うさぎさんだぞ! 写真撮ろう、写真!』
『えー、お父さんが自分で撮ればいいじゃん』
『こんなおっさんとうさぎのツーショットって誰得だよ……。ほら! るいもうさぎさん持って!』
『分かったよ。――これでいい?』
『よーし! いいぞ! じゃあ撮るなー。はい!チーズ!』
『ん……』
『ちょっと肩苦しいがいいか! じゃあ次は――――』
「――條くん? 斎條くんってば!」
「……ん? あ、ああ、悪い。ぼうっとしてた」
「んもぉ、気おつけてよね! 急に動かなくなったからからびっくりしちゃったじゃん!」
「ごめん」
「……まあいいか。斎條くん! 次はお馬さんのとこ行こ!」
「わかった、わかったからそんな急かさなくていいから……」
青年と少女は、動物園の閉園時間まで色々な動物見て、触り、抱っこしていたのだった――
「――楽しかったね!」
「そうだな」
「うん! 特にライオンの赤ちゃんを抱っこ出来たのは運が良かったよね!」
日が落ち、辺りの街灯が、帰路に就いている2人を照らす。
「……」
「……」
暫くの沈黙、そして少女が口を開く
「……ねぇ、斎條くん」
「なんだ?」
「えっとね……。答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど――
――――いつも斎條くんは何を見ているの?」
「何を、か」
「うん。えっとね、斎條くんって時折とても悲しそうな顔をするよね」
「……してたか」
「うん、してた。今日最初に会った時もそう、ライオンを観ながら別の何かを見てた。うさぎの写真を撮ってもらった時も斎條くんはぼうっとしてたって言ってたけど、目がとても悲しそうだった」
「……」
「それに学校でだって、みんなで遊んでる時だって偶にする。みんなは気付いてないみたいだけど私は知ってるよ」
「……だからなんだっていうんだよっ」
「知りたい…………知りたいの! どうして悲しい目をするの!? どうしていつも何か達観した感じなの!? どうして誰にも相談しようとしないの!?」
少女は髪を乱しながら声を荒げ、顔を赤くし、いつしか目に涙を溜め始めていた。
だが青年は……
「っ! だからなんだって言うんだ! そんな事お前に関係無いだろ!!」
「っ……そうだね、確かに私は斎條くんにとっては何も関係ないのかもしれないね……。でもっ!知りたいの! 少しでも斎條くんの力になってあげたい! 少しでも斎條くんのその悲しみを取り除いてあげたい! だから! だから! だから……私を……頼って……?」
「……同情か? こんな哀れな俺への」
「違うよ!」
「っじゃあなんなんだよ! 赤の他人に自分を頼ってってか!? そんなの同情かただの偽善じゃねえか!」
「違うの! 私は! 私が! 私が思ってることは、同情? 偽善? 違う! ただ、ただ私は斎條くんのことがっ!!!」
「っ……ごめんなさい。私、頭に血が上っちゃって。ごめんね? 私もう帰るから。今日はありがとね? ばいばい……」
少女は顔を伏せながら先に帰ろうとする――
「なあ」
「……なに」
「ちょっと話に付き合ってくれないか」
「……」
「ここじゃ何だからそこの公園で」
「……ん」
青年は少女呼び止める。
そして公園のベンチに座った2人。
物音ひとつ聴こえない。街灯が二人を照らす中、しばし無言で時が流れたが、やがて青年の方から話し出す。
「……さっきは赤の他人とか言ってごめん。ちょっと錯乱してた」
「う、ううん。私の方こそごめんね、斎條くんの心にずかずかと踏み入れちゃって……」
「いや、別に……」
再び二人の間に沈黙が訪れる。
ただ先程とは違い、その沈黙はそう悪いものではなかった。
「――俺の親が亡くなったのは知ってるか?」
「うん、確か土砂崩れにまきこまれたんだっけ」
「ああ、その時に父さん母さん、二人とも、な。……そして俺だけは助かった。土砂に流され、崖から落ちたにも関わらず生存していた俺は奇跡以外の何物でも無かったみたいだ」
「そう、だったんだ……」
「でもそんな奇跡が奇跡だけで終わるなんてただの夢物語だ」
「……」
青年は再び沈黙。
そんな青年を見て少女はとても嫌な予感がし、胸の動悸が激しくなっていった。
「奇跡は奇跡では終わらない。俺に起こらなかったもうひとつの奇跡というのが――
過度の精神ストレスによって記憶のほとんどが欠落した事だった……」
「だからっ……」
「だから?」
「あ……ううん、なんでもないよ。ほとんどっていうとどれくらい?」
「対人関係の全て。家族、親戚、友人との記憶はまず無い」
「そうだったんだ……」
そういうと少女は目を伏せる。
その心に思うは一体何なのか。
「俺は親戚に引き取られる事になった。でも俺は親戚の事なんかも忘れている。そんな知らない人の家にいるのは耐えられなかった……」
「だから俺は親が遺してくれていたお金を使ってひとり暮らしを始めた」
「……」
「学校も転校してそれで気持ちは少し楽になったんだと思う」
