師の本領
村を出た、ここから一週間ほど進んだ所を目指してまた冒険だ。
「この先は少し魔物が増えますよ」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です、増えるとはいえそこまで強くないので」
そう言われても少し不安だ。
しばらく荒野を進んでいると、前方の岩陰から何かが動く気配がした。
「止まってください」
「え?」
アリシアが手を上げて制止する。
岩陰から、小さな獣のような魔物が姿を現した。
「ロックウルフですね。荒野ではよく見かける魔物です」
「強いんですか?」
「普通なら、それほどでもありません」
その言葉を聞いて、少しだけ安心する。
しかし、ロックウルフがこちらへ向かって駆け出した瞬間、地面が大きく抉れた。
「えっ!?」
思っていたよりも速い。
咄嗟に横へ飛び退いた。
「フーラ、落ち着いてください!」
アリシアの声が聞こえる。
彼女は魔術でロックウルフの動きを止めると、じっとその姿を見つめた。
「……おかしいですね」
「何がおかしいんですか?」
「この辺りの魔物は、こんなに魔力を持っていなかったはずです」
アリシアはロックウルフの体に目を向ける。
その毛並みの一部には、黒い筋のようなものが浮かんでいた。
「アリシアさん?」
「……いえ、何でもありません」
一瞬だけ、彼女の表情が曇った。
「フーラ、少し予定を変更しましょう。ここではあまり長居しない方がよさそうです」
「でも、まだ魔物が……」
「大丈夫です。私が対処します」
そう言って、アリシアは魔物たちへ視線を戻した。
あの黒い筋はなんだ?呪いみたいに見える。
「アリシアさん、あの黒い筋は何ですか」
「…後で話します」
アリシアは短く答えると、魔物へ視線を戻した。
その表情はいつもと違っていた。
何かを恐れているようにも、懐かしんでいるようにも見える。
「今は目の前の魔物に集中してください」
「分かりました」
そう言われて、私は再び魔物へ向き直る。
しかし、気になって仕方がない。
あの黒い筋。
以前、村で見つけた遺跡のこと。
そして、遺跡の話になったときのアリシアさんの様子。
何か関係があるのだろうか。
考えている間にも、魔物はじりじりと距離を詰めてくる。
「フーラ、来ますよ!」
「はい!」
今は考えている場合じゃない。
アリシアは詠唱をして地面に手を向け、土魔術を発動させた。
地面から土のトゲが生えてロックウルフに刺さった
でもそのトゲを気にすることなく突っ込んでくる。
「フーラ下がって!」
アリシアの声が響いた。
反射的に後ろへ飛び退く。
直後、目の前をロックウルフが通り過ぎた。
「危なかったですね」
「い、今のはさすがにびっくりしました……」
アリシアはロックウルフを見つめていた。
その視線は、傷ではなく体に浮かぶ黒い筋へ向けられている。
「やっぱり……」
小さくつぶやいた声は、フーラには聞こえなかった。
「アリシアさん、あれは一体……」
「今は説明している時間がありません。フーラ、私の後ろに」
アリシアが一歩前へ出る。
「離れてください、高威力の魔術で消し飛ばします」
アリシアは杖を高く掲げた
「フーラ、時間を稼げますよね」
「はい!」
水魔術を発動した、無詠唱魔術はかなり上達したおかげですぐに発動できた。
放たれたウォーターボールはロックウルフに当たったがやはり効果が薄い。
水しぶきがロックウルフの体を覆う。
しかし、ロックウルフは怯むことなく、こちらへ突っ込んできた。
「やっぱり効かないか!」
慌てて横に飛び退く。
地面を揺らしながら、ロックウルフが通り過ぎていった。
その巨体を見て、思わず息を呑む。
攻撃が通じないなら、できることは一つ。
アリシアさんが魔術を完成させるまで、何としても時間を稼ぐ。
こうなったら魔術を当てて逃げるを繰り返すしかない
「あとどれくらいですか?!」
聞いたは良いものの詠唱中だった…
返事がないのは当然だ。
「ですよね!」
ロックウルフが再びこちらへ向かってくる。
すぐさまウォーターボールを放つ。
しかし、やはり大したダメージにはならない。
それでも一瞬だけ動きを鈍らせることはできた。
その隙に横へ飛び退く。
「くっ……!」
近い。
さっきよりも距離が縮まっている。
このままでは時間を稼ぐどころか、先にこちらが限界を迎えてしまう。
ロックウルフが再び突っ込んでくる。
ウォーターボールを放ち、すぐに横へ飛び退いた。
しかし、ロックウルフの動きが予想よりも速い。
「えっ――」
避けきれなかった。
直後、強烈な衝撃が体を襲う。
「がっ……!」
地面を転がり、背中を岩に打ちつけた。
痛い。
右腕がうまく動かない。
「フーラ!」
アリシアの声が聞こえた。
「大丈夫です……!」
そう答えたものの、全然大丈夫ではなかった。
ロックウルフはこちらを見据え、再び体勢を低くする。
まだ来るのか。
立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「フーラ!全力で下がって!」
その合図を聞いた瞬間足元に風魔術を発動させて体ごと後ろに飛ばした。
「グランド・インパクト!」




