友達との思い出
「……なんか脚スースーする」
「……そうだね。私も、そう思う」
「その涼しさが醍醐味だと思うんだけどねぇ」
無事にワンピースを買った僕は、それを着て2人と歩いていた。選んでもらったのは、オレンジ色のワンピース。言葉やののかが着ているものと同じシリーズのものであるらしく、形状も装飾も全く同じだった。
なんかすごく……仲良しの友達同士、って感じだ。上手く言えないけれど、そんな感じがする。
「ねーねープリクラ撮ろうよ! 今日の記念!」
「えぇ、僕、そういうの撮ったことないんだけど……」
「……私も」
「じゃあ2人の初めて……私が貰うね」
「言い方」
なんでそんな湿度のある声で言うんだ。
というわけでプリクラのためにゲームセンターに。放課後ということもあり、中高生の姿が多かった。近くに建てられた看板には「女子オンリーグループ、家族連れ、カップル限定。男子オンリーグループ禁止」と書かれている。
そういえば春松くんとプリクラでも撮るかって話をしたな、とそこで思い出した。……カップルって間違われたくないから撮らなかったけど。
「それなりに混んでるね。少し待つかもだけど、大丈夫?」
「僕は大丈夫。……言葉は?」
「……私も、別に」
言葉の顔を見上げ、僕は思わず息を呑む。……言葉の表情、本当に少し……だが、青ざめているように見えたから。
そこで思い出す。言葉は自分の姿を写真に収められることが苦手なのだと。
「……無理しなくていいからね」
ののかに聞こえないよう、僕は背伸びをして言葉に囁く。言葉は少しだけ目を見開き、それから小さく息を吐くと。
「……緊張は、してる」
「……」
「……無理は、してない」
「……それならいいけど……嫌になったらすぐに言ってね。ののかも気にしないと思うから」
「……うん。分かった」
言葉はしっかり僕の目を見つめて頷く。この様子ならちゃんと言ってくれるな、と思い、僕は背伸びをやめた。
そのまま列に並び、僕たちの順番が近づいてくる。……本当に初めてなんだけど、初めてでも大丈夫かな、と今更ながら僕も緊張してくる。まあののかがいるなら大丈夫かもしれないけど……と考えていると。
「……今日のことは、全て嘘で、消えてしまう出来事だけれど」
「……え」
「今日のことを、ちゃんと、覚えていたいから」
言葉が呟く。その言葉はののかにも聞こえていたらしく、不思議そうに言葉の表情を窺っていた。
嘘でも、残らなくても、それでも、覚えていたい。
……この時間を楽しいって思ってくれているのかな。もしそうなら……嬉しい。
「……買ったやつとか撮ったやつ、持ち帰れたらいいのにねぇ」
「そうだね。でも……持ち帰れちゃったら、きっと、駄目なんだと思う。……上手く言えないけど」
「……うん、私も、そう思う」
「うん……その分、脳にしかと焼き付けようね!!!!」
ののかがそう言って笑う。僕と言葉は大きく頷いた。
周囲が僕たちの会話を聞いて訝し気な表情を浮かべる中、遂に僕たちの番が訪れる。前に撮っていたグループがカーテンを開けて出てきて──。
「っあ、すみません」
「……あ、い、いえ……」
危うくぶつかりかける。その人物の顔を見て、僕は思わず目を見開いた。
だがその人は僕のことなど意に介さず、誰かと共に横を通り抜ける。その会話が、しっかりと耳に届いた。
「もう茜、ちゃんと前見ないからだよ」
「えへへ、ごめんなさぁ~……い」
「茜は相変わらずぼんやりしてるね。……ほら見てよこれ、ちょっと半目」
「えぇっ!? ちょ、やめてよ~!!」
楽しそうな声が遠ざかる。沢山の友人に囲まれ、その中心で笑う。彼女のその様子は……明け星学園で見る彼女とは、まるで別人だった。
「千馬さん」
思わず小さく名前を呼ぶ。もう姿は見えない。
「……灯子」
名前を呼ばれ、僕は顔を上げる。そこにはこちらを心配そうに見つめる言葉の姿があった。
「……ごめん、今行くよ」
僕は言葉に笑いかけると、彼女に駆け寄る。謝らなくてもいい、と言葉は小さく答えた。心配そうな表情を崩さないまま。
「灯子、どうしたの~? 知り合いでもいた?」
「あー……うん、そうだね」
「え、適当に言ったことが当たった」
「気にしないで。今の向こうは、僕のこと知らないから」
それより早く撮ろうよ、と持ち掛ける。500円のプリ代を、誰が何円払うのかじゃんけんで決めて。
お金を入れるとムービーが流れ出し、アナウンスが流れる。その指示に従ってポーズを決める傍ら、僕は別のことも考えていた。
……皆の望みが叶った世界。
だから皆、幸福。それはきっと、千馬さんも。
僕は……千馬さんが何を思って、何を考えているのか、知らない。どうして明け星学園では、あんなにいきいきとした顔をしていないかということも。
何かを抱えているのは分かる。だけど、それだけだ。
僕はあの子のことを、何も知らない。
「知らないと、な」
似ていると思った。あの時の自分に。
復讐だけが僕の全てで、それ以外を跳ね除けようとした。でも出来なかった。だからといって受け入れることも出来なかった。あの時の僕に。
あの時の、僕は。
貴方が無理矢理にでも、僕の心の扉を開けてくれたから。
「……私の顔に何か付いてる?」
「……ううん、このプリクラ、目を大きくしすぎじゃないって思ってさ」
「……本当にね」
僕の感想に、言葉が呆れたように頷く。手元に収められたプリクラ。ののかの手によって超派手にデコレーションされたその写真は、もう実物とはかけ離れている。もはや1周回ってネタ写真だ。
でもきっと、これがいい。
プリをじっくり見て、そして目を閉じて。瞼の裏に灯る夕日の光を感じながら。
目を開く。
「……そろそろ帰ろうか」
僕がそう言うと、言葉は俯き、ののかは笑った。
「──うん、帰ろっか!」




