ワガママ
でも今度からはちゃんと話を聞いて、勝手に色々やらないこと。と僕たちはジンに念を押す。はぁい、とジンは間延びした声で答えた。
となると、言葉をこうして取り返せたわけだし、元の世界に帰ってもいいんだろうけど……。
「……ねぇ、言葉、ののか」
「ん? どうしたの~?」
「……何」
ののかと言葉がそれぞれのテンションで答える。2人の顔を見比べ、僕は告げた。
「少しだけ……ワガママを言ってもいいかな」
僕のその言葉に、2人は不思議そうに顔を見合わせた。
「……ワガママってこれ?」
「えっと……駄目、だったかな」
「別に……駄目とは思わないけど」
さっきジンにああ言った手前なのに、と言葉が呆れ混じれに呟く。僕は言い返すことが出来ず押し黙り、少し目を逸らした。
「まあまあ! 私も言葉ちゃんと学校生活してみたかったんだ☆」
「……そう」
ののかはそう言って言葉の腕に抱き着く。すると言葉は少しだけ驚いたように体を硬直させ、そして相変わらずの淡々とした口調でそれだけ返した。
そう、僕が言った「ワガママ」とは……また、先程まで見ていた学校生活の続きをすることだった。今度はののかだけじゃなくて、言葉も一緒に。
……僕が上手くやれば、この3人で共に学校生活を送ることも出来たはずだから。
少しだけでいい。少しだけ、まだ、都合のいい夢を見せてほしいのだ。
「というわけで言葉先輩! 今日は生徒会長のお仕事はおやすみ! 私たちと一緒に遊ぼう~!」
「……ここ、私が生徒会長ってことになってるの?」
「さっきは言葉のポディションだったところに、都合よく他の人が当てはめられてたから……ここに言葉がいる以上、言葉が正規の立場にいるんじゃないかな」
そう、と言葉は呟いてスマホを取り出す。そしてどこかに連絡をすると。
「……あっ、もっしも~し! お疲れ様! うん、生徒会長の小鳥遊言葉だよ☆ ……今日のお仕事だけど、ちょっと大事な用事があってね? だから今日はお任せしちゃってもいいかな」
相変わらずの切り替えで、ハイテンションで話を進める。どうやらこの世界では他に生徒会メンバーがいるらしい。……そして許可が貰えたのか、ありがとう! と言葉は電話を切った。
「……これでいい?」
「言葉ちゃん、お仕事おやすみ出来て偉いっ!」
「……そんな撫でられるようなこと、してないけど」
再びローテンションになった言葉の頭を、ののかが全力で撫でる。僕は苦笑いを浮かべ、というかののかは言葉に敬語じゃないんだ……いや言葉は気にしてないみたいだし、いいけど……と考えたりした。
するとそこで、カツ、カツと足音が聞こえる。なんとなくこちらに訴えかけられているような気がして、僕は振り返った。
「……実幸さん、春松くん」
「こんにちは♡ 貴方の魔法少女、実幸ちゃんですっ!」
僕が名前を呼ぶと、実幸さんが笑って手を振る。春松くんは小さく頷くだけだった。
「お2人とも、どうしてここに?」
「そりゃ、勝手なこと色々されていますから、様子を見に来たんです」
そこで実幸さんがすぅ、と目を細める。あ、やば。と背筋が一気に冷えたが、もうやりたいことはやってしまったので後の祭りだ。
……と思っていたら、実幸さんは小さく息を吐く。それだけでその場に走った緊張は一気に弛緩された。
「まあ灯子ちゃんのことは信頼していますので、私たちは見なかったことにします。私たちは私たちでこの世界を楽しむので、そちらも心行くまでどうぞ」
「い……いいんですか」
「良くはないですね。だから見なかったことにするんですよ」
実幸さんはそう言って踵を返す。しかしすぐに半身だけこちらを振り返り、ぱちんとウィンクを決めると。
「実幸ちゃんはハッピーな展開を推奨していますので!」
「あっ、おい。……んじゃ、そういうことだから」
そして駆け出す実幸さんの背中に、春松くんが慌てたように声を掛ける。そしてこちらに軽く挨拶をすると、彼女を追って駆け出してしまった。
その場に取り残される僕たち。えーっと、とののかが呟いて。
「……せっかく許可貰ったことだし何しよっか?」
「うーん、どこか出かける? ……言葉は何かしたいことある?」
「……別に、特にないけど……学校の外に行ったら、学校生活してるとは言わないんじゃないの」
「確かにそうだね……」
「夕方になったら放課後に学外で遊んで……! みたいなのも青春だろうけど、まだ昼間だからね~」
「……というかそもそも、私は3年生で2人は1年生なんだから、あまり生活リズムも合わない気がするんだけど」
「え、でも僕、言葉とは結構過ごした記憶が……」
「言葉ちゃん、よく灯子に会いに行ってたもんね!」
「……」
言葉はふいっと目を逸らす。その耳が少しだけ赤くて、かわいいなぁ、なんて僕は目を細めた。
「……ま、もともと明け星学園は授業システムとかが自由な学校だし……あんまり学年とか気にしなくていいよね」
「……2人がいいならそれでいい」
「私もOK! ……じゃあじゃあ、私のやりたいこと発表してもいい?」
「いいよ」
はい、一星さん。と僕は挙手をした生徒を指名するように手を差し出す。ののかは笑って大きく頷いて。
「私、授業を受けたい!!」




