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明け星学園 2winkle Stars☆  作者: 秋野凛花
エピローグ
57/59

世界の中心は

 茜を見送った僕は、ぼーっと空を見上げていた。生徒会室に戻ってもいい……というか戻らないと生徒会長はいい御身分ですねと言われるのが目に浮かぶ。だけど今はこうして日向ぼっこをしていたかった。……まあ現実逃避がしたいだけだ。


 あと5分、と心の中で言い訳がましく唱えていると……ふと日差しを遮る影が1つ。こちらを覗き込むキョトンとした顔は、愛おしい人のものだった。


「言葉」

「……茜ちゃんは。一緒にお昼食べるって言ってたけど」

「急用があるって出かけたよ。しばらく帰ってこないんじゃないかな」


 そう、と言葉は淡々とした声で相槌を打つ。言葉は腰を折るのをやめて僕の隣に座るので、僕も空を見上げるのをやめて隣を見つめた。


「ジンは?」

「……心音《こころね》ちゃんが遊んでくれてる。聖《ひじり》さんとかも来てて、髪に花刺して飾り付けてた」

「ああ……」


 瀬尾《せお》先輩が苦笑いを浮かべてほどほどにしてくださいね、と言っていそうな状況だ。容易に頭に浮かぶ。


 心地の良い風が頬を撫でた。もうすぐ夏が来るから、木が日陰になってくれているとはいえこんなにゆっくり過ごせるのも、今だけだと思うけど。


 手を差し出す。言葉は僕が差し出した手を一瞥した。


「暑くなければ、手を繋いでもいい?」

「……いいよ」


 僕が問いかけると、言葉はゆっくり手を伸ばして……そして、指を絡めてくれる。繋いだ言葉の手は、僕より少しひんやりと冷たかった。


「大好きだよ、言葉」

「……うん」


 いつもの言葉、いつもの返事。うん、今日も日常だ。その幸福に浸っていると──ふと言葉が、僕の手を少しだけ強く握った。


「……私も、好き」


 時間が、止まる。


 恥ずかしいことに、僕は数十秒言われたその言葉を頭の中で反芻して、そして反芻するたびに思考を停止させてしまっていた。そのループから抜け出せたのは、恥ずかしそうに頬を赤く染め不満げな表情をした言葉の、その声を聞いたから。


「……もう言わない」

「わーーーーっっっっごめんなさい違うんです嬉しさのあまり思考が止まっちゃっただけなんです」


 僕は慌てて手を握り返し、必死にそう弁解する。ふぅん、と言葉は相変わらずどこか不満げに息を吐き出した。


「……私のこと、好き?」

「好き。すごく好き。大好き」

「……必死」

「必死にもなるよ、貴方に伝えるためなら」


 そう、と言葉は呟き……本当に小さく、微笑む。その表情が、本当に綺麗で、可愛くて……涙が出そうになった。

 笑って、くれた。


「……そうだね、私も、伝えたい。伝え、ないと……ちゃんと」


 言葉は深呼吸をして、そして、僕を見つめる。


「……1回しか、言わない」

「……うん」

「……灯子、あのね、貴方のことが……大好き。いつも……いつも、一緒に居てくれて、私のこと……好きって言ってくれて、ありがとう。私は……あの時より、貴方のことを、信じることが出来ている」

「言葉……」

「……こんな私だけど、これからも、私と……生きてくれますか」


 息を呑む。葉の隙間から覗く日の光に照らされ、その深紅の瞳、その奥がきらきらと煌めいていた。

 ああ、涙が出るほどの光景だ。どんな名画より、僕にはこれがいい。


「……生きるよ。ずっと、ずっと貴方といる。貴方がいい。貴方じゃないと、ダメだ」

「……重い」

「嬉しいと思ってくれてるの、知ってるよ」

「……うるさい」


 言葉はそう言って僕を軽く睨みつける。だけどすぐにその顔を解いて、微笑んで。……手を絡め直す。上向きの恋人繋ぎ。

 まるで2人で、共に祈っているような。


「……愛してます。貴方と、生きたい」

「……うん、僕も、愛してるよ」


 貴方が笑ってくれている、生きたいと願ってくれているここが、この世界の中心だ。……僕は冗談でもなく、そう思った。



「……ねぇ、灯子」

「ん、なぁに?」

「良ければ、なんだけど。……ののかちゃんのお墓参り、私も、一緒に行ってもいいかな。……今まで一緒に行ったこと、なかったから」

「! うん、もちろんだよ」

「それで……その後、ワンピースを買いに行こうよ」

「うん……うん」

「……もう、なんで泣いてるの」

「だって。……言葉がそう笑ってくれるのが、嬉しくて」

「……人の顔、ジロジロ見ないでよ」

「見るよ、大好きな人の顔だもん」

「……」

「ねぇ、ワンピース、お墓参りに行く前に買いに行こうよ。それでののかに見せてあげない? ちゃんとこっちでも見つけたよって」

「……うん、そうだね。その方が良いかも」

「それじゃあ、行こうか」



 共に立ち上がる。確かに絡まった指が、貴方がここで生きていることを教えてくれていた。


 風が吹いて頭上の葉たちが音を立てて揺れる。……そういえば僕たちの始まりも、こんな木の下からだった。貴方と出会った日を、いつまでも鮮明に覚えている。

 覚えていよう、ずっと、そして新しい記憶を更新していこう。



 これからも愛おしい貴方と、貴方のお陰で出会った人たちと、生きていく。このどこまでも眩い、煌めく世界で。

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