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明け星学園 2winkle Stars☆  作者: 秋野凛花
エピローグ
53/59

平和な日常

 今日も明け星学園はいつも通り、平和だった。



「生徒会長!! 明け星学園の生徒が他校の生徒とトラブルを起こしてるみたいで……!!」

「会長、体育館の壁が壊れてしまって……」

「かいちょ~~~~、環境整備委員会の予算を増やしてください! どう考えても足りませんよ~!」

「生徒会長さん、実は相談があって……ちょっと授業について行けないから、このまま私やっていけるのかなって不安で……」


「会長」


「生徒会長」


「会長!!!!」



 そう、いつも通り何かが常に起こっている。



「帰っちゃ駄目ですか」

「駄目に決まってるだろ」

「知ってました」


 隣に立つ墓前《はかまえ》先輩に睨まれながら、僕は淡々と仕事をこなしていた。生徒会長のサインが必要な書類の確認、生徒から寄せられている要望書諸々の確認、直接生徒会室に訪れる生徒たちの話を聞く、部活動や委員会の活動報告の確認、その他色々。

 別に切羽詰まってはいないが、休めるほど楽観視できる量でもない。止まると死ぬ。マグロかな。


 僕が確認する書類の向こう側にいる千馬《ちば》さんも、生徒会室の中心に置かれている低い机の上に書類を広げ、冷や汗を流しながら必死に仕事をこなしていた。……もう僕や墓前先輩が教えなくても、1人で仕事をこなせるようになったらしい。


「ッ、会長さん~~~~ッ、間違えて上下逆にハンコ押しちゃいました……」

「え。あ~……別にいいんじゃないですか、死ぬわけじゃないし」

「え~~~~本当かな……」


 ……もちろん、たまにこうして躓くことはあるけれど。でも過度に泣いたり慌てたりすることは少なくなったんじゃないかと思う。


「副会長、これ風紀委員会に渡して来てもらえますか。1週間以内に提出しに来てほしいってことも」

「分かりました。それ終わったらついでに昼食摂ってきていいですか」

「もちろん。よろしくお願いします」


 墓前先輩は微笑んで頷くと、生徒会室を出ていく。一瞬、生徒会室を静寂が包んで。


「……茜《あかね》も休んでいいですか」

「今生徒会室出ていくとたぶん墓前先輩待ち受けてますよ」


 ひぇぇぇぇ、と千馬さんは悲鳴を上げる。僕は苦笑いを浮かべた。


「あと10分だけ頑張りましょう。そうしたら休憩取って良いですよ」

「はぁ~……い」


 ため息と返事を同時にされる。まあ仕事が嫌なのは分かるが。


 さて、そうと決まれば僕もあと10分頑張るか、と伸びをしたところで。


「……会長さん」

「はい、なんですか」

「良ければ、なんですけど。……一緒にお昼食べませんか」





 言葉《ことは》がいなくなった、ジンが現れた、千馬さんと戦った、あの日から少し経った。一度帰ればあっという間に目の前は日常に戻り、特に大きな変化はない。


 強いて言うなら、次の日に実幸《みゆき》さんと春松《はるまつ》くんが僕の前に現れた。お別れを言いに来たらしい。


「私たちは、世界で〝主人公〟と呼ばれる人の力になり、ハッピーエンドになる手伝いをするという使命があるんです」

「主人公」

「ええ。今回は貴方でした。そして貴方の物語は無事に終わったので、私たちは次の世界に行きます。どこかに、私たちを必要とする主人公がいるから」


 僕はただその言葉を聞く。僕は、主人公だった。……なんだかあまりピンと来ないけれど。


「……頑張ってください」

「はいっ! 張り切って行っちゃいますよ~!」


 とりあえずそれだけ言っておくと、実幸さんは意気揚々と拳を突きあげてそう意思表明をする。先程まで何と言うか……纏う雰囲気が強者そのものだったのに、一気に年相応の振る舞いになっていた。


「つってもずっといないわけじゃないから、一段落付いたらまた帰ってくるよ。その時は顔出す」

「あ……はい。その時は、遊びにでも行きましょう。貸してもらった本も、言葉にちゃんと渡しておきます」

「うん。楽しみにしてる」


 春松くんが優しく笑うので、僕も微笑み返す。少し、いや、かなり寂しいけれど……2人の存在が誰かを救うなら、仕方のないことなのだろう。それに、永遠の別れではないわけだし。

 ……次に会った時に何を話すか。考えておくのも楽しそうだ。


 挨拶を済ませるのは僕が最後だったらしい。2人はそれぞれ魔法の杖を振ると、そこに人1人くらいの大きさの靄が現れる。2人は僕を振り返って手を振り……その中に入って、そして消えた。2人が居た痕跡も、靄も、何も残らなかった。


「……ありがとう。どうか、また」


 空を見上げる。どこまでも透明で光っている青空に、微かに虹が掛かっていた。





 ジンはあれから明け星学園で過ごしている。生徒たちと遊んで、僕たちに付き纏って、基本的には自由にしていた。始めくらいの時に授業や僕たちの業務を邪魔して来た時に小一時間くらい説教したせいか、迷惑行為みたいなことをすることはなくなった。


 というか……どうやら言葉がほぼずっと連れ添って見ているらしく、何かやらかしそうだったら止めている、らしい。僕はそこに立ち会ったことがないから知らないけれど。

 けれど本人に聞いた際、一応親だから、というコメントが返って来た。別に疑っていたわけではないが、聞いていた話は本当のようだ。


 だから言葉が、自室(という名の空き教室)に引きこもることが少なくなった。外に出て、人と顔を合わすことが増えた。


 初め、生徒たちは言葉を避けているようだったけれど……ジンの存在、行動を取っ掛かりに話す機会があった生徒がいたようで、言葉は徐々に生徒たちと話すようになったらしい。相変わらず言葉のことを怖がっている人は多いけれど……でも、僕以外と話す人が増えたという事実は素直に喜ばしい。無理をする必要はないけど、狭い世界で終わるべきでもないとも思っていたから。


 ……まあそういう意味では、ジンの存在に感謝してもいいかもしれない。迷惑行為は許してないけど。

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