少女はここで疑問に思っていた事を聞く。
「――斎條くんはどうしてその服を着始めたの?」
それは青年の服装。
それは誰もがもつ一種の謎だった。
「ん? ああ、この執事服か。多分俺は親との繋がりを少しでも持ちたかったんだと思う」
「繋がり?」
「そう、繋がり。――俺は引っ越す前に家の中を整理してた。そしたら俺のアルバムが見つかったんだ」
「アルバムの中には色々な写真が貼ってあった……。俺が産まれた時、俺を抱っこした父さんが俺に泣かれて慌ててる時、家族3人で遊園地に行って笑い合っている時。色々な時の写真があった」
そこまで言うと、それまで何処か悲しそうに話していた青年は何処か困った表情になり、続きを話し出した。
「そしてな、その中で一番多かった写真が……コスプレ写真なんだよ」
「……え?」
「父さんも母さんも俺にコスプレをさせてたんだよ……」
「……」
「その中でも一番着てる回数が多かったのがこれでな。家を整理してたら色んなサイズのこれがあったんだよ」
そう話す青年には何処か哀愁を感じる。
少女はどう反応すればいいか分からず、言葉に詰まってしまう。
「たぶん、俺は少しでも繋がりを持ちたかったんだろうな。それから俺はこれをずっと着ていた……」
少女は思った
『それって思春期を拗らせただけじゃないの!?』
と
青年の話は続く。
「――着ていたというより、何故か使命みたいなものを感じるんだが……」
「そ、そうなんだ……」
青年は知らない
青年の両親が極度のオタクであった事を。
青年の両親が男の子が産まれたら執事に、女の子が産まれたらメイドにしようと調きょ……いい所を沢山教えて執事になったもらおうとしていた事を。
そして既にそれは青年の深層心理に行き届いてしまったという事を。
それは青年が記憶を無くしてもなお深層心理からは消え去っていなかった事を。
そしてそれを青年が知るのは青年が完全に執事に染まってしまった頃だった――。
「じゃあ時折悲しそうな顔をするのは?」
「それは家族を見ると少し胸が痛むだけでそこまでじゃあない、だから顔に出ていたことにちょっと驚いた。みんなといる時は……何なんだろうな? もしかしたら執事として仕える者がいないことに対しての悲しみなのかもな、ははっ」
その事は青年本人すら分かっていない。
それでも青年は自分を心配そうに見る少女を不安にさせないよう能天気に笑う。
そして少女は顔を伏せ肩を震わせ始める。
「ふふ……ふふふ、あはははは! やっぱり! やっぱりるーくんだ! 記憶が無くなっちゃっても変わらないんだね!」
「は、え? ど、どうした涼風、急に笑いだしたりして。というかるーくんとは?」
「ふふふ、なーいしょっ。あと私は香澄だよ、かーすーみっ」
少女の言葉に青年は首を傾げる。
「だーかーらー! 斎條くんのことを私は流光くんって呼びます。そしたら流光くんは私のことを香澄って呼ぶのっ」
「はぁ、分かった」
「じゃあプリーズコールミー。か、す、み!」
「香澄」
「おーけーおーけー! あははっ」
少女は笑う。
まるで大事な物が戻ってきたかのように、朗らかに。
「じゃあ帰ろ、ねっ?」
「ああ、そうだな。暗いし家まで送るよ」
「そう? ありがとっ」
二人は再び帰路に就く。
青年は思う
何故少女に自分の事を話したのか
何故少女とこうしていると懐かしく思うのか
そして青年は気付かない
隣を歩く少女が両親の次に青年の事をよく知っているということを
隣を歩く少女が青年の嘘にも気付いているということを
「――また一緒に遊ぼうね、流光くん!」
「――ああ、また機会があればな、香澄」
そう言葉を交わした次の日、青年はこの世界から姿を消したのだった――――
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「……ってて。ここは……ああ、家の中か」
やばい、身体痛い。
「はぁ、何だよこの筋肉痛。痛みのわりに全く動けないんだが……」
『――ご主人様、大丈夫? 何ともない? 怖くない?』
「問題ない、強いて言えば身体が少し痛くて動かない」
全身が鉛のように重い。身体強化をしようとしても魔力も動かない。
もしかして八方塞がり?
『――そっか。良かった……』
「ユキが話せるっていうことはセティさんもいるのか?」
『――ううん。私が話せるのは、一時的にセティ様から加護を受けてるから。ご主人様が起きたら連絡して欲しいからって』
「なるほど」
連絡が出来るとは加護って便利だな。
でも、そうか。セティさんがいないなら暫くはこの状態か。
「ユキ、頼む。セティさんになるべく早く来て欲しいって伝えてくれ。……腹減った」
『――分かった』
身体が痛いし動かない、腹も減っているしで人生最悪の寝起きだ……
セティさん、お願いだから早く来てくれ!
今作ではもう香澄は出ませんねぇ。
ただ彼女、ちょっと特殊な人物なので設定はしっかり練りたいですね。




