Clean up her room!!
言葉がいなくなってしまった。誰にも何も言わず、本当に突然。
どうやら彼女は何者かに連れ去られてしまったようで、もちろん僕は彼女を探しに明け星学園を出た。
本物の魔法使いである春松くん、実幸さん、生徒会会計兼書記である千馬さんの3人を引き連れ、僕は言葉の捜索に乗り出したわけだが……。
「ここが私のお家です!!!!」
「なんで僕、貴方の家に来ないといけないんですか」
まず来たのは、実幸さんの家、というか部屋だった。部屋の真ん中でドヤ顔をする実幸さん、呆れる僕と千馬さん。
一応部屋の中を見回すが、とても乱雑としている。ベッドの上で乱れるシーツ、脱ぎ捨てられたパジャマ。床に積み上げられた5巻だけ抜けている全10冊の漫画、脱ぎ捨てられたワイシャツ、「しょうがくいちねんせい さんすう」と表紙に書かれている教科書。挙げたらキリがない。カオスだ。
「生徒会室もだいぶ散らかってますけど、ここはそこ以上ですね……」
横で千馬さんがそう呟く。いや、あれは書類整理するためにひっくり返しているだけで、別に散らかしているわけじゃ……と、それは言い訳か。
「ふふん、自分で言うのもあれですが、片付けが苦手です」
「ドヤ顔で言うことじゃないと思うんですけど」
「これでもどこに何があるか、ちゃんと分かってるんですよ~!! 片付けが苦手なりに、居場所の把握はしているんです!!」
「片付いてないんじゃ意味なくないですか?」
「ふふ、言葉ちゃんにも同じこと言われます」
実幸さんの言葉に、僕は動きを止める。実幸さんは微笑みながら続けた。
「でも言葉ちゃんもああ見えて、片付けとか苦手なんですよね」
「……知ってます。外ではちゃんと出来るけど、自分の領域になると難しいって」
言葉が明け星学園に住むようになってから知った。使用していない空き教室を彼女の住まいにしているけれど、彼女の物をそこに運んで住み始めると、段々と乱雑に物を置くようになって。生徒会室はあんなに整然としていたのに。
だから聞くと、そういう風に教えてもらった。前まで住んでいた家の中も、似たような感じだったのだと。
「灯子ちゃんはどうですか?」
「僕ですか? ……そもそも自分のものが少ないので、あまり片付けに困ったことはありませんね」
「生徒会室はあんななのに?」
「……あそこは僕だけの空間じゃないので」
千馬さんに茶々を入れられたが、僕はそう答える。むしろ僕は、自分のものじゃないものを整理するのが苦手なのかもしれない。
「茜さんはどうですか? 片付けは苦手ですか?」
「えっ、えぇっ、茜ですか!? ……ぁあ、茜は……そのぉ……あんまり、片付けは得意じゃなくて……」
「……人のこと言えないじゃないですか」
「うぐっ」
生徒会室のことをボロクソ言っていた割には、千馬さん自身も片付けは特に得意ではないらしい。気まずそうな千馬さんに思わずツッコむと、彼女は声をあげて肩を震わせた。
「あははっ!! じゃあ言葉ちゃんと茜さんと私は、結構似てるってことですかね!!」
「に、似てなんてません!!!!」
実幸さんが大きな声をあげてそう笑うと、千馬さんは慌てたようにそう訂正してくる。片付けが苦手組に入れられるのが、よっぽど嫌らしい。
「懐かしいなぁ。言葉ちゃん、昔はよく部屋まで遊びに来てくれて、その時はまず部屋の片付けからスタートだったんですよね。ほら私、こういう風に物とかすぐ床に置いちゃいますから!!」
「いや、置いちゃいますからってドヤ顔されても」
「どうやったらこんなに汚くなるの~とか、なんで全部床に置いちゃうかなぁってブツブツ言いながら一緒に片付けてくれて」
「自分のこと棚に上げて……」
「あはは、でも言葉ちゃんは私と違って、人を呼ぶときはちゃんと片付けてくれましたから」
優しいんですよね、と実幸さんは呟く。そう言う実幸さんは、微笑んでいた。
「厳しい言い方とかが多いですけど、本当に優しいんです。あの人は」
「……はい、知ってます」
あの一件以降、言葉は感情が抜けたようになってしまった。基本的には、無表情で淡々と喋る。もちろん、たまに物凄く感情を露わにして取り乱すこともあるけれど。
初対面の彼女とは大違いだ。
でも、と思う。やっぱり彼女は変わっていない。喋り方や表情が変わってしまっても、根本的な優しさは変わらない。一緒に過ごしていて、そう思う。
「それなら良かったです!!」
僕の返答に、実幸さんは心底嬉しそうに笑う。……そして何故か、僕の手を両手で包み込んだ。僕が戸惑っていると、実幸さんは言葉を続ける。
「ねぇ灯子ちゃん、言葉ちゃんと出会ってくれて、言葉ちゃんを理解してくれてありがとう」
「……え」
「私には、無理だったから」
彼女は短くそれだけ告げる。相変わらずこの人は、突拍子もない。
頭の中でその言葉を咀嚼し、どう返すか悩んでいると、実幸さんは僕の手を握る力を強くする。今度はなんだ、と思っていると、彼女は瞳を潤ませて。
「……そんな優しい灯子ちゃん!! どうか部屋の片付けを手伝ってください……!!!!」
「あ、帰りますね。……ちょ、手の力つよっ。離してくださ……ああもう分かりましたよ、手伝いますよ……」
こういう時は、素直に手伝わないと事が進まないと相場が決まっている。僕が仕方なく頷くと、女神!!!! と実幸さんは大きな声で叫んだ。本当に勘弁してほしい……。
「……千馬さん、やりますよ」
「えぇっ!? 茜もですか!?」
そしてそんなやり取りの傍ら、空気になっていた千馬さんに僕はそう声を掛ける。千馬さんは悲鳴にも似た声をあげるのだった。




