廃村と面影
ひとまず村に入ってみることにした。
アリシアは乗り気じゃなかったが何か残ってるかもしれない。
「酷い有様ですね」
「そう…ですね」
「どうしました?」
「何でもありません」
さっきから様子がおかしい、聞くのもありだがこれから長い旅が始まるのに険悪にはなりたくない。
様子を見よう。
しばらく探索すると、一軒の家が目に入った。
他の家と比べて、比較的原型を留めている。
「アリシアさん、あそこはどうですか?」
「……そうですね。何か残っているかもしれません」
やはり反応が鈍い。
家の中に入ると、家具らしきものが散乱していた。
床には割れた食器、壁には大きな亀裂が入っている。
「うわぁ……」
「気をつけてください。崩れる可能性があります」
「分かりました」
一通り部屋を調べてみる。
食料は当然残っていない。使えそうな道具もほとんどなかった。
そんな中、部屋の隅に小さな箱が置かれていた。
「アリシアさん、これ開けてもいいですか?」
「好きにしてください」
箱を開けると、中には古びた布と小さな装飾品が入っていた。
「何でしょう、これ」
「……!」
アリシアが突然箱を覗き込んできた。
「それは……」
「知ってるんですか?」
「いえ……何でもありません」
そう言ってアリシアは箱から目を逸らした。
やっぱり何かある。
「アリシアさん」
「何ですか?」
「ここ、来たことあります?」
「……ありません」
返事が少し遅かった。
「そうですか」
今は聞かないでおこう。
そう思って箱を閉じようとしたときだった。
「それ、持っていきましょう」
「え?」
「何かに使えるかもしれません」
「でも、ただの装飾品ですよ?」
「構いません」
そう言ってアリシアは箱を受け取った。
その手は、ほんの少し震えていた。
箱の中身を思い出す、タオルらしき布と何かの首飾りだった。
首飾りの形は謎だった。
それから二手に分かれて探索した、効率は二倍だし危なそうだが大丈夫だろう。
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昼まで村の隅々まで探索した。
「そろそろお昼ですね」
「そうですね」
「またあれを食べることになりますが」
「…はい」
「では、食事にしましょうか」
「そうですね……」
正直、あれをもう一度食べるくらいなら空腹を我慢したい。
しかし、そうも言っていられない。
「アリシアさん、他に食べられるものはないんですか?」
「ありませんね」
「即答ですか」
「この辺りは食料が少ないですから」
「もう少しマシなものは……」
「ありません」
「……はい」
仕方なく昨日と同じサソリの魔物を探すことになった。
幸い、少し歩いたところで一匹見つかった。
「いましたね」
「いましたね……」
「では、お願いします」
「えっ、私ですか?」
「私は昨日調理しましたから」
そんな理不尽な。
仕方なく魔術で仕留め、火を起こして焼く。
ジュウジュウと音を立てながら、甲殻が赤く変色していく。
匂いだけなら美味しそうだ。
匂いだけなら。
「できましたよ」
「ありがとうございます」
二人で手を合わせる。
「いただきます」
一口。
……やっぱり不味い。
「アリシアさん」
「何ですか?」
「帰ったら美味しいもの食べましょうね」
「そうですね」
「絶対ですよ」
「分かっています」
そんな会話をしながら、何とか昼食を終えた。
食事の後、少し休憩することにした。
私は周囲を見渡す。
崩れた家、割れた窓、荒れた道。
ここにはかつて人が住んでいた。
それなのに、今は誰もいない。
「……アリシアさん」
「何ですか?」
「この村、いつ頃滅んだんでしょうね」
「……かなり昔でしょうね」
「そうですか」
「ええ」
アリシアさんは村の奥を見つめていた。
その横顔は、いつもよりずっと寂しそうだった。
少し進んだ所に遺跡があるようだ、気になる。
「僕は遺跡を見てきますね」
「あっだめです」
「え?」
「あの遺跡は危険なので、何があるか分かりません」
なんでそんなこと知ってるんだ?さっきからおかしいしちょっと探るか。
「ずいぶん詳しいんですね」
「…本に載ってたので」
「そうですか」
本当にそうだろうか。
いや、今は追及しないでおこう。
「でも、せっかく近くまで来たんですし、少しだけ見てみたいです」
「だめです」
「入り口だけですよ?」
「それもだめです」
頑なだな。
「アリシアさん、何か隠してません?」
「隠していません」
「本当に?」
「本当です」
……怪しい。
アリシアさんは視線を逸らした。
普段ならこんなことはない。
「分かりました。今回はやめておきます」
「……ありがとうございます」
なんだか、ほっとしたような声だった。
それにしても、あの遺跡には何があるんだろうか。
少なくとも、ただ危険なだけの場所ではなさそうだ。
この村も行くところがなくなったとアリシアが言っていた。
「そろそろ移動しましょう、早い方がいい」
「そうですね、でも遺跡は…」
「フーラ、あなたは遺跡でその目になったんですよね?少しは警戒すべきでは」
それを言われると何も言えなくなる。
「行きますか…」
「そうしましょう」
こうして村を出た、方角はアリシアにお任せだ。
「こっちに一週間ほど行ったところに町があります」
「そこにはちゃんとご飯ありますよね」
「あります」
「行きましょう」
食事の問題が解決するなら文句はない。
一週間くらいなら頑張れる。
「ちなみに、どんな町なんですか?」
「そこそこ大きな町ですよ。商人も多いですし、宿もあります」
「宿!」
「……野宿は嫌ですか?」
「嫌です」
「でしょうね」
即答してしまった。
だって、ここ数日はまともな寝床もないのだ。
柔らかいベッドと温かい食事。それだけで十分幸せになれる気がする。
「では、急ぎましょうか」
「はい!」
そうして私たちは町を目指して歩き始めた。
ただ、一つ気になることがある。
アリシアさんは、あの村を出てから一度も振り返らなかった。
まるで、二度と戻るつもりがないかのように。




