刹那の仲間
……結論から言うと、僕は負けた。ことごとくボコボコにされた。
「なんなんですかこの人は……」
「はは、常識なんて全部無視したチーターだよ」
倒れる僕を楽しそうに見下ろし、そう告げる春松くん。他人事だと思って……。
僕は実幸さんの使う魔法に振り回された。突然飴が降ってきたり、重力が上下入れ替わって空に落ちそうになったり、地面が水みたいになったり、コンクリートが歌い出したり、実幸さんも歌い出したり……訳が分からない。
なんか半分、ファンタジー世界の演劇を見せられた気分だったが、普通に戦ってもいたし普通に負けた。混乱したまま負けた。終わってからも意味が分からない。
「でも、付いて行ってたんだからすげぇじゃねぇか。俺には無理だよ、あんなん」
「そうなんですか」
「俺は計算して追い詰めるタイプだからな。奇想天外な、想定外のことに弱いんだ」
確かに春松くんと戦った時は……僕の弱点を分析され、とことん追い詰められた。本当に容赦なくて、本気で死ぬと思ったくらいだ。……最終的には勝てたけど。
先程の実幸さんとの戦いを思い出す。……うん、相性悪そう。
「そうですよ~!! 灯子ちゃん、いい戦いをさせてくれてありがとうございました♡」
すると僕の横に降り立った実幸さんがそう告げる。「ちょっと調子に乗って好き勝手しすぎたので、バランス戻してきますね!!」と謎のことを言って姿を消していたのだが……戻って来たらしい。
そして魔法のステッキを僕に当て、痛いの痛いの飛んでいけ。この世で一番使われているおまじないを唱える。春松くんにも何回かされたことあるな……と思いながら、僕は起き上った。
「……そんなに健闘出来た気がしませんが」
「私の前に10分以上立ててただけ、すごいですよ~!!」
「それ自分で言うんですか……」
確かにこの人は強い、というか強いという次元をもはや超えている気がするが、それにしても自覚があるんですね……。
「それで……戦ったわけですけど、満足したんですか」
「そうですね!! 結構満足出来ました!!」
「それなら良かったです……」
「先程の疑問の答えも、分かりましたしね」
先程の疑問? と僕は首を傾げる。それは……「貴方はどうやって運命を変えたのか」ということだろうか。ぶっちゃけ、まだその言葉の意味を僕はよく分かっていないのだが。
実幸さんはニコッ、と笑うと──僕を真っ直ぐに見つめた。
「貴方は、〝神様〟なんですね」
「……は?」
一体何を言っているんだ、と思ってしまう。いや、会った時から今までずっと思ってるけど。
神様、って。……一体、どういう意図でそれを言っているんだ。僕が、僕がもし神様なら。
僕は何も間違えなかった。ののかは死ななかった。言葉は傷つかずに済んだ。僕は、僕はっ……。
「僕は……そんなものじゃない」
「そうですね、厳密に言うと違います。貴方は人間です」
絞り出した声に、あっさりそう返される。は? とまた声が出た。
「貴方の異能力は、望むものを消し去りリセットをすること、そして、望むものを生み出し新たな概念を生み出すもの。……それはまさしく、神がする所業だとは思いませんか?」
「……つまり僕自身というより、僕の持つ異能の話、ってことですか?」
自らの手に目を落とす。「A→Z」──手に届く範囲のものを消す異能力。「Z→A」──一度消したことがあるものなら生成できる異能力。後者は、ののかから貰った異能力だ。
「限りなく近い、と言えば良いでしょうか。貴方は主人公。そのような異能力を手にしたことも、物語の運命を変えたことにも、きっと意味がある」
「……」
「すみません、急にこんなことを言われても困ってしまいますよね」
僕が訝し気な表情をしていることを悟ったのだろう。実幸さんは眉を八の字にしながらそう謝ってくる。……まあ、困惑はしている。
「分からないところで死にはしません。そういうことがあるんだ~、程度に思ってもらえればいいです!!」
「ここまで意味深なこと言っておいて、まとめ方それでいいんですか……?」
「いいんです!! 今の一連の会話や戦闘は、私が一方的に理解するためのものでしたから!!」
「僕に何1つ得がないじゃないですか……」
「得ならありますよ。──私は、貴方に協力します」
その言葉に、僕は顔を上げる。そこには、優しく、しかし強く微笑む実幸さんがいた。
「灯子ちゃん、私は、私たちは、言葉ちゃんを助け出したいという貴方の目的に協力します。貴方が迷えば道を示し、貴方が倒れればまた立ち上がる際の手助けをし、時には障壁にだってなりましょう。貴方の物語に登場する、刹那の仲間として」
よろしくお願いします! と実幸さんは僕に手を差し出した。その手と顔を見比べ、僕は思わず春松くんを見る。すると彼は一瞬だけ目を見開くと、すぐに微笑んだ。
そして実幸さんの隣に並び、同様にこちらに手を差し出してくる。いやそういうことじゃなくて。……手を取る、でいいのか?
僕は両手を差し出すと、右手は実幸さん、左手は春松くんと握手をした。
「……よろしくお願いします」
相変わらず謎のテンションには付いて行けてないが、とりあえずそれだけ返す。実幸さんは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「それじゃあ、行きましょうか! ……と、言いたいところなんですけど」
手を離すと、実幸さんは僕から視線を外す。促されるように僕もそちらを見ると……そこには、見慣れたツインテールが電柱から覗いていた。あれ、隠れているつもりなのだろうか。
「彼女は、貴方のお知り合いですか?」
「……千馬さん?」
僕がそう呼ぶと、そのツインテールは大きく飛び上がった。
一方その頃、生徒会室では。
「千馬、あいつ……こんなに仕事が溜まってるのに、一体どこに行ったんだよーーーーッ!!!!」
……副会長である墓前糸凌が1人、そう憤っていた。




