〝本物〟の魔法使い
「さて、どうしよう」
明け星学園の外に出たはいい。情報を大人しく待てるほど僕は大人ではないため、足を使うと決めたはいい。
問題はノープランなことである。
手掛かりはゼロ。犯人の予測すら立てられない。そもそも目的はなんだ? いや、言葉はかなりの人から恨みを買ってそうっていうのはそうなんだけど……にしても、何か情報を絞る手掛かりにはならない。
活動し始めて約10秒。手詰まり。
「……」
少し考える。仕方ない。起こってるであろう事件の手掛かりが無いのなら──事件が起こっていない、という可能性を検証していくことにしよう。
そう、言葉が自分から居なくなった可能性だ──いやそれもそれで事件ではあるんだけど──彼女が危険に晒されていないのならそれに越したことはない。
そう思った僕はスマホを取り出し、とある人に電話を掛けた。
「久しぶり、伊勢美。秋以来か?」
「お久しぶりです。春松くん」
僕が電話をかけたのは……春松夢くん。言葉の昔馴染みであり、異能力者であり、魔法使い。僕が対異能力者特別警察に協力していた時、すごいお世話になった。
……僕の訓練が終わった時以来、会ってなかったけど……まあ、色々(※僕の復讐、言葉が起こした事件等)あったからな……。
それはともかく。僕が電話をして事情を説明すると、彼は魔法でここまで文字通り飛んできてくれた。魔法使いらしく、箒に乗って。
「で? 言葉さんが突如姿を消したと……」
「そうなんです」
「犯人の目星は?」
「付いていません。手掛かりゼロです」
「そうか……」
春松くんはその場で腕を組み、うーんと悩む。……そして長考の末、握りしめた魔法の杖。
「……〝言葉さんの居場所が分かるようになーれ〟」
いつも通り、気怠げな魔法の呪文。
これで本当に魔法が使えてるもんだから、すごいよなぁ……と僕がそれを見守っていると。
「おっと」
春松くんが小さく呟き、魔法の杖を勢い良く投げる。僕がそれに驚いていると……なんと、魔法の杖が勢い良く燃え始めた。
「えっ、な、何ですか」
「伊勢美、これ、かなり面倒なことになってるぞ」
「面倒なこと?」
「一筋縄じゃいかないってことだ」
地面の上で燃え尽きてしまった魔法の杖を見つめながら、春松くんは肩をすくめる。いや、魔法の杖が燃えてしまったら魔法が使えないのでは……と、とりあえずそっちを心配していると、春松くんは制服のポケットからスマホを取り出した。
「……あー、俺だ。どうせ今暇だろ? 来いよ」
「え、え」
「そうだな……簡単に言うと、『俺たちの本来の役割をこの〝世界〟で果たす時が来た』」
一体何の話だ、と思いながら聞いていると、春松くんは電話を切る。
「すぐ来るぞ」
「いや……一体何の話……」
「いつか言っただろ」
戸惑う僕に構わず、春松くんはニッ、と笑って。
「今度、〝本物〟を紹介してやるよって」
それは、そう。初めて春松くんに会った時。春松くんの魔法を見て、感心していた時……。
言われたのだ。俺は魔法使いとしてはへっぽこだ。今度紹介してやるよ、〝本物〟ってやつを。と。
「は~いっ!! 呼ばれて!! 飛び出て!! じゃじゃじゃじゃ〜んっ♡ 貴方の頼れる魔法少女!! 実幸ちゃん、参上っ☆」
……そして頭上から、誰かが降ってきた。
「わーん!! だってだって!! 久しぶりにお役目果たせるのが嬉しくて!! 私は強すぎるからお前が出るとややこしいことになるって夢からすっごく止められて!! 私だって灯子ちゃんのこと支えたかったのに夢ばっか美味しいとこ持ってって私は存在匂わされるだけで終わってそもそも本編だって本来は私が主人公想定だったのに『動かしやすいから』って理由で夢に語り部変わっちゃって」
「メタいメタいメタいやめろ。余計話がややこしくなる!!」
「いったぁい!! 暴力反対!! ぎぶみー優しさ!!!!」
「お前みたいなアホは頭叩いてそのアホさを吐き出させるほうが良いんだよ!!!!」
……頭の上に人が降ってきて軽い脳震盪を起こしている僕の目の前で、春松くんと1人の少女が言い合っている。声が響くからやめてほしい……。
僕は額を手で抑えながら、その少女を見つめた。……黒い髪を肩くらいまで伸ばし、その左側頭部にはピンク色のリボンの髪飾りが付いている。そしてどこかの制服を身に着けていて、その胸元には特大ピンクリボンが付いていた。すごい、リボン…………。
……春松くんの言うことが正しいなら、この人が、〝本物〟……。
「あーあー夢が乱暴に叩くせいで頭痛いなぁ!!!! これはマズイなぁ!!!! 病院行かないとなぁ!!!!」
「これ以上アホになるってことか?」
「アホじゃないもん!!!!!!!!!!」
……本当に?
すると僕の視線に気づいたのだろう。少女がぱっと顔を上げ、大きな瞳で僕のことを見つめて。
「ほ、ほーら夢。灯子ちゃんが戸惑ってるよ? 早くお話進めないと」
「……それもそうだな。伊勢美、悪かった」
「いやそれもそうですけど貴方には謝ってもらいたいんですが」
「え!? 激オコ!? わーーーーっ、ごめんなさい〜〜〜〜っ!!!!」
僕が少女を睨みつけると、少女はあっという間に土下座をする。プライドってもんがないのかこの人は。
呆れる僕をよそに、春松くんはプッ、と吹き出して。その少年のようなあどけなさに僕が戸惑っていると、春松くんは少女の背を叩いた。
「土下座されても困るだけだろ。早く顔上げろって」
「うぅ……」
春松くんに促され、少女は顔を上げる。その額は勢い良く地面に打ち付けたせいか、少し赤くなっていた。




