方向性
「そういえば調査と言えばなんだけど、小鳥遊の異能反応とお前の現在位置が重なっていたことについて、何か心当たりはないのか?」
「ああ、そのことなんですけど……」
泉さんに問いかけられ、僕は今日あった出来事について話していく。言葉の話を聞いていると、突如黒い人影が現れたこと。それは人や建物──主に建物の方を襲っていたこと。僕たちが戦って難を逃れたということについて話していった。そして泉さんから電話が来たのは、ちょうど撃退が終わった後だということも。
「……単純に考えると、その黒い人影が小鳥遊、ってことだよな」
「そうなりますよね」
「あの女も大胆なイメチェンをしたもんだな」
「もはや大胆とかいう話じゃないでしょ……」
忍野さんの雑なボケに泉さんが同じく雑なツッコミを入れる。僕は無視をし、口を開いた。
「でも、全然言葉らしくなかったですよ。攻撃も、殴るとかそういう感じでしたし……言葉の異能力、『Stardust』を使われている感じはしませんでした。春松くんはあれを、『小さな粒子の塊』って言っていましたけど」
「小さな粒子の塊……うーん……」
「あの女の異能力も、文字を操るってものだ。限りなく小さくしたら小さな粒子と言えるだろ」
「まあ一理あるね。ただ……」
「理由が分からない。言葉に何のメリットがあってそんなことをするのか」
僕がそう言うと、泉さんと忍野さんは黙る。どうやら2人も同意見のようだ。
「今の言葉は、もし何かを傷つけるような行動をするなら、自死を第一にするはずです」
「とんでもねぇことをあっさり言うな……」
「そう簡単に払拭できるような感情ではないと思うので、仕方ないですよ。……それより、あれが言葉の異能力で生成されたものだというなら、言葉の行動理念と上手く噛み合わない。少し前の言葉なら他傷も、まあ彼女が傷つける範囲に含まれるかもしれませんが……小学校も中学校も、特に異能力者が多く所属している場所ではありません」
「そうなると……」
僕はふと、横を見つめる。そこには相変わらず暗い表情で退屈そうに小さく欠伸をしている千馬さんの姿があって。
「……千馬さんはどう思いますか」
「ぁぐっ、ッ!?」
突然話を振られたことに驚いたのか欠伸をした口のまま悲鳴を上げ、なんだか苦しそうな声が押し出される。
「なななっ、なんですかっ、急にっ」
「いや、暇そうなので」
「ああああ茜は小鳥遊言葉のことは別にどうでも良──」
千馬さんはそこまで言って、目の前に座る2人で視線を止める。自分が見られているということを自覚したのか、ぶわっと一気に汗をかくと。
「ッ、そ、その、ぇっと、あっ! ぁ、操られてる、とかぁ……?」
「そうですね。第一に考えられるのはそれでしょう」
上ずった声でそう告げた千馬さんの意見を肯定すると、彼女は露骨にホッとしたように息を吐く。聞いてないかと思った、とボソッと忍野さんが嫌味を言い、千馬さんはまた大きく肩を震わせる。
一応同意見なのか、泉さんは特にそれを咎めることなくただ苦笑いを浮かべた。しかしすぐに真剣な表情に戻ると。
「第二に考えられるのは、小鳥遊の異能力を意図的に模倣している人物がいる」
「可能なんですか?」
「理論上はね。異能反応を調べる機械って、所詮『なんかこれってあの人の異能っぽいな』っていうのが分かるだけだから」
「……と言うと?」
「うーん、なんて言うんだろう……えっとね、『ドレミファソ』って音階があるとして、ピアノで鳴らすのとギターで鳴らすのでは、音は同じだけど元は違うじゃん」
「はい」
「この、『ドレミファソ』は分かるんだけど、その楽器の区別までは精密には分からない……って感じ……」
泉さんの例え話はだんだん小声になっていく。なんか、分かるような、分からないような。
「……千馬さん、分かりましたか」
「分かるような分からないような……」
「ぜんっぜん分かんない!! 説明ヘタクソ!!」
「へ、ヘタクソ」
ずっと黙っていたジンもたまらなくなったのか、非難の声をあげる。泉さんは肩を震わせ、ショックを受けたように眉を八の字にする。ふ、と忍野さんが小さく馬鹿にしたように笑った。
「ま、DNA鑑定や指紋鑑定みたいに個人が一発で特定されるようなレベルまでまだ到達していないってことだな」
「なるほど……そうなると、結局理由は分かりませんね……」
忍野さんの簡潔な説明に納得する。詳しいことを言われるより、そのくらい端的な方がむしろ分かりやすい。忍野さんの隣で泉さんは分かりやすく落ち込んでいた。
だが生憎彼に構っているほど僕は暇じゃない。僕は顎に手を当てて少し考えてから、顔を上げる。
「それなら、次の出現を待った方が良いでしょうか。言葉がやっているにしろ、誰かが模倣をしているにしろ、近くにいる可能性が高いですよね」
「そうだな、今のところ、それが一番の有効打かもしれない」
「あの女の自作自演ならとっ捕まえて解決、模倣犯ならそれをとっ捕まえて居場所を吐かせて解決、ってことだな」
「まあそう上手くいくとは思いませんが……とにかく方向性は決まりましたね。ありがとうございます」
「何か、策はあるのか」
「……」
立ち上がる僕に、泉さんが静かに尋ねる。僕はそれを黙って見つめ返し、小さく息を吸った。
「僕の推測が正しければ──言葉の過去の話をするたび、黒い人影は現れます」
「……」
泉さんは黙って僕を見つめ返す。そしてすぐに眉をひそめ、次に微かに青ざめて。
「……今じゃねぇか」
「今ですね」
「ここ襲われるの、控え目に言っても困るんだけどぉ!?!?!?!?!?」
泉さんが悲鳴をあげると同時、轟音が響き渡り部屋が大きく揺れた。




