早速の新メンバー
千馬茜。この春明け星学園に入学してきて、僕が生徒会会計兼書記に任命した新1年生である。コーラルピンクの髪を耳の横くらいの高さでツインテールにしており、黒とピンクを基調としたフリルの服を身に着けていることが多い。そして彼女の一番の特徴は、肌身離さずテディベアのぬいぐるみを持ち歩いていることだろう。
……と、彼女の説明はこれくらいにして。
『千馬お前!!!! 何かあったんじゃないかって思った俺の心配を返せ!!!! で!? なんで伊勢美のとこいんだよ!!!!』
「ひぇぇぇぇ」
僕はスマホを持っていない方の手で、片耳だけ塞ぐ。あまり意味はないかもしれないが、まあやらないよりマシだろう。
僕が千馬さんを見つけたと同時、墓前先輩から連絡が来たのだ。『仕事をしていたはずの千馬がいなくなった。小鳥遊さんのこともあるし心配なんだが、どこに行ったか心当たりはないか?』という具合に。
そして僕が『目の前にいますけど』と返したところ、電話がかかってきてこれである。
『まあそういう話は戻って来てからでいいか。とにかく!! 早く帰ってこい、仕事はたっぷり溜まってるんだぞ!!』
「ひぇ、ぇ、えーっと、そのぉ……」
墓前先輩の怒号に気圧されつつも、千馬さんは何かを言いたがっている様子だった。テディベアをぎゅーっと強く抱きしめている。
「……仕事があるから帰りたくないのでは?」
『だったら俺だって帰りたいが?』
「……いつもすみません」
一応生徒会長なので、責任は感じる。仕事が多いの自体は僕のせいではないが、人員が少ないのは僕のせいなので。
「あ、茜は、その……帰りたくないです」
すると千馬さんが絞り出すような声でそう告げる。だけど墓前先輩にはちゃんと聞こえたらしく、なんで、と不機嫌そうな声で聞き返した。
「そ、そのぉ……小鳥遊言葉、が……」
「……言葉が?」
その名前が出てきたことで、思わず僕も聞き返してしまう。千馬さんは今日一番の肩の震わせを見せると、捲し立てるように続けた。
「そっ、そのっ!! 心配で!!!!」
僕は思わず目を見開く。心配、まさか彼女からそんな単語が出てくるなんて、思っていなかった。
だって千馬さん……僕が言葉を探しに仕事を抜ける時、いつもすごい顔してたから……。僕にも、言葉にも、あまりいい印象を抱いているとは思えなかった。
……いつも2人に迷惑をかけているのは、本当に、申し訳ないです。はい。
「だから茜も、ぇー、何か役に立てないかなと思って!! 会長さんも、ほら、いつも大変そうだし、会長さんが小鳥遊言葉を見つけてとっとと帰って来てくれたらその分仕事も早く片付くし、一石二鳥かな、と……」
その勢いのまま捲し立てていた千馬さんだったが、後半にいくに連れて自信を無くしたように声を小さくしていく。……その場に残ったのは、静寂だった。
どうしよう、何か言った方がいいのだろうか、と思っていると……電話の向こう側の墓前先輩が、深々とため息を吐く声が聞こえた。
『……伊勢美はどうなんだ』
「え、僕ですか? 僕は別に、どっちでもいいですけど……」
居ても居なくてもあまり変わらない気がする、というのが正直な感想だ。メインで頑張るのは僕なのは変わらないわけだし、役に立ちたいと言うのなら利用するまでだ。これは千馬さんだけじゃなくて、春松くんと実幸さんにも同様のことが言える。
たったそれだけの話。だから別にどっちでもいい。
『……は~~~~分かった、しばらく1人でどうにか頑張る。その代わり早く帰って来いよ、2人とも』
じゃ、と墓前先輩は投げやりにそう言い終わると、電話を切る。再びこの場に静寂が訪れた。
「……許可が出て良かったですね」
「か、会長さん、本当に、邪魔じゃないですか……?」
「邪魔だと思ったら帰しますから、ご心配なく」
「ひぇ……」
「あはは、灯子ちゃんは容赦ないですね!!」
千馬さんとそんなやり取りをしていると、空気だった実幸さんが声をあげる。僕は何気なくそちらを見て……思わず目を見開いた。
実幸さんが千馬さんを、見つめていたから。
いや、見ているのは別にいいんだけど……何て言うべきか。値踏みするみたいというか、そんな風に冷たく見つめていたから。
「……実幸さん?」
「なんですか?」
僕が名前を呼ぶと、実幸さんはにっこりと笑って首を傾げる。人懐っこい笑みに思わず息を吐くと、僕は言葉を続けた。
「……彼女は千馬茜さん。僕たちの1個下で、明け星学園で会計と書記を務めてくれています」
「あっ、あぁっ、茜ですっ。不束者ですが、その、よろしくお願いしますっ……!!」
「は~いっ♡ 私は小波実幸! 貴方の頼れる魔法少女です♪」
「それ定型文なんですか?」
「口上とか好きなんだよ、こいつ。……俺は春松夢。まあ、適当によろしく」
適当に自己紹介も終わらせたところで、僕たちは今度こそ言葉を探しに歩き始めるのだった。




