選んだこと
僕たちは振り返る。するとそこには、見慣れたセーラー服の人物が立っていた。
「墓前先輩」
「どうも。何してるんだ、こんな人気のないところで」
「……糸凌」
隣で言葉が深く息を吸うのが分かる。しかし何かを言う前に、墓前先輩がそれを止めるように手を前に向けた。
「事情はなんとなく分かってる。素で接してください」
先輩にそう言われ、言葉の口からは浅く息が吐き出される。そして次に、そう、と小さく声が零れた。
僕は墓前先輩を見つめる。彼はどこか呆れたような顔でこちらを見つめ返した。
「あの子供が現れた時からなんか、面倒なことになる予感しかしてなかったが、まさかこんな大きなことになってるとは思わなかったぞ。いやマジで、何連れてきたんだお前は」
「あの、子供?」
「お前のことを『母さん』と呼ぶ子供」
ぎく、と肩を震わす。それってもしかしなくても……。
「ジン、墓前先輩のところに行ってたんですか……?」
「あいつジンっていうのか。生きた心地しなかったよ本当に……」
「す、すみません、ご迷惑を……」
「……まあ、それは別にいいんだよ。それより俺は、お前がいて、小鳥遊先輩がいて……一星がいる。このおかしな現状をどう理解すればいいか悩んでる」
「本当にすみません……」
僕は色々端折り、現状を説明した。ジンと一悶着あったこと、それで僕がワガママを言い、この世界を作ってもらったこと。墓前先輩は頭を抱えていた。
「人知を超えた存在って何でもアリだな」
「……何でもアリですね☆」
「その何でもアリな力で生徒会の仕事もどうにかしてくれませんか会長」
「本当にごめんなさい」
もう謝ることしか出来ない。色々な理由で。
「まあ……事情は分かった。どうりで閃も、俺のことをほとんど知らないわけだ」
「え」
思わず顔を上げる。雷電先輩が、墓前先輩を知らない。
「この幸福な世界だと、俺たちは友達になる必要がないんだろうな。閃はいいやつだから、沢山友達がいて、俺は『同じ高校に通っているただの同級生の1人』に過ぎない」
「そんな、そんな酷いこと」
「別にいい。期間限定なんだろ? 俺は……」
声に詰まる僕に、墓前先輩は優しく微笑む。
「幸せだよ。親友が幸せにしてんだから」
例えその隣に、自分が居なくても。
「だからお前がそんな悲しそうな顔するなよ、伊勢美。お前だって……ここが偽物だってことを受け入れて、ここにいるんだろ」
「……はい」
後ろに立つののかに、想いを馳せる。ここから立ち去れば、ののかは居なくなる。
僕は必ず、ここから立ち去らないといけない。そうすることを、選んだのだから。
「何か話途中……だったよな。割り込んでごめん。俺はこの世界を適当に見て回るよ」
「ああ……いえ。仕事がない世界を満喫してください……」
「帰ってからの話はしないでくれ」
「……灯子、どのくらい仕事貯めてるの」
「いや本当にすみません」
「……質問に謝罪を返されても困るんだけど」
言葉に正論を返される。いや、ご尤もです。
その後はまた授業を受けたりお昼を食べたり校内を歩き回ったり、そうしていたらあっという間に放課後になってしまった。校内では部活動をする生徒たちの声が響き渡っている。僕たちはこれからどうするか話し合っていた。
「はいはーい! 遊びに行きたい!」
そして意気揚々とそう言うのは、もちろんののか。両手を上げ、万歳をしながら大きく跳ねている。なんか本当、元気いっぱいだな……。まあそれほど、今こうやって動けていることが嬉しいと思うんだけど。
「どこに行きたいとかある? 今からだとそう遠くは行けないとは思うけど……」
「場所はもう決まってるんだ! ……ちょっと、若干遠いんだけど……」
いいかな? とののかは眉を下げながら僕たちの顔を覗き込む。僕と言葉は顔を見合わせて。
「僕はいいよ。言葉は?」
「……別にどこでもいいから、任せる」
言葉から同意も得られたため、僕は視線を前に戻す。ののかはニコッ! と笑い、左手を腰に添え右手の人差し指を大きく天に突き上げた。
「それじゃあ、ののかちゃんに付いてきちゃってくださいっ!」
そして言われた通り僕たちはののこに付いていった。学校を出て、少し歩いたところにあるバス停からバスに乗って、電車に乗って……何かを間違えたらしくののかがスマホ片手に半泣きで踵を返し、別の電車に乗ってからの到着。
「ここって……」
「懐かしいね」
僕は視線を横に向ける。ののかは柔らかく微笑んで。
「私、あの日のこと……ずっとずっと、心に大切に残ってる」
だから、とののかは言葉を見つめて。
「今から言葉ちゃんと遊ぶのも、私のもっともっと大切な思い出にするっ!」
「え、あ、」
そう言うとののかは言葉の手を取る。そのまま駆け出したので、言葉は少し驚いたように体勢を崩してから慌てて走り出した。
1人取り残された僕は、その背中を見送って。
「え、えぇ、ちょ、置いて行かないでよ……!!」
思わず手を伸ばしてから、慌てて続いて走り出す。
──僕たちがやって来たのは、ショッピングモール。僕とののかが一緒に遊びに行った、あのショッピングモールだった。




