木陰の本心
そして千馬さんも、ジンと行動を共にすることが多かった。いつも僕の背中に隠れていた千馬さんが、ジンの背中を追いかけて何かあれば注意しているし一緒に遊んだりしてくれている。その様子はまるで姉だった。ジンは……やっぱり急成長したりしていたけれど、基本的には小学生くらいの見た目で過ごしているから、余計に。
彼女も言葉と同様、ジンをきっかけとした他の生徒との関わりが増えているようだ。お陰で生徒の話から生徒会の仕事が増えることもあった。嬉しい半分泣きたい半分だ。
千馬さんは戦いながら僕に色々話したお陰か、人との関わりが増えたお陰か、表情が少しすっきりしたような気がする。清々しい、澄んだ空のような。過度な慌て方をしたりしないのも、精神的な余裕が出てきたからなんじゃないかなと思う。
……なんかこう振り返ると、あの日を経て結構変化した部分が多いかもしれない。前言撤回させてもらおう。結構変わった。たぶん、少しずつでも、いい方向に。
千馬さんに誘われて辿り着いたのは、校庭が見渡せる大きな木の下だった。大きな木に見合う大きな葉っぱが見事に太陽を隠していて日陰になっており、もう夏に片足を掛けた季節にも関わらず、涼しかった。
「あ、ど、どうぞ。その、味は保証しません」
「そこは保証してほしいですけど、ありがとうございます」
そして差し出されたのはお弁当。なんと千馬さんは自分の分だけでなく、僕の分の昼食も作ってきてくれたらしい。いや、別にいいんだけど、これ僕が昼食を持参していたり誘いを断ったらどうするつもりだったんだろう。
ちなみに言葉には「千馬さんとお昼食べるね」と言ってある。わかった、と一言だけ返ってきていたので、彼女もどこかで自由に食べているだろう。きっとジンも傍にいるんだろうし、昼食を抜くなんてことはしないと思う。
いただきます、と手を合わせてお弁当の蓋を開ける。中には色とりどりのおかずとおにぎりが入っていた。おにぎりはクマの顔になっていて、視覚的にも楽しい。見た目的には美味しそうだ。
「……うん、美味しいですよ」
「よ、良かった」
これまた顔が付いているタコさんウインナーを食べると、僕は感想を述べる。千馬さんは心底安堵したように口元を緩ませ、自分もお弁当を開けた。こちらも可愛らしい見た目になっている。
そうやってしばらく2人で黙ってお弁当をつつく。校庭には昼休みだから遊んでいたり、木陰で眠っていたり、話していたり、異能力で戦っていたり、様々な生徒の姿が見受けられた。それをボーッと見ながら食べ進めていると、遂に千馬さんが手を止める。
「……まずは、その、お誘いに乗っていただき誠にありがとうございましゅ……」
「え、ああいえ、こちらこそお誘いいただきありがとうございます」
小声で早口で噛みながらお礼を言われ、僕は小さく頭を下げる。噛んだことが恥ずかしかったのか、千馬さんは少し頬を赤く染めながら忙しなく前髪をいじった。
「今日は、ちょっと、あの、会長さんにはあんまり……いや、全く関係ないんですけど……色々話を、したくて」
「良いじゃないですか。時間が許す限りにはなりますが……話しましょう」
僕がそう言って笑うと、千馬さんは再び安堵したように笑う。そしてゆっくり箸を進めながら、彼女は話し始めた。
「……茜、人にお弁当作るのとか初めてです」
「そうなんですか。大変だったでしょう、2人分なんて」
「あはは、まあ……すごく、早起きしました。でもあの、せっかくここまで労力掛けたんだから誘わないと損だろうっていう……自分にプレッシャーでも掛けないと会長さんのこと会話に誘えなそうだったから……」
「ああ、そういう……」
僕が断ってたらどうするつもりだったんですか、と先程浮かべた疑問を持ってくると、夕食にしようかと、と返ってきた。なんか、なんだろう、覚悟しすぎじゃないだろうか。まあ千馬さんらしいが。
「いつでも誘ってください。都合が悪くて断ることもあるかもしれませんが、嫌だとか重荷に感じるとか、そういうことは絶対ありませんから」
僕がそう言うと、千馬さんはどこか照れたように頷いた。
「……茜は、本当は分かってたんです。別に小鳥遊言葉は、その、きっかけにはなったかもしれないけど、でもあくまできっかけで、茜が友達にお別れを告げられたのは、茜が悪かったんだって」
そして脈略もなく、そんな話を始める。本題はこれだったんだな、とすぐに分かった。
「でも茜は弱いから、それを素直に認めることが出来なくて、受け入れることが出来なくて……小鳥遊言葉が全部悪いって、そういうことにしないと……苦しくて、息が詰まりそうだった」
「……はい」
「茜が明け星学園に入学したのは、まあ、こんな異能力を持ってて入学を受け入れられるわけないっていうのもそうなんですけど……明け星学園に行ったら、小鳥遊言葉がいるって……知ってたから。それで小鳥遊言葉に会って……どう、したかったのかな。ちょっと、分からないけど……でも、小鳥遊言葉に会って、この恨みをぶつけたかった。あいつが全て悪くて、それを認めてもらって、それで、それで……ああやっぱり茜は悪くないんだって、そう、思いたかったのかも」
「……はい」
千馬さんは言葉を垂れ流す。きっと頭の中に浮かんだ言葉を、精査せずに外に送り出している。
嘘偽りのない、千馬さんの本心。
「……それで茜の友達が茜の元に戻って来てくれるわけじゃないのに……本当に、馬鹿みたい」
「……」
「茜は、生徒会とかガラじゃないんですけど……会長さんの誘いに乗ったのは、会長さんの傍に居れば、小鳥遊言葉に近づけるかもしれないと思ったからで。……利用するみたいな真似して、すみません」
「いえ……気にしないでください」
僕もやったからな、と心の中で苦笑いを浮かべる。僕の復讐を果たすために、僕は言葉に近づいた。
「なんとなく、分かっていましたから。何か別の理由があって引き受けてくれたんだろうなと」
「……お見通しだったんだ。会長さんは本当にすごいですね」
僕は首を横に振る。だって分かったのは、千馬さんが僕に似ていたからだから。




