断片
「明け星学園」は、世界で唯一の異能力者のみが入学できる高校だ。そういうこともあり、この高校では普通の勉強の他に異能力に関する勉強もすることになっている。異能の使い方とか、異能を使ううえでの倫理観とか、そういうものだ。
更にこの高校では大学のような授業システムが取り入れられている。自分で自由に授業スケジュールを組むことができるのだ。それを上手く使い1週間に1、2回しか学校に来ない人、昼間は働いているため夜間にのみ授業を入れている人。様々な人がいるらしい。僕の場合は、普通に必修とか取りたい授業を昼間に入れて……。
「灯子〜、次の授業どこだったっけ?」
「204教室だよ」
「さっすが灯子! 記憶力がいい〜!」
ののかと同じ授業を受けるようにしていた。
もちろん全てが同じというわけではないけれど、8、9割は被っているんじゃないかと思う。お陰で授業のグループワークとかはののかとできるので、とても楽だ。
……こんな日が来るなんて、思ってもみなかったな。
中学時代、ののかは入院していた。学校には全く行くことができず、だけど彼女は治療を頑張って、勉強も頑張って、満を持して高校で復帰して──。
今こうして、一緒に授業を受けることができている。なんて幸せなのだろう。
僕は授業道具をまとめ、席を立つ。そしてののかの横に並び、一緒に歩き始めた。
入学してから、それなりに時間が経った。中学生の時とは大きく違う授業スタイルにも慣れ、校舎の構造も覚えてきた。正直、ののか以外の友達はいないけれど……委員会にも所属して、話す人はそれなりにいる。
僕はののかと出会ったから、多少だけど、人と関わる良さを知った。なかなか友人関係を広げるための行動までは至れていないけれど、初心者の僕にとってはこれくらいが丁度いいのかな、と思う。
それに対し、ののかは持ち前の明るさとコミュニケーション能力で、あっという間に人脈を広げていっていた。お陰で「伊勢美さんだよね? いつもののかちゃんから『本当に優しくて素敵な子で~』って話は聞いてるよ!」と言われることも多く、嬉しいやら恥ずかしいやらだった。
本当にののかは、僕のことが大好きなんだな……とうぬぼれでも何でもなく、心の底からそう感じられた。
「伊勢美さん」
声を掛けられ、顔を上げる。……するとそこには、同じ学年の女の子がこちらに手を差し出して立っていた。
「課題のノート、回収するみたいだから出してくれる?」
「あ、はい。……どうぞ」
「ありがとう。……一星さんも貰うね」
「はーいっ!」
ののかはノート1つ手渡すだけでも意気揚々としている。隣で苦笑いを浮かべていると、ののかがあっ!! と大きな声をあげた。
「爪、綺麗にネイルしてあるね~!! ……さてはさては~? 放課後、彼氏くんとデートかなぁ?」
「んなっ!! ……そ、そうだけど……」
ののかがニヤニヤしながら指摘をすると、女子生徒は一気に顔を真っ赤にしつつも、それを肯定した。そして恥ずかしさを誤魔化すよう、クリーム色の髪を指先でクルクルと絡め始めて。
「きゃ~っ、素敵っ!! ねねっ、灯子もそう思うよね!?」
「えっ、ああ……そうだね、誰かと想いが通じ合うことは、とても幸せなことだと思う」
「ま、真面目なコメント……って!! 一星さん、茶化すのやめてよ……!!」
「茶化してるんじゃなくて、本当に素敵だなって思うの!! やっぱり心音ちゃんと帆紫くん、お似合いのカップルだもん!!」
──……。
「そ、そうかな」
「そうだよ~っ!! 放課後、いっぱい楽しんでね!! 私、楽しみにしてる……!!」
「なんで一星さんが楽しみにするのか分からないけど、ありがとう……?」
細かいことは気にしな~い! とののかは笑う。女子生徒は──心音さんは、苦笑いを返した。
彼女はノートを回収するという本来の目的を果たしたため、僕たちの元を去っていく。その背中を、僕はジッと見守っていた。
「灯子、どうしたの?」
「え?」
「何か気になることでもあった?」
一体僕はどんな表情をしていたのか。ののかが少し不思議そうにそう尋ねてくる。僕は首を横に振った。
「……ううん、特に何もないよ」
「そう? それならいいけど」
それと同時に、授業開始のチャイムが鳴り響き先生が教室に入ってくる。僕は思考を授業に切り替え、先生の指示通り教科書を開いた。
授業も終わり、僕たちは次の授業に向かうため廊下を歩いていく。同じく次の授業まで移動しているのか、廊下には色んな生徒の姿があった。
「──でね!! その時ネコちゃんが飛び出して来て~」
「ののか……ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」
僕より少し前を歩くののかは、こちらを見ながら歩き、そして楽しそうに話している。楽しそうなのは結構だが、見ていてヒヤヒヤするのでちゃんと前を見てほしい。
と、思っていたら。……案の定と言うべきか、ののかはうぐっと小さく悲鳴を上げるとその場ですっ転んだ。ああ、言わんこっちゃない。
ののかの筆記用具やら教科書やらが床に散らばる。それなりに人も通るし、早く拾わないとと僕がかがむと。
目の前に伸びる影。顔を上げると、そこには1人の男子生徒が。何も言わず、せっせとののかが落としたものを拾ってくれた。
「……これで全部かな。君、大丈夫?」
「いったぁ~……だ、大丈夫れす……」
男子生徒はののかに手を差し出す。ののかは目を回していたが、すぐにその手を取ると起き上った。
「わっ、拾ってくれてありがとうございます! えっと、貴方は確か生土先輩!!」
「えっ、俺のこと知ってるの?」
ののかはその男子生徒の名前を呼ぶ。すると彼は──生土先輩は驚いたように目を見開いた。
すると後ろにいた男子生徒たち──恐らく生土先輩の友人たち──が、「よっ、閃人気者!」と茶化すように声を掛ける。やめろよ、と生土先輩は軽く笑った後、ののかに拾った荷物を手渡した。
「はい、ちゃんと前を見て歩かないと危ないからね」
「はーい、ごめんなさい……あの、陸上部で活動してるの、よく見てます! 頑張ってください!」
「あ、だから俺のこと知ってたんだ。……ありがとう、これからも頑張るよ」
ののかのコメントに、生土先輩は爽やかな笑みを浮かべる。そう言われて僕は思い出す。そういえばこの人、なんか大会で賞取ったって人か、と。なんせののかが僕にそう教えてきたので。
ののかって本当、人のことよく見てるよな~……と、生土先輩と挨拶を交わして別れるののかを見つめながら、僕はそう思うのだった。




